第百二十一話
学園アルブスは元々は古城を改良したものだった。
遥か昔、厄災によってその殆どを壊された城は過去を忘れない為にとそのまま残されていた。
だが先代の王がその城を子を育てより良い未来のためにと学園としたのだ。
過去を忘れないようにとの想いはそのままに、人の手を加えたものは少なく、殆どが当時のままだ。
だからこの学園の周りには膨大な土地が、
嘗てのまま広がっている。
ファウスト家の裏の森よりも広いその場所は、魔法戦士を目指す子供のための訓練場だったり、騎士を目指す子供のための屋外訓練場として使われている。
それだけでなく、温室や庭園なども作られている。
それだけ施設があっても、その土地全てを活用できている訳では無いのだから、その土地の広さがどれだけのものか想像出来るだろう。
森の奥深くには行かないようにと注意されてはいるが、逆にそれは子供の関心を引き寄せるんじゃないかと思う。
現に今日だけで三人が森で迷子になり、教師陣が救護に向かっていたのを見た。
校長にも言ってはみたが、子供の危機管理や好奇心によって自身の身を危険に晒すことを身を以て学ぶことも大切だろうと笑っていたから、言葉には出さなかったが、この校長も腹黒い面もある狸だったのだと分からされただけだった。
伊達にこの学園の長をやっているわけでは無いという事か。
その時の事を思い出し、つい口元に笑みが浮かぶ。
そんな中でもルイーナの足は迷うこと無く森の奥深くへと入っていく。
ファウスト家の裏にある森であれば、ルイーナが森に入って暫くすれば動物達が集まってきてくれるのだが、この森にも動物達が居るようだが寄っては来ない。
警戒はしているが、好奇心なのか監視的なものかは分からないが見張られている感覚がある。
決して近くにいるわけではないが、目の届く範囲で見られている。
人とは違うその視線がどこか擽ったい。
「おまたせ。待たせてごめん」
「待ってませんよ。それよりも体調のほうが大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
奥へ奥へと進んだその先で、仄かな橙色の明かりと共に暗がりからジュラルドとロベルトがルイーナへと声を掛け彼を迎え入れた。
「ルイーナ様の大丈夫は大丈夫じゃないから信用は出来ないなぁ~」
「ほ、本当だよ?」
ルイーナへと駆け寄り大丈夫なのかと心配の声を掛けるロベルトに笑みを返したルイーナだったが、駆け寄ってきた彼の背後からゆったりと近付いてきたジュラルドの言葉にバツが悪そうに目を逸らした。
「ふ〜ん、まぁそういう事にしておきましょうか」
目を細めたジュラルドに、ルイーナは自身の背中に汗が伝うのを感じた。
「と、取り敢えずその話は置いといて!
今日はここに関することを話し合うんでしょう?」
その視線に耐えきれず、しどろもどろになりながらもルイーナは話しを無理矢理打ち切り、ここに来た目的である方へと話しを変えた。
それによりジュラルドの目が更に細められたが、流石に気の毒だと思ったのかルイーナにバレないように静かに首を振るロベルトによってため息と共に、その目は何時もの彼のものへと戻った。
「………でも、戻ったらちゃーんと検査受けてくださいね?」
「はい……」