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カケルが成す THE BIRD  作者: 荒巻鮭雄
26/38

26. 最終レース 第1部・完 

どっかーーーーん。

俺は……。まだ生きているのか……。レースは終わった。

1号と2号と3号と4号は死んだ……。


イーグルアイは、見たくないものも見えてしまう。それを苦痛に感じることもある。仲間の死の瞬間など、誰が見たいものか。


1号は開始5秒で! あんなとこで! あんな無残に!

2号だってそうだ! 汚ねえ初見殺しだ! あんなにあっけなく……

3号は……3号は…… 

涙で声にならない。



浦上がリヤカーを引きやってきた。「大丈夫か? 肩を貸そう」

「どっこいしょ」カケルを肩で担ぎ上げ、リヤカーの荷台にぶん投げた。

カケルはリヤカーで観客の前に運ばれる。


そこでファンファーレが鳴り響き、地響きのような10万人の歓声を浴びる。なんなんだ、この状況は。この観客は。人が死んでるんだぞ……。

集団ヒステリーってやつか。こんなの何が楽しいんだ? 面白いっていうんだ?


調教師の浦上がメダルを掛けられている。馬主らしい老婆もいる。こいつがカマーラっていう元大統領か。羅生門のババアよりもおぞましい。カケルはカマーラに吠えた。元アメリカ大統領、国家元首に対してである。しかし何を言っても、元気でいるか、お金はあるか、友達できたか この3つしか言わなかった。

ふーん、クレーム対応にもその手があったか。経験者だな……。


カケルにも賞金が出る。かなりの大金だが、何十億もらおうが、死ねば0。没収されて終わり。99%死ぬのを織り込み済みだと、この金額になるってことだ。


こんなレースをあと……8回もやるのか。道化になって死んでいく。(自転車泥棒の罪とは、これほどまでに重いものなのか)と、初めて実感した。

山田ヒロキ弁護士の、「バカなの? 死ぬの?」という言葉が今になって、やっとリアルに理解できた。


カケルは勝ち続けた。否、生き残り続けたといたほうが正確だろう。しかしカケルには不可解な点があった。ロードバイクのプロになるはずなのに、一向に自転車を使う気配がないのだ。

だがしかし、1勝するごとに待遇も改善されていく。ポッキー食べ放題という破格の好条件を付与され、文句を言える立場でもない。カケルは既に既得権者なのだ。


いっぽう浦上は、カケルが稼いだ賞金と、クレームの電話応対で得た金で、大仏を建立していた。

なんで真っ先に殺そうと思ってたやつが生き残って、他のやつらが死んだんだ……。

特に1号、あいつは俺の後継者にするつもりだった。

学校でうんこを漏らしたことに錯乱し、つい自転車を盗んでしまった。


人間とはそういうものだ。己のミスや弱さなど、認めたくはない。

むしろ、腸にも思考や自我、すなわち生命があるということを知っていた。己の中に、己がコントロールできない、もうひとつの生命、神か悪魔か……いることを知っていた。


彼らには、ヨーグルトを食べ、ヤクルトを飲み、ご機嫌をお伺いするしかない。決して、決して怒らせてはならぬ。静まれーい! 静まれーい! と懇願するしかない。

調教師の仕事を放棄しているわけではない。ただただ、現実から逃げたいのだ。

浦上は、腸内環境を良くしよう! されば悟りは開かれん! というビフィズス教の創設者になった。

理不尽かつ不条理な世界から離れ、生命の深遠を辿るのだ。



今日が最終レースだ。よーい、どん。


「おい! おまえ大貴だろ!」

「違う! 俺はパンダ―マスクだ!」

もはや二人に言葉はいらない。

【180ページ割愛】

「何いいッ! ボールが消えた!」

【2ページ割愛】

「勝った。勝ったぞーーーー!」

カケルは雄たけびを上げた。


薄氷を踏むような、針の穴を通すようなトリッキーな技で大逆転勝利した。ジャッキーチェンのプロジェクトAを100回見ていなければ死んでいたことだろう。手持ちのカード、リー・リンチェンがジェット・リーに進化するというミラクルにも助けられた。プロゴルファー猿の「紅蜂」の名前をひねり出したのもマーベラスであった。


レギュレーション違反じゃね? と審議が3時間にわたり行われたが、他の選手はぜんいん死亡しているため、しかたなくカケルの優勝となった。

運営も他の厩舎もなりふり構わず潰しにいった。全力でカケルを殺そうとした。後ろから5人がかりで襲い掛かっても、まるで背中に目でも付いているかのように察知されかわされる。


テレビの尺を無視して3分でレースを終わらせ、勝ち方というか相手への貶め方もエグく、まったく人気が出ない。レース前日の対戦相手の食事に下剤を混入し体力を削る。相手の弱みを握りトラウマや黒歴史をえぐる。運営や相手の仕込んだ物理的なトラップは全て見破るし、リアクションも悪い。なにより性格の悪さが顔に滲み出ており、目がビー玉だ。100%運だよりの状況でも不思議と生き残り、もはやこの悪魔を止められる者はいない。


「どどすこいこい、どどすこいこい……」

カケルは、不思議な踊りを踊った。もちろん浦上直伝である。


大歓声に手を振ると、表彰式にも出ず、

「では、シュシュッ! ドロン!」

と足早に立ち去った。


向かったのは監獄長、鈴木友蔵の部屋である。

「遠藤カケル少尉であります! 失礼します!」

「おお、カケル君か。他の選手たちはさぞ迷惑というか災難だったろうね。君がいて」

「お褒めのお言葉をいただき、恐縮であります!」

「うむ。これで君は、晴れて自由の身だ。額の入れ墨も消そう。手持ちの金があれば、何でも買える。死ぬまで遊んで暮らすこともできる。ユーチューバーにだって、なれる」

「ハイ! カリブの島を買って、独裁国家を作ろうと思います」

「そうか、君らしい。ところで二つ名を名乗ることができるぞ。ストロベリーファームのカケル、とかどうだ? それともプレジデンテか?」


「それは決まっています。イーグルアイです」

「うーむ、そうか。縁起が悪いな。せっかく生き残ったってのに、それを名乗るか……。死に急ぎのイーグルアイ」


「えっ? なんすかそれ?」

初耳だった。



第1部  完

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