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第百四十四話

後悔するのはあれで最後だと思っていた。

けれども後悔と言う物は、後から後から湧き上がってくる。

自分の中で消化し、次へと活かすための糧に出来たと思っていたのに、今こうして逃げてきてしまった。

 そして今まで思っていても実行できなかった事を、今になって後悔していた。

「イレギュラーだって、分かってたくせに………」

この世界で、本来であればこうして生きていなかったはずのイレギュラー。

この世界とは別の世界別の人間として生きた記憶を持つ異物。

この世界に求められていない、ただ託された想いと過去に縋り付く亡霊。

こんなに悲しませる事は想定していなかった。

こんなに心配されるなんて想像もしていなかった。

こんなに、誰かに大切に思われてるなんて思ってもみなかった。

心配してくれたことは嬉しいし感謝もしてる。

けれどこんな大事になるなんて…………。

守れれば良かった。

幸せだと笑ってさえいてくれればそれだけで良かった。

 だというのに、俺は俺自身の欲を優先してしまった。

幸せだと笑うその姿を近くで見たいと思ってしまった。

直接その姿を見て、一緒に笑っていたいと夢を見てしまっていた。

ルイーナ・ファウストの持っている力を己の力と思い込みそして過信していた。

以前は持っていなかった力があって、その力があれば今度こそ守りたかった人達を救えると……。

だけど、全部間違っていたのだ。

あの男から言われたように、己の行動はすべて無意味でただ守るべき子を危険に晒しているだけ。

それでもどうにか挽回しようと動いたけれど、結局はそれも裏目に出てしまった。

眠っている間に起きた出来事は、もう朧気でただこの世界のルイーナ・ファウストに託された想いだけが今もこの胸の中で消えること無くそこにある。

その時に何かを見て聞いた気がするのに、何故か思い出すのはこの墓地以上の冷たさと、懐かしさと心地よさを感じていた気がする。

「守らなきゃ、護れなきゃ意味ないのに………」

 前提として、己は寂しいと独りで居たくないという過ぎた願いを優先してしまった。

護ると言いながら護ると何度言われただろうか。

こんな事になるなら、皆から嫌われるか何かして陰に徹すればよかったのに。

なのに欲を優先したがために護りたい者が増え、同時にその護るべき者を危険に晒してしまった。

 女々しいとか意気地なしだと自分でも思う。

グズグズとしている面倒くさい奴だと言うことも、俺自身よく理解している。

けれどつい考えてしまうんだ。

護ると言われる度に、心配したと涙を流させてしまう度に、不安と後悔と怒りとが混ざり合って………もう訳が分からなくなっているんだ。

 ボロボロと涙が流れる。

拭う気力もなくて、石碑を背にその場に座り込む。

このまま消えてしまいたいという思いが涙が溢れる度に強くなっていく。

「………ピュイ」

「レディ?」

 そんな時、ふと膝を抱え蹲っていた己の肩に暖かな温もりが触れた。

そしてその温もりは己の頭に擦り寄り小さく声を溢した。

大丈夫だと寄り添うように。

独りじゃないと言うように。

「ごめん………、ここまで来るのは疲れたでしょう」

「ホウ」

埋めていた顔を動かし彼女の方を見やれば、彼女は知的な瞳を優しく細めその柔らかな体全身を使って温もりを分け与えてくれている。

「………レディ、本当に俺なんかでいいの?

きっと危険な目に合だろうし、こんな面倒くさい俺について来たって楽しくないかもしれな……いたッ!」

「ホーーーゥ!!!」

 それ以上は許さないという様に彼女は大きく翼を広げ、嘴で頬を突かれた。

いや、突くと言うより抉るに近かった。

馬鹿な弟を叱る姉のようなレディに、思わず笑ってしまった。

それに更に頬を突くレディ。

怒ってるのよ!と声を出す彼女に、一度笑ってしまった後ではどうしても抑えられなくなってしまった。

先までこのまま消えてしまいたいと思っていたはずなのに、彼女の温もりが優しさが寄り添ってくれると感じてしまえば、そんな考えは温かさに包まれ緩和されていったよう気さえする。

冷たさが心地よかったはずなのに、今は逆に寒さが恐ろしく感じている。

ここまで感情の突起が激しい事があるだろうか?

情緒不安定という言葉が頭に浮かんだが、それさえも彼女の温かさに溶けていった。

「ふ、ふふ……笑ってごめんって。

レディは温かいね」

「ホォゥ……」

 呆れたと言いたげに嘴での訴えは止めてくれたけれど、彼女は絶対に側を離れずにいてくれた。

その温かさに、先とは違う意味で涙が溢れた。

「ありがとう」

「クルルル………」

 人差し指で彼女の嘴下を撫でれば、不服そうではあるものの喉を鳴らし目を閉じた。

そのまま暫く彼女と戯れていれば、足音が聞こえてきた。

初め足音が聞こえてきた時はビクリと肩を震わせたルイーナだったが、次第にハッキリと聞こえてきた足音に体の力を抜き再度彼女と戯れる。

「寒くないんです?」

「レディが温かいから」

「おぉホントだフカモフ」

 片手を上げヒラリと振りながら現れたのは精鋭の彼だった。

どうしてこんな所に、とかなんで独りでなんて聞かずにただ日常会話のように穏やかに彼はルイーナの隣に座りレディを撫でその柔らかさに感嘆の声を溢した。

「よくここに居るって………」

「兄の勘ってやつですよ〜」

「ふふ、すごい勘だ」

 涙を流し、更には様々な感情がせめぎ合ったせいかトロリと目を蕩けさせ寝ぼけたような声を出すルイーナ。

「眠そうですね〜」

「んん〜………ねえさんとにいさんが、いると安心し、ちゃって……」

 ふにゃりと気の抜けた顔で笑うルイーナ。

その言葉の通り安心しきったと言う表現がピタリと当てはまる表情であった。

「あらら、じゃあぎゅーってします?

なーんて………わぁお」

「んぃ」

 お巫山戯で言ったセリフだったが、疲れが全面に出てしまったルイーナにとってその誘いは甘い誘惑にも近しかった。

広げられた両腕に誘われるように倒れ込むようにして抱きついたルイーナは、反射的に抱きとめられた精鋭の腕の中で微睡みだした。

温かいと声を溢し自身の腕の中、頬を胸に擦り寄せ嬉しさを惜しげもなく全面に出すルイーナのその姿に、精鋭は初め驚きに目を見開いたものの次いでその瞳に愛しさを滲ませルイーナの髪を梳くようにして優しく撫でた。

「寝てもいいですよ?…………おやすみルイーナ」

 自身の温もりを惜しげなく分け与えるように抱きしめれば、その口元に笑みを浮かべルイーナは緩やかに夢の世界へと旅立っていった。

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