3. GM藤田
クラブハウスに呼び出されたカケルに、GMの藤田から無慈悲な宣告が言い渡された。
「おう、来たか、カケル。ああ、座らなくていい。すぐ終わるから」
「はい! プロ契約ですね。よろしくお願いします! それともマネジメント契約? もしかしてフル代表から招集がかったとか?」
「ユースなんだけどさあ、ちょっと枠が埋まっちゃってね、申し訳ないが君は残れない」
……えっ? 想定外の言葉に目を丸くする。
「えっ? 僕はキャプテンですよ!?」
「だから枠が決まっててね、上もくすぶってるのがたくさんいて、詰まっちゃってるんだよ。
とにかくね、今年は1枠、トオル君になった。以上。言いたいこともあるだろうけど、今日は帰って」
カケルは茫然として部屋を出た。というか、追い出された。
(旗本の子息であるトオルだけが昇格し、俺ははじき出された格好になってしまったのか……。しかも、なんでトオルなんだよ。足が速いだけでシュートはド下手くそだし。U-18でくすぶっている若手っていうのも、スポンサーや旗本のバカ息子どもばかりじゃないか。あ、そういえばセルジオの息子もいたな。ざけんなよ!)
「ちきしょう! サッカーに身分は関係ないっていうのは建前かよ!」
(トップチームには所詮、コネがなければ入れない。クソみたいな社会だ。こうなると高校に行って選手権を目指すしかないか……。ユースから追い出されることは、プロへの道を断たれるのも同じってことだろう……。どっちみち、ここにはもう俺の居場所はない!)
混乱する。怒りがわく。(誰が敵なのか、いや、みんな敵だ! )
カケルの中で、ぷつんと糸が切れた。
(いっそ、セルジオの伝手を頼ってブラジルに行こうか。うん。それしかない。妙案だ!)
こんなこともあろうかと、年賀状はもちろん、お歳暮、お中元などの付け届けも怠ったことはない。親身に相談に乗ってくれることだろう。
翌日セルジオに相談するが、無碍も無く断られる。セルジオも、藤田からカケルの件は聞いていた。
「えっ? ブラジル? 無理だよ。高校に行きなよ。青林山田、村立船橋、町田桐晃、この辺なら監督を知ってるから紹介できる。でも競争は激しいぞ。サッカー部員が100人以上いて……」
(ダメだ……。まったく話にならない……)
「おい! 何でブラジルのチームを紹介してくれないんだよ! ふざけんな、お前の弟子だぞ! たった一人の弟子が可愛くねーのかよ! 鬼か! クズ野郎!」
目に涙を溜め、恨むような眼でこっちを見ている。
セルジオは狼狽する。
(怖い。この子怖い。高校サッカーの超名門を紹介してやろうってのに)。うっかりひょうきんキャラのセルジオもついにブチ切れた。もう、ここははっきり言わねばなるまい。
「うっせーよボケ! お前なんて弟子だって思ったこと一度もねーよ! クソが! じっさい何も教えたことないだろ! お前のせいで強化部長からも越権行為してるって疑われて迷惑してるんだよ! だいたいなんだ! その口の利き方は! そんな態度が悪いやつ、誰がどこに紹介できるってんだ!?」
「はー! お前にしかこんな口きかねーよ、クソじじい! 他の大人の前では完璧に良い子を演じてるんだよ。勉強だってできるし学級委員もやって完璧人間だと思われてるんだよ! お前に媚びへつらってきた時間と労力、お歳暮お中元で使った金も返せよクズ人間! ブラジルが無理なら、お前のド下手くそな息子を辞めさせろよ! 俺のためにU-18の枠を空けろ!」
「あーなるほどね! 生意気上等! そういう性格、プロ向きなんじゃないの? 他人に頼らず勝手にやれば! うちの息子だって頑張ってるんだよ。今はちょっと結果が出ていないだけだ! プンプン」
「しかもお歳暮で毎回ストロング・ゼロ500mlを箱で送ってきやがって! そのせいで俺はすっかりアル中だ!」
最近は手が震え、朝から酒を飲む。肝臓も胃腸もボロボロで精気もない。カケルに人生を破壊されたといっても過言ではない。