第百十九話
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「うわッ?!」
「ホッ!」
だが唐突に、ルイーナの意識は物語の中から現実へと引き戻された。
それは一重にルイーナの腹部に寄り掛かっていた筈の彼女が、本を持つルイーナの指を甘噛みではあるものの、その硬い嘴で噛んでいたせいだった。
「ど、どうした?」
「ホッ……………、ピュイッ!!」
「えッそんな声出せたの?…………って何々?!」
初めて聴いた甲高い彼女の声に驚くルイーナだったが、彼女は尚もルイーナの指を不満げに噛み続けている。
正確に言うのであれば、先よりも少し強めに………。
本を読み始める前はあんなに機嫌も良さげだったのにこの短時間で何かあったのかと目を白黒させたルイーナは、指を離してはくれたものの未だ不満げにこちらを見上げる彼女の小さな体を両の手で包むように自身の目の高さまで持ち上げた。
「ほんと、急にどうしたんだ?」
「ピュイッ!!」
彼女の顔を覗き込むように首を傾げたルイーナのその問いかけに、彼女が指差したのは__彼女の場合は翼でだが………___
部屋に取り付けられていた時計だった。
時刻は午前一時。
夜の静けさは増し、真上にあった月も傾いてきている。
「…………もしかして、早く寝ろってことかな?」
ルイーナのその言葉に、寧ろそれ以外に何があるのかと呆れたような仕草を器用に熟す彼女に苦笑を零す。
「ごめんね。つい読みふけっちゃった。
もう寝るよ」
「ホゥ………」
栞を挟み、パタリと本を閉じたルイーナに満足した様に彼女は一声鳴いた。
手から降ろされた彼女はルイーナへと何度か擦り寄ると、彼女の為に用意された止まり木へと飛んでいった。
ルイーナがフクロウの彼女とこうして共に部屋で暮らしていること、彼女の事を知らない者からすれば、その止まり木は部屋の幅を取る大き目のインテリアとしての観葉植物にしか見えない。
だが、なんで急にこんな物を?と疑問に思う者は少なからず存在する。
現にアルバやルーチェに、どうして急に?と質問を受けた。
その時は、単に気に入ったからでだと説明したが二人は何処か納得していない様子だった。
「おやすみ」
彼女が止まり木に止まったのを見届けたルイーナは、そう声を掛けてから部屋の明かりを消して肩まで毛布を被った。
明日、いやもう今日になってしまったがルイーナにとっては初めてだが、ルイーナになる前の彼からすればゲームで知っている学園へと入るのだ。
諸事情により入学式に間に合わなかったということで、アルバとルーチェのいるクラスに配属される。
あまり無茶はしないようにと散々会う人会う人に言われてしまった。
学園にはジュラルドやロベルトが、学生等ではなく非常勤の講師として名前と顔を変え潜入している。
非常勤のため、学園で講師として仕事がない日は魔法で姿を隠し学園内の見回りを行う予定らしい。
彼等の場合、元は騎士団団長と副団長だったことや顔の良さも相まって多くの人々が彼等を知っている。
顔を隠していなければ動くこともままならないだろう。
顔を隠して行動したほうが、彼等も楽に過ごせるだろう。
何事もなければいいが……………。
そんな事を考えながら、肩口まで上げていた毛布を掴み口元まで覆い隠す。
そうすれば、その温かさが体を柔らかく包み込みすぐさま眠気が襲いかかってきた。
ルイーナはその襲いかかってきた睡魔に抗うこと無く自身の身を委ねた。
……………その数分後、部屋にはルイーナの小さな寝息だけが聴こえていた。
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