第百二十二話
ガックリと肩を落とし項垂れたルイーナだったが、そんな彼を横目にジュラルドはロベルトへ目配せをした。
そしてジュラルドの言わんとする事を瞬時に理解したロベルトは項垂れるルイーナの手を取った。
「ルイーナ様、こちらへ」
特に抵抗するわけでもなく、ルイーナはロベルトに引かれるまま足を動かした。
カラン……、と彼の手に持ったランタンが音を響かせる。
「範囲は小さくていい」
「分かりました」
ジュラルドの言葉に頷いたロベルトは、再度手に持ったランタンを揺らした。
だがそのランタンからは先と同じような音は鳴らず、それよりも目を疑うような光景が彼らのやり取りを見ていたルイーナの目の前に広がった。
「はぇ~………」
まるで元からそこにあったかのように、ファウスト家の屋敷よりは小さいが、それでも十分な広さを持つ一軒家がなんの前触れもなく目の前に現れた事にルイーナの口から何とも情けない声が溢れた。
「やっぱり便利〜、流石ダンジョン性」
「……ダンジョン?」
暫くの間、口を開き目の前をボーッと見ていたルイーナの耳に感心したようなジュラルドの声が聞こえてきた。
「ダンジョンの下層で見付かった宝箱から出た魔道具なんですよコレ。
自動で温度調節可能で家具付き。しかも自衛機能もあるからモンスターに襲われることもない」
「えっ、凄い。
………お高いんでしょう?」
「流石ルイーナ様お目が高い!
これ程高性能な物は国一つ買える値段でしょう!
で・す・が!今回なんとタダ!」
「しかも今なら認識阻害の結界付きですよ?」
只々凄いという感想しか頭になかったルイーナは、某通販ショップの様な返しをしてしまった。
流石にこのネタはわからないかと、特に返しを期待していなかったルイーナの思いはいい意味で覆された。
テンションも高く、片手でその家を指し示し声高らかに言葉を返したのはジュラルドだった。
しかもジュラルドの声に合わせて何処からか取り出した無料!と書かれたプラカードを掲げるのはロベルトだ。
何処から取り出したのか、そのテンションの高さはどうした等など聞きたいことはあるが、ルイーナの口はポカンと開いたままで、思わずといったようにパチパチと自然に手を叩いていた。
「認識阻害の結界はロベルトの魔法ですけどね」
「あぁ、だから範囲がどうのって言ってたのか……」
「ダンジョンで手に入れたんで実質タダですけどね。
中も凄いですよ〜」
早く早く〜、とルイーナの背を押すジュラルド。
彼にしては強めに力を入れて、その言葉通り早く自身を家に入れたいようだった。
珍しいなと思いつつ、ルイーナは押されるがままにロベルトが開けてくれたドアの先へと入っていった。
「…………」
そしてルイーナとジュラルドが家の中に入ったのを確認したロベルトは、何度か周囲を見渡すと彼らに続き家の中へと入っていった。
「何事もなく、なわけ無いですよね。
ルイーナ様ですし……」
ただ扉が閉まる刹那に小さな声で呟かれた言葉。
すぐに扉は閉められたが、まるでロベルトの言葉に答えるように風が吹き木々の葉を揺らした。
その音はまるで、何かの笑い声のようだった。