第百十五話
精鋭からプレゼントとして受け取ったフクロウの彼女。
彼女は初めに受けた印象の通り賢く理知的な女性だった。
精鋭の彼が帰った後、ルイーナは彼女を肩に乗せ家の裏手にある森へと向かっっていた。
「みんな、久し振りだね」
森の中に入り暫く進んで行くと、開けた場所でルイーナは森に住む動物たちに囲まれた。
体の小さな小動物達はその場に座ったルイーナの膝に乗り上げたり、自慢の毛並みをぐりぐりと押し付け不満を訴えてきた。
頭上を位置取る鳥類達は、ルイーナの肩に乗るフクロウの彼女へと頭を下げそれぞれ鳴き声をあげ挨拶している。
体の大きな動物たちはルイーナの背後や側に寄り添っている。
「ほお………。
懐かしい匂いがすると思ったら、来ていたのか」
「フィン」
そしてのそり、と草を掻き分けて姿を表した相変わらず美しい毛並みを持つ狼の彼が動物達に囲まれるルイーナの元へと姿を表した。
先程まで小さくも賑やかな鳴き声をあげていた動物達は、姿を表したフィンに一礼しルイーナの側にはいるものの座るルイーナの隣にフィンの入れるスペースを空けた。
それに一言ありがとうと感謝を告げ、空けられたそのスペースに腰を下ろしたフィン。
「ルイ、君はまた無理をしたようだなぁ」
「知ってたんだ」
「耳は良いからなぁ」
暫くの間、その場には風が木々の葉を揺らす音と、動物達達の小さな鳴き声だけが辺りに響いていた。
「体はもう大丈夫なのか?」
「問題なく動かせるよ」
「そのようだな。だが、その目は治りそうに無いようだな。
……………また良くないモノに見初められたものだ」
「よく、分かったね。
誰にも気付かれなかったのに」
「それに気づける者は少ないだろうな。
人で気付く者は稀だろう。だが私達の様に永く生きた者は分かるさ」
フィンの言葉に驚くでもなく、ルイーナは苦笑を溢しそっと自身の右目へと手を添えた。
彼の言う通り、ルイーナの右目は誰にも気付かれること無く変化していた。
それは失明しただとかではなく、その右目が映す世界が姿を変えたというほうが正しいと言えるだろう。
「それは呪いでもあり、ある意味では祝福だと思う者もいるだろう。
…………私からすればソレはお前を手中に収めようとする者が付けた目印でしか無いがな」
ルイーナの右目で見る世界はモノクロとなった。
だがそのモノクロの世界で、色鮮やかな色彩を纏って映るものがあった。
「確かに祝福とも言えるかもしれないね。
だってこんなにもハッキリと見えるんだから」
「あまり見すぎると目に毒だぞ」
「うん。分かってる」
ルイーナのモノクロの世界は、意識すれば左目で見るよりもソレはよく見えた。
「お前の右目は、最早人のそれではない。
お前の右目は妖精やそれに連なる者達が見る世界を映しているのだから」
赤、青、緑、黄………、普段ならば目に見えない自然の中にある魔力の色鮮やかな色彩が、ルイーナの右目に映るモノクロの世界で踊っている。
魔眼や魔力感知に長けた者も見ることの出来ない世界が、ルイーナの右目にはハッキリと映っていた。