13. ぶん投げる罰
帽子のような頭髪の巨漢が壇上に立つ。
「まずは、入所おめでとう。私はここの調教師、浦上だ。さしあたり1年、短い間だがよろしく。このプリズンを設立した過程、目的、今後のスケジュールを説明する。心して聞くよ……」
カケルは名札を見て監獄長でないことをすぐ見抜いていた。本人も、調教師だと名乗った。つまり……、こいつにもマウントを取られるわけにはいかない。
「おいてっめー、クソハゲ! きのう崖から落ちたやつはみんな死んだのか?」
「ちょっと、先生が話している最中は黙って聞いてなさい! そんなの当たり前でしょ? 学校でそう習わなかった? 100歩譲って私語なら分かるけど、私に話しかけるんじゃないわよ! あと、私はハゲてない」
(ふっ、動揺してお姉ことばになってるな。楽勝だぜ!)
ここで行けると確信する。
「うるせーな、ここは刑務所だろ。関係ねーよ。フリートークでいこうぜ。ズラ野郎!」
「って、刑務所なら余計ダメなの。えっ? 何この斜め上な感じ……。サイコ? サイコなの君? あのね、ラップバトルやディベートでさえ、相手がしゃべってる最中に割り込むのはNGなのよ。あと、私はズラじゃない」
「知らねーよ、学級崩壊してんじゃねーか。ちゃんと仕切れよ。ズラ教師! っていうか早く終わらせろ!」
完全に勝った、とカケルは思ったが、その策略は、完全に裏目に出た。
「お…… お…… お……」 浦上は状況を把握できず、混乱している。
しかし、彼はプロフェッショナルである。いぜん囚人をタコ殴りにして懲戒処分を受けたことがあり、アングリー(怒り)コントロールの講習も受けた。
そうだ。こういうときは6秒間 我慢するのだ。
「1、2、3…」
「おいハゲ! 何てめー黙ってんだよ! 終わりか? じゃあ帰るぞ」
カケルは6秒という間を与えない。
「てめー待てや! 懲罰だ! 貴様に懲罰を与える! ぶん投げる罰 10回を与える!」
「ぶん投げる罰」とは、ここ自転車泥棒プリズン名物の懲罰である。やることは簡単で、受刑者を壇上から適当にぶん投げるだけ。しかし、格闘技やプロレスの技と違い、どう落下するのか予測が付かない。適当にぶん投げるため、着地する箇所も角度もランダムで、受け身が取れないのだ。
したがって、成すがままに体を地面に打ち付けられ、痛めつけられる。運が悪ければ首の骨も折れる。死ぬこともあるし、死んでも構わないという運ゲー的な意味合いも持つ。
「今から私が、この壇上からあなたをぶん投げます。生きていればもう1回、まだ生きていれば、更に1回。それを計10回やるということです」
浦上はアングリー・コントロール講習とともに、キャラ作り&懲罰マナー講習会も受けさせられていた。
できるだけゆっくり、優しい声で、丁寧な言葉づかいで、ねちっこくしゃべる事で、相手にヤバい奴だとビビらせることができる。猟奇的、愉快犯、快楽犯、悪魔的、そんな恐怖を与えつつ、身体をなぶる。浦上は身長190cm、体重120kgの巨漢である。カケルを5mくらい投げ飛ばすことなど屁でもない。
そのうえ、監獄長に対しては完全なるYESマンであり、インフルエンザにかかっても出社する社畜の鏡のような男である。さらに、小学生のころに浦上君は朗読が上手ね、と恵子先生に褒められたこともる演技力。そう、浦上は役に入り込むタイプなのだ。
「さあ、いきますよ」
浦上はカケルを担ぎ上げる。
「あ、何すんだてめー! あガッ! 痛ッ! んガッ! ガああああああ! そ、そうだった、俺は今、骨折しているんだった……」
(これはまずい。ピンチだ。こいつ、俺の口撃を受けても心が折れないだと!?)
マジかよこのハゲ、という顔で浦上を睨め付ける。
「うふふ。いい顔ですねえ。じゃあ行きますよ。途中で失神すると、いい確率で死んじゃいますから、ご注意ください。行きますよ~。ふんガッ!」
カケルは宙を舞う。カケルは空中で、スローな気分になっていた。
(1回転、2回転、3回転、3回転半! トリプルアクセルだ!)
と思った瞬間、顔面から地面に落ちていた。投げられて空中にいる間も、落ちた瞬間も痛みは忘れていた。確実に死んだと思った。
数回バウンドし、停止。そのまま動けない。顔よりも、骨折した箇所が痛い。折った時よりも痛い。痛いどころではなく、動けない。
「ん? 死んだか? ふう、舐めやがってクソガキ、いいかお前ら! 教官の言うことは絶対だ! よく覚えておけ!」
大貴は震え上がった。他人の自転車泥棒たちも、下を向いてじっとしている。どうやら失禁したようだ。




