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第百四十三話

 レオーネから半ば逃げ出すような勢いで拘束を振り切ったルイーナ。

荒れる息と早鐘を打つ心臓を何とか落ち着け本来の目的である学園を覆う魔法を展開させた後、教室を移動中でカイル・ダミアンと再開し彼にも涙を流させてしまった。

心配したと語る彼をどうにかなだめ、後日また茶会を開こうという話で解散となった。

カイルはまだ言い足り無さそうではあったが、ルイーナの顔色が見るからに悪かったために後日という形で引いてくれたのだ。

普段であれば涙を流し心配をかけてしまった子供に対してこれでもかと甘やかすルイーナであったが、今回はカイルのその優しさに甘えさせてもらった。

 そうでもしなければ、何とか耐えていた醜態を晒してしまいそうであったから。

学園の敷地を出たルイーナは誰もいない場所を目指し走った。

秘密基地として今は教師に扮しているためこの場にはいない二人が置いてくれたあの場所にも今は行きたくはなかった。

今は無性に、誰もいない静かな場所が恋しかった。

それこそファウスト家の裏手にある森、動物達もおらずフィンとも出会う前に過ごしていた森の冷ややかな静けさが恋しかった。

目的地もなく、ただ我武者羅に走り続けたルイーナが行き着いた先は、この国の南部に存在する第零墓地であった。

何故第零というのかは誰も知らない。けれども取り壊されることもない不思議な場所。

ただ一つ、ルイーナの背丈よりも大きな、誰の名も書かれておらず一言『安らかに』と掠れた文字が踊る石碑が立っている。

あまり人が近寄る事のないこの場所は、白い石材が石碑までの一本道を作っておりその周囲は朱い花々、彼岸花が美しく咲き誇っていた。

 この場所の存在は知ってはいたが、実際に来るのははじめての場所。だが不思議とその場の空気や雰囲気はルイーナの荒れていた心を落ち着かせた。

冬場でもないのに、冷たい空気が肺を刺す。

肌寒く耳に痛いほどの静寂の中、ルイーナは覚束無い足取りでフラフラとその石碑に近付いた。

この場の道と同じく真っ白な石碑に触れれば、ひんやりとした冷たさが掌全体に広がっていく。

心地よい冷たさと静けさに、ルイーナの心が落ち着きを取り戻し様々な感情がせめぎ合いグチャグチャだったのが次第に解れていった。

「…………初めから、間違ってたのかも知れない」

 そして誰に聞かせるでもなく言うでもなく、ただ溢れたその言葉は酷く弱々しく、普段のルイーナからは考えられない程の幼さを感じさせた。

「こんな事になるなら、初めから関わらなければ良かったんだ」

 イレギュラーな存在で、この世界で本来ならいない人間。

けれどもルイーナ・ファウストに彼の家族とその者達の未来を託され願われた。

ルイーナ、東自身も嘗て失った家族というものを今度こそ守りたいと思った。

イレギュラーである自身を受け入れ、信頼を寄せてくれる仲間や自身を友と呼んでくれた者達を守りたいと思った。

前と違い、この世界での己には力があった。

前はこの掌からこぼれ落ちたものを掬えるような、そんな大きな力が。

 だからこそ過信していたのだ。

この力があれば救えると慢心していたのだと、氷の中で眠る前と目覚めた後に痛いほど痛感させられた。

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