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南の洞窟

 王都ルミエールから南に位置するラグナートという村。

 冒険者(トラベラー)の男に道案内してもらったお陰で、時間を掛けずに来れた。

 グラナート村は、西側に小川が流れており、村の南に大きな山がそびえ立っていた。

 なるほど、良く言えば、自然豊かな場所。悪く言えば、田舎臭いということか。

 村だからか、人は多くない感じがする。男は年寄りから子供までいるが、女は年寄りと子供しかいない。やはり若い女性は一人もいないな。

 他にいるとすれば、武具を身に付けた冒険者達くらいだ。

 ん? 何か冒険者達と村人達で言い合いをしているぞ。

「……気にするな。まずは村長のところへ行くぞ」

「あ、ああ」

 なんだろう? 気になるが、時間を割くほど余裕はない。

 俺達は村長の家に向かった。

「新しい冒険者を連れてきた。コイツらに割り符を」

 ん? 割り符? なんだ、それは。

「あれだけの冒険者達が洞窟へ入って戻らん上、また新しい冒険者じゃと? 本当に大丈夫なんじゃろうな?」

 もちろん、疑うのも無理は無い。助けてくれと言って、誰も戻らないなら、最悪逃げた。と思うだろうし。実質、目の前に逃げてきた冒険者がいるからな。

「今度の冒険者は今までの奴らより強い。だから、大丈夫だ」

「……分かった。じゃが今回だけじゃぞ。今回も戻らんかったら、どう責任を取って貰おうかのぅ」

 相手が分からない以上、絶対なんて無いからな。

「もしそうなったら、それはギルドに言ってくれ」

「……割り符じゃ」

 なんか、長方形の木板を三つ渡された。

「それは南の洞窟へ行くための通行手形みたいなもんだ。無くすなよ?」

 ああ、通行手形か。確かに無くしたら一大事だな。

「行ってきます。必ず連れて行かれた皆さんを連れて帰ってきます」

「安心して待ってな、爺さん」

 シャロンとヴォーデくん。いや、敵が何者かも分からないのに、変な約束はしないで。

「さあ、行くぞ。時間は限られてるんだ」

 なんか、男に仕切られてるんだが。良いのか?

 村長の家を出て、村の南にある門の前に槍を持った村人が2人、立っていた。

 ああ、なるほど。あの見張りに割り符を見せて洞窟へ向かうんだな。

「止まれ。ここからは割り符が無いと──」

「時間が惜しい。これでいいんだろう」

 男が割り符を見せると、見張りの男達が慌てて道を空けた。

 割り符はここで見せれば良いのか。

 俺達3人も男を見習って、割り符を見せるといとも簡単に通ることが出来た。

 俺達は村を出ると、更に南にある洞窟へと向かった。

 村から南に位置する小さな洞窟。洞窟内は事前に聞いた通り、奥行きはあるのだが高さがあまりなかった。

「……良いか。松明(ランタン)を壊されるなよ。奴等は暗闇に強いからな」

 暗闇に強いとは、どんな奴等なんだろうか?

 中へ入り、松明に灯を点けると、ぽわっと自分達の周辺が明るくなった。洞窟内全体は、流石に無理か。

「奥に進むぞ」

 はぁ。松明の灯りを守りながら、戦うことになるのか。

「◆▽□▲△☆!」

「奴等だ! 気をつけろ」

 意味不明な言葉で何か叫んでる! 確か、松明と自分を守るんだったな。

「──っ!」

 殺気!?

「おりゃ!」

「ぐがっ!」

 短剣で敵の喉元を突くと、呻き声を上げて地面に落ちる音が聞こえてきた。さて、敵の正体は──っ!

