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カケルが成す THE BIRD  作者: 荒巻鮭雄
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27. 第2部 桔梗編 メキシコのリングで舞う 

第二部  桔梗


諸藩の総代を務める将軍家、そのひとり娘のご令嬢が吉長桔梗である。カケルより3歳年上で、東京女子特務高等師範学校(通称:バカジョ)に通っていた。全国に約90ある藩の大名や家老のご令嬢が通う、超名門校だ。

桔梗はそこで生徒会長を務め、全生徒から羨望のまなざしで見られている。学問、武芸は幼少のころから国宝級の学者や達人に仕込まれているし、気の強そうな顔立ちは好みが分かれるだろうが美人である。この学校では生徒同士の喧嘩やいじめは外交関係に発展する恐れがあるのでご法度だ。なので平穏無事に、何をどうってほどでもない学園生活を過ごしていた。


そんな彼女が現在、メキシコにいる。


何をしているかといえば、女子プロレスラーをやっている。まるでセンスのない、雑な造りの覆面をして「ミニーマスクちゃんDX」というリングネームでヒール役をやっている。

おらッ! と、ぽっちゃり体系の中年金髪おばさんが桔梗をロープに振る。プロレス団体「アステカ」の社長兼ベビーフェイスで名は「ペネロペ」という。


はね返ったところをドロップキック。

おおげさに倒れた桔梗は立ち上がり、「ギギギ……」と変な声を発し、変な動きをする。よく分からんが、そういう演出みたいだ。30秒くらいと決まっているらしく、ペネロペもコーナーポストに寄りかかり手持ち無沙汰だ。観客もしらけ切ったところで桔梗が突進するとペネロペは「長い!」とビンタをかまし、関節技に移行した。


メキシコシティ郊外にある、庶民が通うマーケットの広場に作られた特設リング。その周りにパイプ椅子を並べているが、観客はまばらでせいぜい100人くらいだろうか。ほとんどの歩行者は素通りしていく。日曜の昼間にしては寂しい客入りだった。


なぜ彼女がメキシコくんだりでプロレスラーをしているかといえば、彼女が「自転車泥棒」をしたからである。

「自転車泥棒は殺す法」で、少年はコロンビア、少女はメキシコにという、例のアレだ。男はロードレーサー、だったら女はプロレスだろ、だったらメキシコ? マスクマン? わははは、と当時の筆頭家老、谷垣が六本木のキャバクラで言った戯言が現実のものとなっている。


10分ちょっとの茶番は、お股が全開となる「恥ずかし固め」でペネロペが勝利し、試合は終わった。男性の観客はちょっとだけ得した気分になり、10歳の少年パウロにとっては性の目覚めとなった。


帰り道、桔梗はとぼとぼと歩く。あんな恰好をさせられ、恥辱に耐えない。彼女にとってのデビュー戦でもあった。自然と涙がこぼれる。このような時、彼女は上を向かない。涙がこぼれないようにと堪えることなく、下を向いて存分に涙を流すのである。

「なんという数奇な運命! 私は悲劇のヒロイン!」

ひとりで寸劇をし気を紛らわせ、必死にこの苦境をこらえていた。


女子プロレス団体アステカの拠点は社長の自宅であり、練習場と宿舎も兼ねている。治安の悪いスラム街に広さ250平米の3階建て。1階に練習場、2階が宿舎、3階がペネロペ夫婦の住居兼事務所となっている。


ペネロペは過去、アメリカで有名女子プロレスラーとして活躍していた。その美貌と多彩な技、その華麗さに加え相手の技を全て受けきるというストロングスタイル。正統派の正真正銘のベビーフェイス、スター選手だったのである。


それが現在は体重100キロのふっくら体形だが、これはポリコレの風潮で美人やフェミニンなスタイルは許さん、そんなやつはいない、幻想だという大日本愛国婦人会的な社会的抑圧からである。


桔梗を含め所属レスラーは12名おり、アマレスの元チャンピオンや元キックボクサー、元軍人、元体育教師、元ダンプ松本、元アイドル、元男性、心は乙女、ハードゲイ、未来型ネコ型汎用ロボット(ネコロボ)、チンパンジー、カンガルーなどがいる。生物学的な男性にはペネロペは難色を示したが、ジェンダーフリーという名のポリコレで受け入れざるを得なかった。そういう時代、社会なのである。


翌日の練習、桔梗とペネロペがスパーリングをしている。

桔梗が三角締めをしようとしたところ、ペネロペは桔梗の顔面をグーで殴った。

「お前はこういうのがやりたいのか!」

そう言って、フェイスロックやアキレス腱固め、ロメロ・スペシャルを極めた。

「うがぁぁぁッ! 痛いッ! でもプロレス的にはこれでいいんじゃないんですか!?」

「誰がそんなガチを見たいっていうんだよ! 痛いとか危ないとか、そんなの絶対ダメ!」

そう言って更に桔梗を痛めつけ、諭した。


桔梗は将軍家お抱えの藤波というプロレス師範に幼少期から鍛えられた。なので、それなりに出来るであろうという自信はあったのだ。しかし、ここメキシコではプロレスも格闘技もまったくの別物らしい。だが、先ほどペネロペに掛けられた技は一流のもの。骨折か失神する寸前まで極められたからそれは分かる。しかしそれらは試合では使えないという。

「ギギギ……」という演出も意味不明だった。ネコロボ先輩に言われるがままにやったが、からかわれただけなのだろう。なんて陰湿な野郎だ。


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