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第百三十二話

 今を生きる彼等彼女等をゲームのキャラとしてしか見ていなかった己が恥ずかしい。

現実を現実のものとして捉えずにいた己の考えの浅さに呆れすらする。

少し考えれば分かることであったのに。

「もう大丈夫です。ありがとうございます」

「…………あぁ、分かりました」

 不意に腕を軽く叩かれ、思考の海から意識が現実へと引き戻された。

反射的に返事を返したのはいいものの、ルイーナから離れようとしたオスカーはピタリとその動きを止めてしまった。

どうしたのかとルイーナは首を傾げ僅かに持ち上がったオスカーの顔をチラリと盗み見る。

そして覗き見た彼の顔は、まるで苦虫でも噛み潰したようななんとも言えない表情をしていた。

「えっと、如何がなさいました?

もしや体調が優れない……」

「なんで、敬語なんですか」

「はい?」

「さっきまでは敬語じゃなかったのに………」

 幼子の様に頬を膨らませ唇を小さく突き出したオスカー。

再び鎌首を持ち上げそうになる母性___ルイーナの場合は母性では無く父性なのだが___を何とか押し留め数回咳払いをしてオスカーへと改めて向き直った。

「しかし殿下………」

「殿下じゃないです」

「ですが………」

「敬語も嫌です」

 ジトッと座りかけている目で見上げてくるオスカーに、今度はルイーナが目を反らした。

額から一筋の汗が流れ、ルイーナはブルリと身を震わせた。

どうすればと周囲に助けを求め見回すも、ルーチェとアルバはニコリと笑みを浮かべるだけで流されてしまった。

教師に扮している二人はこちらにサムズアップし親指を立て、こちらも笑って焦るルイーナを眺めている。

……誰も助けてはくれなさそうだ。

「………周りに他の生徒がいないときだけでいいなら」

「本当ですか!」

「うおっ?!」

 小さく息を吐き、意を決してそう口を開けばオスカーは本当かとルイーナに詰め寄った。

ズイッと頭突きでもする気かと言いたくなるほどに勢い良く顔を近付けてきたオスカーに咄嗟に頭を背後に反らすことで衝突を避けたルイーナ。

首が変な音を立てた気がしなくもないが、それよりもルイーナは自身の目の前で瞳を輝かせるオスカーの方が重要だった。

何故ここまで懐かれたのかは分からない。

あの茶会でのことだけでここまでなるか?というのがルイーナの疑問だった。

「目、腫れてないな。良かった。

オスカーはカッコいいから、腫れてたりしたら勿体ないなって思ってたんだ。

まぁイケメンはどんな顔でもイケメンなんだろうけど…………。

ん?どうした?」

 僅かに目尻に残っていた涙を拭いながらそう声を掛けるが、つい先程まで話していたはずのオスカーはパクパクと口を開閉させるだけで声を出していなかった。

「あ、またお兄様の無自覚の犠牲者が」

「兄様は天然ですから諦めましょう姉様」

「あらら、分かってたけど効果は絶大みたいだね?」

「まぁ正面から聖母か何かかと言いたい程の笑みとあんな声を掛けられればそうなるでしょうね」

「めっちゃ喋るじゃんどうした?」

「なんて???」

 本当になんて??

ルーチェ?犠牲者って何さ。

またって事は他にもいるの?

アルバ?

諦めるって何を?何を諦められてるの俺?

そしてロベルトはどうした??

凄い早口で話すから殆ど聞き取れなかったんだけど?

ジュラルドに至っては分かってたって何さ。俺は何も現状を分かって無いよ。

説明を下さい。

「あ、あの!ル、ルイーナ様………」

「様なんていらないよ。俺の事もルイーナって呼んでくれないか?

勿論、敬語もなしで」

 取り敢えず周囲の不可思議な言葉や言動は置いといて、先のちょっとした仕返しにそう言って見たけれど、オスカーは顔を赤くさせたり眠そうな目をしたりと忙しそうに百面相している。

お前もどうしたー?

「な、ならルイーナと………。

その、私と友人になってくれませんか?」

 恐る恐るという様にこちらを上目遣いに見やるオスカーの言葉に固まった。

「やっぱりだめですよね……。

我儘言ってすみませ……」

「いや、もう友になった気でいたから恥ずかしいなと思っただけ。

こんな俺でも良いなら是非」

「はわっ………」

「はわ……?」

 口に両手を当ててはわわと声を零すオスカー。

今日は皆が皆いろんな顔したり忙しい日だな?と何とも言い難い空気に居た堪れなくなっていると、急にオスカーが大声でルイーナの名を呼んだ。

「ッーーーー!!友として!これから宜しくルイーナ!!」

「お、おう?よろしく??」

 取り敢えず、王太子殿下改めオスカー・バージルという友人が出来ました。

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