「コイツは……」

 ……ゴブリンかよ。コイツらは単体で存在するわけが無い。

 ということは、まだ仲間がいるはずだ。

「敵の正体は小鬼か……厄介だな」

 男も同意見のようだ。

 ゴブリン達は、この洞窟に住んでいるだろう。

 そういえば、ゴブリンって、残虐で、弱い者から狙ったり、女性を襲う狡賢い魔物だと、学生の時に読んだ漫画に書いてたな。攫われた女性達の安否が心配だ。

「相手が小鬼ということは、村の娘達が危険だ。ただ奴等は狡賢いから、気を付けて進まないといけないな」

「そうだな」

 なんか、後ろから刺さるような視線を感じる……。恐らく、シャロンだろう。だって、先頭は道案内してもらってる冒険者の男だし。ヴォーデくんは、俺の前にいるし。

 つまり、俺の後ろにはシャロンしかいないわけで。

 シャロンさん? これは、下心とかそういうんじゃないのよ。ゴブリンは、女性達の敵なんだから。純粋に心配しているだけなんだよ?

「だけどよ、相手は小鬼だろ? コイツら、そこまで強くないはずだぜ?」

「小鬼を舐めるな。コイツらは自分達が危険な目に遭えば、一致団結して敵を倒す位の力はあるんだぞ」

 だが、味方がやられても、悲しまない。それがゴブリンだ。

「そうそう。奴等は馬鹿だけど、間抜けじゃないからね」

 俺の読んだ漫画の主人公が言ってたし。

「なんだか知らねぇけど、気を付けろって事か」

「そうですね。小鬼は、頭が良いですからね」

 ……頭が良い? そうだっけか?

「とりあえず、短剣や魔法くらいだ。この洞窟で有効なのは」

「武器が壁とか天井にぶつかるからだろう?」

「ああ、その通りだ」

 だろうな。

「小鬼達は賢い。とも言われている」

 狡賢さは、奴らの得意分野だしな。

「用心深くて、手強い相手だ」

 うん。偵察出して、様子見たりするからね。

「……しかし、敵が小鬼だったとは……これはマズいな」

 何がマズいのだろうか? 面倒な相手だからか?

「今回は単体で襲ってきたが、集団で襲われたら危険だ」

「そうだな。奴らは集団で戦うからな。一匹ずつ殺していくしかないだろうけど」

 本当に面倒な奴らだからな。

「いや、それはダメだ。気絶させる程度に留めておけ。そうじゃないと厄介なことになる」

「小鬼族は仲間を大切にする種族なんです」

 えっ? 仲間を大切にする種族? そんな風には見えないけどな。俺が見た漫画にも、そんなこと書かれてなかったし。

「ああ。俺も聞いた話でしかないが、小鬼族の子供を殺した冒険者がいたんだが、仲間の小鬼族は怒り狂って、その冒険者を殺したらしい」

 へぇ、そんな感情あるんだな。あのゴブリンに。

「そして死んだ仲間を弔って涙を流していた。という話だ」

 奴らが仲間のために涙を流す? いや、有り得ないだろ。

「その話、脚色されたって事は無いのか?」

「いや、これは俺の仲間が話していた話だ。そいつは嘘を吐いたり、脚色はしない。つまり、奴らは仲間を失うことを極端に嫌うらしい」

 仲間を失うことを極端に嫌うだと? それが本当なら、この世界のゴブリンと俺がいた世界で有名なゴブリンとは別物って事か。

「ありがとう。参考になったよ」

 しかし、ゴブリンが仲間意識を持っているなんてヤバいだろ。

「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「イディオさん! 置いていかないで下さいよ!」

 あれは、確かラヴィッスマンとイディオだったか? あいつらも来ていたのか。でも何から逃げてきたのだろうか?

「気を付けろ!」

 ──えっ?

「△□▲◇◆☆▽!」

「▽☆□◇△!」

 声が複数! 集団で来たか。言ったそばから来られると、困る。

治癒師(ヒーラー)を中心に円陣を組め!」

「「「──っ!」」」

 男の合図で俺達はシャロンを中心に前方を俺が。左後方を男が。右後方をヴォーデくんが務めることになった。いや、俺が一番攻撃されるじゃないか。

 なんで、こんな面倒なことになったんだ。

「来るぞ!」

「死ねぇ!」

 えっ!? ゴブリンが人の言葉を!?

