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カケルが成す THE BIRD  作者: 荒巻鮭雄
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8. プリズン入所

<自転車泥棒プリズン内>

カケルは牢獄のふとんで目を覚ました。全身が痛む。

「よう、目が覚めたか。メシは一人で食えるか?」

隣にいた自転車泥棒が声をかけてきた。ひときわ背が高いやつがいると認識はしていたが、名前は知らない。とりあえずモブ野郎と識別している。部屋にはカケルを含め6人いた。

(30人いたのが6人。2日で8割減とかヤバいな。どういう塩梅なってんだよ。まあ、1年後の生存確率が1%。8割減って確率としては5%に上がったってことか……)


痛み止めのロキソニンが切れているようだ。息をするだけで激しい痛み。起き上がろうとするが、痛みへの反射で身体が拒絶した。

「すまん、ちょっと起こしてもらえないか?」

「ん? こうか?」腕を引っ張ってもらう。

「んがッ!」カケルは顔をしかめる。

「え? 大丈夫?」

「構わん、そのままゆっくり引っ張ってくれ」


なんとか上半身を起こすことができた。額から脂汗が流れる。1分ほどで痛みも和らいできた。身体のどこが動くかチェックしてみる。手足は裂傷だけのようで、動かすことはできそうだ。鎖骨と肋骨の背中あたりが何ケ所か折れている気がする。ちょっと動くだけで刺すような痛みが走った。


「まあ、お互い死ななくて良かったな。お前のすぐ後ろを走ってたやつらは崖から落ちて死んだ。5人くらいか。俺はさらに後ろを走っていてそれを見たから、とっさに自転車から飛び降りて助かった。自転車だけ進行方向に滑っていって、そのまま崖下に落ちてったよ。ケツをだいぶ擦りむいたけど、正しい判断だったぜ。自転車が落ちちゃったから、いちおう崖下ものぞいてみたけどね、絶望的な光景だった」


「初見殺しにもほどがあるよなあ。スタート地点で貰った紙を覚えてるか? 落ちないように気を付けてって、崖から落ちないようにって意味だったんだな。それよりこっちに来てから目的も意味もさっぱり分からねえよ。想像できるのは、真人間は一人もいないだろうってことだけだ。なんてところに来ちまったんだろ。これからどうなるんだ? 死にたくねえよ」

モブ野郎が言うには、カケルは崖の手前で自転車に一本背負いを食らわせていたそうだ。何を言っているか分からない。たぶんバカなんだろう。


「それ以外にも大型トラックに轢かれるやつもいたし、地獄絵図だったぞ。お前は気絶してたから見なくて済んだ。良かったな」

「うん……、そうか。なるほどね。骨折のほうがまだマシに思えてくる。あ、メシ食うからグロい話はやめて」

朝食は想像していたよりもマシで美味かった。施設専属の料理人もいるようだ。食後にロキソニンを飲み、痛みも多少は和らいだ。


「そういえばお前の名前は?」

「ああ、カケルだ……」

「そうか。俺は大貴。よろしくな。趣味の登山中に自転車が捨ててあったから乗って帰宅したら他人のものだったらしくて捕まったんだ。マウンテンバイクってやつで、ずいぶんキレイだったんでラッキーくらいに思ったんだけど、山の中に置いてありゃゴミと同じだよな」

「乗ってたやつが近くにいたんだろ?」

「川まで行ってうんこしてたんだって」

「それじゃあ盗まれても文句は言えねえな」

「南米にはアコンガウアっていう山があるから来たんだよ」

「知るかボケ」

やたらと人懐っこしいが、うっとうしくなってきた。


「靱帯は大丈夫……かな。後遺症が残らなければいいけど」

大貴が、それは大丈夫と言う。

「後遺症が残りそうならアル中の医者が注射で殺してたって、お前をリヤカーで運んできたやつが言ってたからな。あいつらもとち狂ってるよ。」


(まあ、お前も自転車泥棒だけどな)と小声でつぶやく。


「がんばれ。せっかく生きてここまで来れたんだ。一緒に日本に帰ろう。そして死刑囚の人権を擁護する政治運動をしよう」

(やっぱりホームラン級のバカだな。でもそうだった。俺たちは死刑囚だった……)

「がんばるのは俺の赤血球や血小板だ。たぶん今、全力で働いている」

「あはは、そうか。じゃあお前の細胞に直接エールを送ろう。がんばれ!」

(まあ、帰れるのは俺一人だろうけどな……)


大貴以外の4人も、たまたま運が良かっただけらしい。強盗が出没したり狙撃されたり、落とし穴があったりと命からがら辿り着いたとのこと。情け容赦のないトラップがもはやトラウマなのか、絶望に打ち震えている。生気もなく、口数も少なく座っていた。

(試合が始まる前から諦めてやがる。俺の敵じゃねえな)



「今日はここの入所セレモニーがあるそうだ。調教師(教官)による訓示とか、今後のプログラムの説明をされるんだってよ」

「そうか……」カケルは天井を見つめている。

(まだ生きてるってことは、入所試験は合格ってことでいいのかな)



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