第百三十五話
何処か遠くのことのようだった。
『どういう事だ?』
『ボス、プレガーレから国王陛下へ。
ファウスト家の長男ルイーナ様は現況に拐われたファウスト家の次男アルバ様の奪還のため交戦。
激問の末、苦渋の決断から魔道具を破壊。
溜め込んだ魔力を開放し撃退したものの放出された魔力量から人体に取り込むのも困難。
また、魔力を放置した場合に魔力酔いや他者の魔力暴走を引き起こす可能性を考慮しその魔力全てを使っての鎮火を達成』
『何故、ファウスト家の次男が狙われた?』
聞こえてきた言葉が夢であって欲しいと思った。
これは夢で現実ではこんな厄災のような事は起こっておらず、目を覚ませばこんな悪夢から開放されるんだとそう思いたかった。
『ボス、プレガーレから国王陛下へ。
元凶の狙いは魔力量の多い検体の確保。
この国内でも魔力量が多く幼い子供であれば尚更検体としても魔力量が増える兆しのない大人よりも使える可能性が高いと判断されたもよう。
そのため、ファウスト家の次男であるアルバ様が狙われたと推測』
『確かにファウスト家の次男は魔力量が多かったな。
だがそうであるならば、同じくファウスト家の長男が狙われそうだがそれについてはどう考える』
けれども、これは、今目の前で起こっていることも友が親友である彼が行ったであろう事を聞いているのも、紛れもない現実であった。
『ボス、プレガーレから国王陛下へ。
ファウスト家の長男ルイーナ様は発生当時にファウスト家で放たれたキメラの対処を行っており、その場にいた騎士団員の一人と共に交戦。
その間に会場内にいた者は全て避難させていた事から同じく避難していたファウスト家の次男アルバ様が先に見付かったと推測』
敵はルイーナも狙っていたと続いた男の声が、恐ろしく感じた。
ただ淡々と事実を述べるその口が憎々しいと思った。
男は態度こそふざけているが、纏う雰囲気は只の連絡係にしては歪であった。
まるで此方が男に対して警戒しているのを面白がるようにコロコロと変えるのだ。
何も感じさせない無の時もあれば、此方の警戒心を煽るかのようにその存在を大きく見せるようにしてくる時もある。
普通はそんなに頻繁に変えることは出来ない。
出来るとすればそれは熟練の暗殺者かそれ相応の実力者に他ならない。
国王がそんな男に対して此方のように警戒もせず思案している様子から王が信頼する程の実力者ではあるのだろう。
『ふむ…………、城内に残っていた全騎士に伝達!
怪我人の手当と救護に当たれ!
料理長達は民に食事を用意せよ!
防壁の者達はそのまま警戒を緩めるな!
必ず民を救え!』
『『『『『『はッ!!!』』』』』』
城を震わすほどの声が放たれた。
国の王として、そしてこの国と民を愛する者の一人として放たれた言葉は重くそして同時にこの状況をどうにかしたいと思っていた者達に、絶望していた者達の目に再び炎を燃え上がらせてみせた。
けれども、動かなきゃいけないのに、俺の体は一歩たりとも動いてはくれなかった。