第百十三話
今後、不定期更新となりますが
楽しんで頂ければ幸いです。
「えっと………どうしたのか聞いても?」
朝日が登り始め、ファウスト家の離れに新たに造られた屋内訓練場でルイーナが一人剣術の稽古をしている時に彼はやって来た。
初めは唐突な彼の来訪に驚きつつも笑顔で迎え入れたルイーナだったが、その彼____精鋭の姿に先とは別の意味で目を見開き驚く結果となった。
「あー、簡単に言えばしごかれました」
「しごかれた………もしかしてセルに?」
「もしかしなくてもボスですね〜。後は同僚」
「えぇ……」
あいも変わらず目元を覆う前髪で瞳は見えないが、それでも十分に整った顔立ちの精鋭。
褐色……とまではいかないが程よく焼けた肌を持つ彼は、ルイーナが見たことのないほどにボロボロだった。
「ま、それ以上の収穫はありましたし?
結果オーライってやつですよ」
「そんなボロボロで言うことじゃないでしょう……。
はい、そこに座って。沁みますよー」
「イタタタタ、容赦ないですね??
何か怒ってます?」
「………理由はともあれ、兄の心配をしない弟などいません。
ここにまた来てくれたのは嬉しいよ?
でも、傷を放置するのは駄目」
言って、拗ねたように頬を僅かに膨らませるルイーナ。
兄として家族として決して誰にも弱さを見せようとしなかったルイーナが、初めて自らの意思で不器用ながらも甘えという姿を、己の柔い部分を僅かに覗かせたのだ。
「弟のお願いは、兄として聞いてあげないとですね」
精鋭の傷の消毒を済ませたルイーナが席を立ち、傷の治療に必要なものを取るため離れていったその背中にボソリと呟かれた言葉。
その言葉はルイーナには届かなかったが、精鋭は特に気にした様子もなく静かに動き回るルイーナの姿を眺めここに来る前の事を思い出していた。
『まだまだ殺るりますよ』
『やるの字が殺るに聞こえるのは俺だけですかね?』
『………、どんまい』
『味方がいない。なんだっけ、ぴえんだっけ』
『ぴえん』
『お前が言うのかよ』
ルイーナをファウスト家の屋敷から連れ出し、様々な場所に連れ回したことが我等がボスにバレた。
幸いと言って良いのかは定かではないが、精鋭がルイーナに兄として慕われていることは知られてはいなかった。
だがしかし、兄と慕われていることがバレていないからと言って無事にいられるわけもなく……………。
『次はもう少し手数を増やします』
『ボス?流石にそれは死にますって』
『聞こえません』
聞こえてんじゃん、と言う言葉は声に出されることなく飲み込まれた。
日課の鍛錬と称した恨めしの籠もった八つ当たりは、常であれば一時間から二時間程度で終えるソレは丸一日に渡って続いたのだった。
一番狙われボロボロになったのが己であったのは、言うまでもないだろう。
因みに精鋭がセルペンテの集中攻撃を受ける中、同じく精鋭として共にある仲間達は巻き壊れないようにと距離を取り、心底愉快だと隠しもせずに顔に出し笑って見ていた。
セルペンテへは出来なくとも同僚は容赦なく叩きのめした精鋭だった。
その後、戻ってきたルイーナの手で精鋭の傷は全て手当された。
傷を放置しないことを精鋭だけでなくルイーナも互いに約束した後に、精鋭へと温かな紅茶を進めたルイーナ。
「俺が言えたことじゃ無いけど、気を付けてよ?」
「ありがとうございます。
あ、あとそれとは別に今日はルイーナ様に渡したいのがあってきたんですよ」
「俺に?」