第百十四話
首を傾げるルイーナに口元に笑みの形を作った精鋭は座っていた席から立ち上がり、部屋に入る際に使った窓を開いた。
「ちょっと待ってて下さいね」
「外に何かあるの?」
「もうすぐ来ると思いますよ」
窓を開いたまま何かを待つ精鋭にの元に近付いたルイーナが精鋭と同じ様に窓の外を覗き込み見渡すも、特にこれと言って目新しいものは見当たらない。
「お、きたきた」
「来たって、何が………」
窓から見える周囲を見渡すルイーナだったが、暫く眺めている際に精鋭が待ちわびていたものが来たと言葉を溢した。
「羽音………?」
そして周囲を見渡していたルイーナの耳に、何かが羽ばたくような音が小さくも耳に届いた。
バサバサと途切れ途切れではあったが、確かに聴こえた。
それは段々と大きくなり近付いてくる。
そしてルイーナの目に、黒く丸い何かが羽ばたきこちらへと向かって来るのが見えた。
ゆっくりと、そして着実にこちらへと近付いてきたソレの全貌がハッキリと見えてきた。
そして目に写った羽音の持ち主を、ルイーナは書物の中だけだが知っていた。
「フクロウ………?」
「ホーウ」
ルイーナの呟いた声が聴こえたのか将又ただの偶然かは定かではないが、まるでそうだとでも言うようにフクロウが鳴いた。
精鋭の伸ばした腕に起用に止まった。
鳥類は鋭い爪を使い細い枝に止まる為、腕などに止まらせる際には専用の物を巻きつける必要があるのだが、精鋭は平然とした顔で腕に止まったフクロウの嘴した辺りを指で擽っていた。
フワフワとした灰色の羽。
そして不思議な色合いの、晴天を彷彿とさせる蒼い瞳。
何処か知的な雰囲気を醸し出すそのフクロウに、ルイーナは何故か懐かしさを覚えた。
何故そのフクロウを見て懐かしいと感じたのかルイーナ自身良く分かってはいないが、そう思わせる何かがそのフクロウにはあった。
「このフクロウをルイーナ様に受け取って欲しいんです」
「この子……彼女を?」
「よく分かりましたね。彼女だって」
「綺麗だったから………」
そのフクロウはルイーナが言うようにとても綺麗だった。
艷やかな羽は陽の光を反射して美しい。
そして何よりその知的な雰囲気を醸し出し、何処か優美ささえも感じさせることから、ルイーナはそのフクロウを彼女だと言ったのだ。
「ホウ」
正解よと言う様に鳴き声をあげるフクロウ。
そのフクロウに触れてもいいかと問い掛けたルイーナに再度フクロウは一声鳴きルイーナへと自身の頭を低くし差し出した。
ありがとうとひと声かけ、その小さな頭を指先で撫でればフクロウはクルルルル………と声を溢した。
「喜んでますね〜、流石ルイーナ様」
「フフ、それ程でも」
猫が気持ちの良い時の喉を鳴らすように、フクロウも喉を鳴らすらしい。
「その様子だと大丈夫そうですね」
「でも、どうして俺に?」
「入学祝いですよ。あと彼女、手紙とかも届けられるんでルイーナ様とやり取り出来るかなと思って」
ルイーナとフクロウの戯れを眺めていた精鋭はその様子に安心した様に嘲笑った後、僅かに照れた様子で頬をかいた。
「彼女、元々はボスの屋敷の森に済んでたんですけどルイーナ様が初めて来たときから頻繁に姿を見せては森に帰ってを繰り返してたんですよ。
もしかしてと思ってルイーナ様の名前を出したら正解で。
彼女ルイーナ様を探してたみたいですよ」
「俺を探してたの?」
「ホーウ」
そうなのかとフクロウの彼女にルイーナが問いかければ、彼女は自身の翼を大きく広げ肯定の鳴き声をあげた。
「俺と一緒に来てくれるの?」
「ホウ」
「危険な目に合うかもしれないし、巻き込むかもしれないよ」
「ホウ!」
力強い声だった。
彼女は自身の頭から離れたルイーナの指先を嘴で甘噛みし、次いで精鋭の腕から離れ今度はルイーナの肩に止まった。
爪で傷付けないように、だがしっかりと離れるつもりはないと言う様に掴まり自身の頭をルイーナの頬へとグリグリと押し付ける。
「ありがとう。
よろしくね」
彼女に応えるように頬を寄せたルイーナがそう言えば、嬉しそうな鳴き声が返ってきた。
「精鋭さんも、俺と彼女を会わせてくれてありがとう」
「喜んでもらえたならそれでいいですよ。
俺の場所は彼女が知ってるので、何かあればかのじょに頼んで下さいね。
ルイーナ様を、俺の弟をよろしくお願いしますね」
「ホーウ!」