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思い出してしまうのはあの人のこと

 その後、ノートの数ページを綺麗に切り取って暖炉にくべると、きちんと燃え尽きるまで二人で眺めてからわたくしは自室に戻ってきた。



 自室と言っても、わたくしには……数ヶ月滞在しているだけでしかない、思い入れも何もない場所なのだが。しかも、盗聴されているんだから迂闊なことは出来ない。



 戻ってきた初日にこの部屋に通され、一人になった際……わたくしはこそっと変なマジックアイテムや術式がないか、部屋のあちこちを探した。



 術式の陣などは無かったが、妙な玉が――美術品に混ざって棚に置いてあった。



 なぜ分かったかといえば、わたくしは感知のスキルを使用しながら探していたので、妙な反応を棚から感じたからだ。


 取り上げてみると、微弱な魔力を感じる。


 棚の配置を変えたり、他のものと一緒にクローゼットにしまい込むなどして数日様子を見ていると、それとなく棚に戻されている。


 わたくしが戻したわけではないので、お掃除をするついでに……いろいろ調べられているかもしれない。

 

 鞄に手を触れたとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()けどね。

 


 そういうことなのでその玉は棚にあっても知らないふりをして……監視下にあることを理解しながら、ジャンやわたくしは二人きりになっても、魔界関連のことを一切口にしていない。


 特に――魔王様たちのことは。




『――お姉様にはレトさんという想い人がいて、レトさんもお姉様を想って……』

 先ほど、アリアンヌが書いた言葉を思い出す。



 その通り、わたくしとレトは恋仲だ。



 彼……レトゥハルトは魔族の王の息子、つまり王子様であり、辺境に押し込められていたわたくしに【魔導の娘】という使命があると感じ取って、魔界に連れ去った張本人でもある。



 そう、わたくしの出奔先は――魔界という地下世界だったのだ。



 フォールズ王国の王子クリフォードの婚約者リリーティアは、魔界の王子レトゥハルトと恋に落ちたため、婚約破棄したがっている。


 平たく言えばそういうことだ。

 好きな人と一緒にいたいがため、好きでもないやつの側にいなくちゃいけないのだ。



 もちろんレトが魔族であり、王子様であるということはわたくしの仲間以外誰も知らない。


 アリアンヌもマクシミリアンも知らないし、誰も知る必要はない。



 連絡もこっちに行てから全然取っていないから、きっと心配しているかもしれない。


 ここにいると身動きが取りづらいので、寮に入学してから、伝書用の鳥や使い魔みたいなものを買って……そうだ、魔界まで行くとは限らないんだし、いったいどこに送れば良いのかしら。




 一度彼のことを考えてしまうと……どうしようもなく切なくて恋しくなってきた。




 自分のために地上に行くという選択をしたけど、次はいつ会えるだろう。


 鮮やかで指通りの良いサラサラの赤い髪、魔族特有の金色の瞳、恐ろしいほど整った顔。普通の女子など笑顔の一撃で沈んでもおかしくない。


 彼の弟も、魔王様のお顔も激烈に良いので、あの一家は顔で世界だって征服できるのではないかと思う。


 魔王様が隠し攻略キャラ……とかだったら、絶対勝手に媚びまくってくる女達からお守りしよう……。


 おっと、勘違いしないで欲しい。



 誰に対して弁解しているのか自分でも分からないけど、これは世界の命運がかかっているからであって、わたくしが魔王様を独り占めしたいから他の女が邪魔、というわけではない。



 仮にそんな思惑で実行してごらんなさいよ。

 いろんな意味で、わたくしの命がいくつあっても足りないことになるぞ。


 と、やってもいないことをシミュレーションして、勝手に怖がってぶるりと身を震わせたわたくしは……はぁ、と一つため息をつき、大きなベッドに倒れ込む。



 モフッと弾力があって柔らかいベッドは、この家に来て以来わたくしをそっと包んでくれたものだけど、お前ともあと二ヶ月も経たぬうちにお別れなのですわ……許してちょうだい。



 それに身を任せながら、わたくしは胸に広がりかけていた彼への恋しさと、側にいない寂しさをゆっくりと溶かし、声を出さずにほんの少しだけ泣いていた。

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