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予期していた彼女との出会い

 扉が開いた瞬間、マクシミリアンはすぐに視線をそちらに向ける。



 わたくしからは見えないが、多分ジャンも目線だけを扉に向けていることだろう。


「こんにちは!」


 いよいよ顔も思い出せない当主(おとうさま)がやってきたのかと思えば――……姿を見せたのは腰ほどまでに金髪を長く伸ばした美少女だ。


「……っ……!」

 もしやその声は、我が宿敵、アリアンヌではないか……?

 思わず絶句した程度に、わたくしはその少女をよく……ええ、それはよく、知っている。


……彼女との出会いは数年前のこと。


 詳細を大幅に省くと、友人になりたいな~と互いに思っていた女の子が、急に貴族(じぶん)の家に断りもなく突撃して、身内になった……なんていう荒唐無稽な話――を誰が信じるだろうか。



 孤児院で暮らしていた彼女は、恐るべき行動力と幸運を発揮して……リリーティアの義妹というポジションにおさまってしまったのである。


 冗談だろうと思うかもしれないが事実であって、後押ししたクリフ王子と、それを許した当主もどうかしていると未だに感じている。


 むしろ、大変な目に遭って……なおかつ、自分と相容れない間柄になったのだから、忘れようにも忘れられるわけがないと思わない?


 分かってたけど! 家に来たんだから絶対会うって分かってたけどッ……普通、当主の前にいきなりコイツ、ってことはないでしょ……?



「――マクシミリアンさま! こんにちは!」


 わたくし一人、複雑な心境を抱えていることなどつゆ知らず、少女は開けた扉からそーっと顔を出し、マクシミリアンの姿を見ると、嬉しそうな声を上げた。


「ああ……アリアンヌ嬢。ご無沙汰している」


 とてとてと小走りでやってきた美少女に、マクシミリアンは先程と変わらず……いや、ほんの少し声音を落として挨拶を交わす。



 マクシミリアンだって『なんだよお前のことは呼んでねーよ』……とは思ったりしたのだろうが、そんなことを口に出すほどこの男は愚かではない。



「……あ……」

 そして――……アリアンヌは、マクシミリアンの隣に座るわたくしをじっと見つめ、息を呑む。ついでに『今気づいた』みたいな態度が少しイラッとする。


 でもって、わたくしの後ろに立つジャンの事は眼中にない。



 何回か以前見かけてるはずなんだけど……一応ジャンだってリメイク版からの攻略対象のはずだが、今のアリアンヌにとっては興味が無いんだろう。



「…………」

「…………」



 わたくしたちの間に沈黙が流れる。


 こんにちは~くらい言えば良いのかしら。でも、そうね……。




「……もう会うことは無いと思っ」「きゃぁ~~~リリーティアお姉様ぁ~~~!! やっとお会いできましたねっ!」


 先程マクシミリアンに向けた笑みの数倍ほど輝かしく、甲高く黄色い声を上げながらアリアンヌはわたくしの前に立つと、テーブル越しに身を乗り出して『お姉様』の顔をまじまじと至近距離で眺めてきた。



 うわ……だめだ……全てにイラッとした……。

 自分の眉がぴくぴくと小刻みに震えたのがわかる。


 が、アリアンヌはこちらのことなど全く気にしていない様子でさらにはしゃぎ続けた。



「わぁああ……前からすっごい美少女だったのに、またこんなにお綺麗になられて……今まで会えなかった分、これからいっぱい、い~~っぱい仲良くしましょうね! うふふ、これからお姉様と暮らせるなんて夢のよう……嬉しい気持ちで一杯です!」


「顔が近いですわよメルヴィさん……扉を開ける前にノックくらいなさってはいかがかしら。わたくしが美少女だということは、わたくしが一番よく存じ上げておりますが、褒められて悪い気は致しませんので、そこだけはありがたく頂戴しておきます」


「もうメルヴィじゃないですっ! アリアンヌですよ~っ!」


 甘えたような口調がますます神経を逆なでした。横と後ろで聞いているマクシミリアンとジャンは大丈夫なのだろうか。



 ほんと、美少女じゃなかったら頬をつねり上げてやりたい。


 自分の顔に感謝するんだな……と口に出さず、アリアンヌの頬をギューっと引っ張る妄想だけでなんとか堪える。



 聞く人によっては自らが美しいというわたくしの言葉こそ傲慢に聞こえるのだろうが、リリーティア……いや、リリーティアに成り代わってしまったわたくしにとっては、刷新された美麗なパッケージイラスト通り、これは本来あるべき姿でしかないわけだ。



 むしろ、キャラクタの中でリリーティアのキャラデザが一番最初に萌えた程度に好ましかったんだもの。


 だからパッケージ通り成長できて本当に良かったと思っているし、リリーティアを形成している全てが大好きなのだから、顔や整った身体を褒められるのは『そーでしょ? すんごい可愛いでしょ? わかりみ強いっ……!』くらいに全肯定している。もちろん自分でも努力はしたから、余計嬉しい。



 今まで彼女というかわたくしを『ブス』だとか、はたまた『エロガキ』と罵ったのは、後ろに控えているジャンくらいのものだ。



 そして、リリーティアを褒めちぎりラブ全開で来るこの金髪美少女アリアンヌこそが、ピュアラバ無印版からの主人公(ヒロイン)……人類を魔族の脅威から救う【戦乙女】と呼ばれる存在の生まれ変わりってわけ。


 そして――リリーティアは無印版ではパッとしない悪役令嬢だったはずなのだが、リメイク版ではなんと魔界を滅亡から救うもう一人のヒロイン【魔導の娘】となっていた……っぽい。


 つまり……リリーティアとアリアンヌは義理の姉妹でありながら、魔族と人間、それぞれ敵対する存在のヒロインになっているのだということを、わたくしだけが知っている。



――ちなみに、リメイクは未プレイ(やろうとしたら成り代わった)なので、この世界に来てから行動でそういうのを理解した。



「お待たせ致しました。ご主人様がお見えです」


 そんなことを考えながら、このうっとうしいアリアンヌをどうにかしたいと思っていると――執事がそう告げ、あら、と言いながらアリアンヌは勝手にわたくしの横に座った。


 おぉ……相変わらずマイペース……出会った頃はもう少しちゃんとしていたのに……なんでこんなバカになっちゃったの……。



「――お待たせしてしまい申し訳ございません……」

 やや緊張した声音で、姿を見せた四十代くらいのダンディなおじさま……と、その後方から、三十代半ばくらいの淑やかな女性が姿を見せた。



 そう、わたくしの両親……だ。


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