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カケルが成す THE BIRD  作者: 荒巻鮭雄
25/38

25. 革新系厩舎

★革新系

革新系厩舎は宮崎県之駿けんのしゅんが調教師である。彼の戦略はデモ、大衆の扇動にある。妨害、破壊、扇動、停滞、サボタージュ、様々な嫌がらせ工作を駆使し、敵の自滅を待つという生き残り戦略だ。

国が亡ぶのは、敵からの攻撃ではない。内部の腐敗、堕落、驕り、怠慢である。

彼らは決しては自分の手を汚さない。「分かってるな」「根性見せろや」「夏よのう……」これだけで、あとは配下の者が勝手に察し、解釈して動くだけのことである。


祭り、大衆芸術と称し集団ヒステリーを引き起こす。魔王メフィストと悪魔契約を結び、「崖の上のポン助」というプロパガンダ・アニメ映画を製作。しかし製作費50億円のうち40億円をメフィストに持ち逃げされ製作は中断する。それを知ったとき宮崎は膝から崩れ落ち、自殺さえ考えた。子飼いのアニメーター30数人も逃げようとしたので「お国のために」と泣き落としを敢行。それを聞き入れられる様子がなかったのでやむなく、「非国民として」座敷牢に監禁し、奴隷労働させることで作品を完成、この難局を乗り越えた。これはかつて、彼が労働争議で養った知恵と胆力のたまものである。映画はいざ開演すると興行収入100億円の大ヒットとなり、大逆転勝利……となると思われた。だが権利関係もろもろはメフィストに抑えられており、宮崎にはほんのはした金しか入らない。それも未払いだった給料と示談金に消え無一文に。

表ざたにはならなかったが業界からは追放され、ここコロンビアにまで流れてきたのである。髪や髭はボーボーで眼鏡は割れ、ボロ切れ1枚で徘徊しているところを何者かに拉致され、貨物船の船底に積み込まれたとの噂もある。



★電波系

調教師の秋元斗司夫は48人+犬2匹のアイドルユニットを結成し、口パクで歌わせるといった暴挙も平気でこなすサイコ野郎である。代表曲「犬が歌ったワンワンワン」は国民的ヒットとなり、莫大な資産と名声を築く。日本で大物プロデューサーとして活躍後、コロンビアにやってきた。


かつて宮崎と秋元は「ガイナ零式革命隊」に所属し、秋元は宮崎を師匠と呼んだ。宮崎失踪後、師匠の業界内での汚名を晴らそうと駆けずり回った。その最中、フィリピン・マニラで悪魔メフィストと遭遇する。取り押さえて拷問にかけると、宮崎は前作の「ホーホケキョ隣の吉田豊くん」という映画が大コケし、55億円もの赤字を出していたという。半世紀前の伝説のサッカー選手の話だそうだ。メフィスト鈴木敏Pとしぴいは利子を含め60億円以上に膨らんでいた負債を、借り換えや利子の棒引きの交渉など資金繰りに駈けずり回っていたという。「ポン助」で踏み倒した支払いも数多く、彼もまた、宮崎のケツを拭くため、懸命に動いていたのである。

それを聞いた秋元は爪をはがした非礼を詫び、「宮崎を一緒に殴りに行きましょう」と提案。しかし関係各所への謝罪や返金がとうぶん終わらないとのことで、ひとりでプリズンに乗り込むことにした。負債がまだ3億円はあるという。


コロンビアのアジトに踏み込むと、宮崎はヘルメットにゲバ棒姿で待ち受けていた。

秋元はプロデューサーらしく、興行の話を持ち掛けにきた。宮崎VS秋元、宮崎VS鈴木、宮崎VS庵野(謎の覆面レスラー)というプロレス興行を行えば、借金返済の足しになるであろう。腕の1本は折ってやりたいという気持ちもあるが、自分自身もリングに上がり、身を削り、体を張って師匠を助けたい。


しかし秋元が来るとの情報をつかんだ宮崎は、殴り込みか粛清かと勘違いした。厩舎の馬(囚人)たちに「道場破りが来る」と厳戒態勢を敷かせ、秋元が到着するとカーテンを全て閉めさせた。あとは休憩なしの10人連続組手で殴る蹴るの暴行を加え、ボコボコにした顔の写真をリーク。日本のゴシップ新聞やプロレス雑誌で「秋元返り討ち」という見出しで報道される。プロパガンダの天才である宮崎はとうぜん、あること無いこと、尾ひれ葉ひれを付けて吹聴し、彼の名誉を失墜させた。


その後、秋元の抗議で取り返しのつかない事をしてしまったと気付いたが、勘違いを謝罪するのも嫌だし、そもそもこんな奴は大嫌いだと思いなおす。


秋元はとうぜん烈火のごとく怒ったが、彼にも一流の、サイコとしての矜持がある。

こいつほど間違った人間がいるだろうか? と考えるといない。いるわけがない。だからこそ、サイコの師匠として尊敬し慕っていたのである。人間失格、常人ならざる……、間違ったやつが起こす厄介ごとこそがエンタメのネタである。最高の食材なのだ。日本に戻っても俺に居場所は無い。このクソジジイに無くされた。サイコは考える。またあのころのように、あいつと地下ゲリラごっこをしよう……と。


そして秋元はプリズンの調教師になった。師弟関係は解消したが、宮崎と同じフィールドで戦い、勝利すれば無上の喜びである。宮崎は俺が殺してあげないといない。俺でなければ成仏させることができない。


さすがは元日本一の大物プロデューサーである。彼の着想、構想はスケールが大きい。秋元は、宮崎という脳筋をジャイアン代わりにスネ夫を演じ、智謀策略の限りを尽くしプリズンそのものの破壊を試みた。その浸透工作ぶりはすさまじく、既になかば乗っ取られていると見る向きさえあったほどだ。


しかし即時解放を訴える急進派メンバーが、遅々として進まない革命に業を煮やし先鋭化。テロや暴動といった実力行使に乗り出した。これには革新系(宮崎)のみならず他の調教師や厩舎も反発。逆風が吹く中、致命傷となったのは恋愛系の仕掛けたハニトラである。秋元の赤裸々なスキャンダルが明るみとなり、世間から更なる猛バッシングを受けた。それからというもの、勢力を盛り返せてはいない。もちろんこれらも宮崎の仕組んだ謀略である。


ちなみにかつて宮崎と秋元が所属した「ガイナ零式革命隊」は、結勝珍や山田ヒロキ裁判長がいる反政府・地下組織「ギャルゲ」の下部組織である。



★忍者系

「めんどくせえ、息をするのもめんどくせえ」が口癖のハート様(自称)が調教師を務める忍者系は命令によってのみ動く。職務に忠実。抜け忍は殺される。彼らの生存戦略は最も理にかなったものだろう。身を隠し、終わるまで待つ。相手が餓死するまで待つ。身の隠し方はもちろん、補給食をいかに隠し、隠れて食べるか。カロリー消費を減らす、代謝を減らす、仮死状態、冬眠状態になる。


強い者が勝つんじゃない。勝ったほう強い。生き残った種が強い。彼らの姿を見た者は少ない。訓練はひたすら寝るだけだし、レースでも、極度の栄養失調で隠れる場所まで走れない。だいたい開始直後に死ぬので記録にも記憶にも残らないのだ。

調教師の給料は歩合制である。レース賞金の10%、1回勝てば3億円ほど入る。それで厩舎の全ての運営費を賄わなければいけない。しかし忍者系はここ10年、1勝もできていないため全く金がない。ハート様は、日本にいる両親の年金をせびり生活している。また、「南米ひきこもり日記」というブログを週1回更新している。


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