第百十七話
「ホーウ」
「やぁレディ。夜の散歩はもう良いの?」
「ホー」
「そっか」
バサリと羽音と共に窓枠へと降り立ったレディに、ベットから起き上がったルイーナがそう問いかければ再度一声鳴いて返事が返ってきた。
「少しそこで待っててね」
言ってルイーナはベットから降りて戸棚からタオルを取り出しレディへと近寄った。
その動きを静かに目で追っていたレディは、タオルを持って近寄ってきたルイーナが差し出した手に自身の爪が当たらないようにと、そっと片足を持ち上げた。
タオルの繊維が爪に引っ掛からない様に優しく、そして丁寧に足に付いた土などの汚れを拭いていく。
「ホゥ……」
何処かうっとりとした声を溢すレディ。
その様子に思わず笑みを溢しながら、元々彼女の足を拭うために片膝をついていたルイーナは彼女の顔を覗き込んんだ。
「痛くない?」
「ホー」
「良かった…………。はい、綺麗になった」
付いていた汚れを全て拭い終えたルイーナが終わったと声を掛ければ、彼女はまた一声鳴いて彼の右肩に飛び乗った。
まったくと言って重さを感じさせない彼女は、また一声鳴いてルイーナの顔に自身の頭を擦り付けた。
甘えるようなその仕草が愛おしい。
クルクルと喉を鳴らす彼女の小さな頭に、ルイーナ自身も頬を押し付けるようにすれば、彼女の声は先よりも嬉しそうなものへと変わった。
彼女の事を、アルバとルーチェは知らない。
と言うのも彼女は何故か二人の前に姿を見せようとしないからだ。
子供が___ルイーナ自身とそこまで歳が離れているわけでもないが___苦手なのかと聞けば
こちらの言葉を正確に理解している彼女は違うと首を横に降った。
ならば二人が苦手なのかと聞けば、それも違うと首を横に振られた。
何時かは会ってくれるらしいので、その時が早く来てほしいと思う。
彼女を、新しい家族をあの子達に紹介したいのだ。
「俺はもう少し起きてるけど………レディはどうする?」
寄せていた頬を話し問い掛けるも、彼女は肩から降りること無く、先よりかは軽めに擦り寄ってきた。
このまま居るということだろうか。
好きにしていていいからね?と、僅かに窓を開けてゆっくりと移動する。
そして本棚から一冊の本を取ってベットへと向かった。
そして肩から彼女が落ちたりしいないかと若干ヒヤヒヤしながら、ベットへと乗り上げた。
足元に折り畳んであった毛布を掛け、腰元に枕を当て寄りかかった。
「肩に乗ったままでいいの?
ここに来ない?」
ポンポンと毛布に包まれた自身の膝あたりを軽く叩く。
すると彼女は肩からピョン、と効果音が付きそうな軽やかなジャンプと共に肩からベットへと降りた。
そしてテチテチとベットの上を歩き膝へと近付き、再度軽やかなジャンプで膝に飛び乗ってきた。
「ふふっ………」
そして彼女はポスリとルイーナの腹部に、ルイーナが枕に寄り掛かっているのと同じ様に寄り掛かった。
その様子に笑みを溢したルイーナが、掌で覆うように彼女の小さな頭を撫でる。
暫くの間、彼女に癒やされていたルイーナがその手を彼女の頭から退けようとするも彼女がまだ撫でろと言う様に、羽を広げ不満を訴え離れていく掌に強く自身の頭を擦り付けた。
「分かったよ」
その仕草に苦笑を溢したルイーナは、離そうとしていた掌を再度彼女の頭へと置き左右に動かした。
満足そうな声を溢した彼女。
その小さな頭を撫でながら、ルイーナは本棚から取ってきた本に挟んでいた栞を器用に片手で外し前回の続きから物語を読み進め、その物語の中に入り込んでいくのだった。