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第十三話

何とか帰りの馬車にも耐え、無事に家に帰ることが出来た。

「お帰りなさい兄様、姉様」

「ただいまアルバ」

「ただいま〜……」

「兄様は、大丈夫そうでは無いですね」

「もう暫くたてば治るから大丈夫だぞ…」

やっと乗り物から開放され愛しい弟の待つ家に帰ってこれた。

茶会の会場では帰りのことも考え何も食べてなかったからか、安心したらお腹が空いてきた。

「それと兄様、父様が呼んでます。もし体調が優れなければ後でもいいとの事ですが………」

「今から行ってくるよ。教えてくれてありがとう」

申し訳無さそうに俯くアルバの頭を撫で、身嗜みと呼吸を整える。

ルーチェはどうするのかと思ったが、どうやらルナちゃんに手紙を書くらしい。

母と相談して家でのお茶会をする日程でも相談するのだろう。

階段を登り、行き慣れた父の執務室へと向かう。

扉をノックすれば父の声で入室の許可が出る。

だが、父の執務室の中には父以外の誰かがいる気配がした。

父が誰かを執務室に通しているのに他の誰かを呼ぶなんて記憶の中では一度もなかった。

という事は俺とその誰かを会わせようとしているのか?

あの父の事だ。恐らく身体の弱い長男は政略結婚の道具としてさっさと他の権力者又は貴族とのパイプ役として使いたいのかもしれない。

それとも国を守護する騎士団に入らせるか皇帝陛下や王太子殿下を守護する護衛騎士団に入れる気なのかもしれない。

身体が弱いのは魔力をコントロール出来ても中々治ることはなかった。

風邪はひきやすいし悪化もしやすい。二ヶ月に一回は倒れるし………。

魔力を制御できれば身体の方は何とかなると思ってたんだけどな。

「失礼します」

もし俺の予想が当たっていたらなんて言って逃れようか。

騎士団に入ればルーチェやアルバの側にいる時間が短くなる。

そしてそれは俺の目的であるヒロインと攻略対象のフラグやアルバの闇落ちフラグを折り塵も残さず破滅させることが出来なくなってしまう。

「来たか」

「彼がご長男の……?」

「そうだ」

「初めましてルイーナ・ファウストと申します」

執務室に入れば父と、その父よりも若い男性がいた。

この国のシンボルである金の狼が吠える姿が描かれたマントを羽織っていることから、彼が騎士団に所属している事がわかる。

これは俺を騎士団に入らせる気か?

「初めまして。私は護衛騎士団副団長のノックス・クレメンテ。今日は君に話があってここに来たんだ」

「私にですか?」

その言葉にチラリと父を見るが、父は所謂ゲンドウポーズのまま俺と目を合わせてくれなかった。

矢張り父は俺に興味はないんだろうな。

「君に頼みたいことがあるんだ。本来なら私達騎士団が行うべきなんだが」

「頼み事ですか?騎士の方が私に?」

「そう。ここに住む君の弟妹(ていまい)達の事だ」

俺の弟妹……アルバとルーチェの事で騎士団の副団長が俺に頼み事?

ルーチェもアルバも学園に入学するまで騎士団と関わるような話は無かった筈だ。

学園に入学する前に事件に巻き込まれはしたが、騎士団はその事件の後で名前だけは出てきたが二人にではなく、犯人を連れて行く時にほんの少し出てきただけだったと記憶しているが……?

「近頃子供を狙った誘拐事件が少なからずこの国で起こっている。

特に魔力量が多い子供が狙われ奴隷商に引き渡され他国で高値で取引されている。

そして奴等の次の狙いは神の愛娘であるルーチェ嬢だと先日捉えた者が話した」

「………その捉えた者に仲間の場所を聞くか主犯の場所を吐かせれば解決するのでは?」

「我々もそう考え尋問したが、所詮はゴロツキの寄せ集め。

それ以外の情報も主犯の顔や名前も何も知らなかったよ」

「でしたら何故私に頼み事など?

特に武力に長けているわけではなく魔法が上手いわけでもありませんが」

「ハハハ、ヴァレリオ卿から君の話はよく聞いてるよ。

護衛騎士団の前団長であるヴァレリオ卿に引けを取らない将来有望な人材だとね」

………前護衛騎士団の前団長?

ヴァレリオ卿が?

「ヴァレリオ卿は厄災級の魔獣と戦った時に片足を負傷し以前のように動くことが出来なくなってしまった。

その為自分から団長からも騎士団からも降りた。

戦いからも身を引いて笑わなくなったあの人が君の話をする時は本当に楽しそうに笑うんだよ」

………知らなかった。

護衛騎士団の団長だったことも、片足を負傷していることも。

「だからこそ君に頼みたいんだ。本来護るべき子供にこんな事を頼むべきでは無いのは分かっている。

だが、君にしか頼めないことなんだ」

優しげな笑みを浮かべている顔が一転し、真剣な表情で話す彼に無意識に背筋が伸びた。

「近くで護衛していては奴等を一網打尽には出来ない。これ以上の被害者を増やさない為にも早く捉えなければならない」

「それは、二人を囮として使うと言うことですか」

「申し訳ないがそういう事になる。だが近くで護れないだけであって離れた場所からの警護は勿論行う!

ただ近くで護ることが出来ないから対処が遅れてしまうだろう。

だからこそ君に君の弟妹を私達が到着するまでの間で良い、時間を稼いでもらいたい」

………なるほどな。

その誘拐事件の犯人を確実に捉えるために高い魔力を持つアルバと神の愛娘であるルーチェを近くで護り、騎士が到着するまでの間の時間稼ぎをしろと。

俺なんかのちっぽけな力で護りきれるのか……?

だが、今ここで断ったとしても誘拐されるかもしれないという不安の種は残る。

そもそも、この誘拐事件はもしかしたらアルバの最初の闇落ちイベントじゃないか?

ルーチェと王太子のイベントの暫く後に誘拐事件が起こり、季節を跨いでから二人が誘拐されていたと思うが時系列が狂っている?

それともゲームでは語られていなかっただけで、本来は今の時期にイベントは起こっていたのかもしれない。

「分かりました。私などの力で良ければ協力させていただきます」

「すまない。必ず護り犯人を捕まえると誓おう」

右拳を心臓に当て協力すると言えば、騎士様も同じ様に頭を下げ誓いをたててくれた。

………それを父は矢張り何も言わず黙って見ていただけだった。

「では、また後日詳細を伝えよう。

疲れていただろうに急に呼び出して済まなかったね」

「いいえ、お気になさらず。

それでは失礼します」

静かに扉を閉める。

「ルイーナ……」

扉が閉まる直前に聴こえた何処か苦しげな父の声は、只の俺の幻聴に決まっている。

早く部屋に戻って素振りか筋トレをしよう。

時間は有限だ。敵は待ってはくれないのだから。





「何も言わなくて良かったのですか?」

「何を?……あの子は私を恨んでいるのに、今更何をしてやれる?」

「父親として話せば良いんじゃないでしょうか」

「今まで父親らしいことを何一つだってしてやれなかったんだ。

それにルイーナは、私のことを『父様』とは呼んでくれないんだぞ……」

悲しげに歪められた顔はファウスト家の当主としては情けない姿だった。

だがその目は、確かに子を想う父親の目をしていた。

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