「呆けるな! 死ぬぞ!」

「──っ!」

 くそっ! 人の言葉を喋るゴブリンに驚いて茫然としてしまった。

 すぐさま、反撃に掛かるとゴブリンが悲鳴を上げて倒れたまま、動かなくなった。

 しまった。殺してしまった!?

 悲鳴まで人間みたいだ。

 なんだよ、これ。

「仲間の仇ィ!!」

「おのれ! 人間族(ヒューマン)めっ!」

 なんだよ、これ。まるで人間じゃないか!?

「くっ! だから、言っただろ。奴らは仲間を失うことを極端に嫌うって!」

「グヘッ!」

「グハッ!」

 二体のゴブリンが倒れるが、息はしている。

 この男、なかなかやる。

 しかし、ゴブリンに仲間意識が追加されるとか怖いな。

「△□▽◇☆▲◆!!!」

「また来るぞ!」

 今度は四匹か!?

「クソッ! こんな短いナイフで小鬼達を相手しなきゃならねぇんだよ!」

「愚痴言ってる暇があるなら、殺さず無力化させる事に力を注げ!」

 そう言われても、短剣の扱いに慣れてないんだから仕方ないでしょうが。

 しかし、よくもまああそこまで簡単にゴブリン共を無力化出来るな。実は俺達より強いのではないだろうか?

「◆◇▲☆──」

「やめなさい!」

 何者かが命令を止めた。それも俺達でも分かる言葉だ。ゴブリンを止める人間? 一体、何者だ?

「い、イア様!?」

 ん? いあさま? それよりもゴブリンが人間の言葉を!?

「その人間族に手を出すのは止めなさい」

「し、しかし。奴らを殺さなければ、我らが殺されます」

 なんだ? 人間に寛容な奴もいるのか?

「それは鬼族(オーガ)の指示でしょう。我らは小鬼族(ゴブリン)。彼らとは違います」

「ですが、逆らえば我らは……」

 何やら込み入った事情とやらがあるらしい。

「どうすんだよ、この状況」

「待て。何やら状況が変わったようだ。下手に奴らを刺激するな」

 ヴォーデくんの困惑も分かる。だが、男の言っていることも分かる。何故なら、周囲から殺気のようなものが俺達に降り注いでいるからだ。

 殺さなければ、殺される。という追い込まれた感じが。

「ええ。ですから、交渉というわけです」

 交渉? 誰と?

「そこの人間族の方」

 人間族は4人いるから、誰だか分からん。仮に指差されても暗いから分からんし。

「お前だ、そこの馬鹿面!」

 馬鹿面? もしかして、ヴォーデくんのことだろうか? 酷い言い様だ。可哀想に。

「なんでオレなんだよ!」

 いや、馬鹿面って言われてシャロンではないだろう。男も馬鹿面って感じではなかった。

 俺も馬鹿ではないし、そんな顔ではない。つまり──

「早くしろ、腰に剣を提げた馬鹿面」

「呼んでるぞ、馬鹿面」

 ……泣きたい。

「さ、サトルさんは馬鹿面じゃないですよ。どこか抜けた感じの顔というか……あっ、いえ。なんでもないでふ!?」

 シャロンさん、傷口に塩を塗らないで……フォローしてくれるのはありがたいけどさ。

「……行ってくるよ」

「頼んだぞ。下手なこと言って刺激を与えるなよ」

 分かってるよ。この痛い視線は堪えるし。

「人間族の方。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。名前はサトル・サガミハラだ」

「サトル様ですか。私はイア。小鬼族の族長の娘です」

 ゴブリンの娘……むすめ?

 ゴブリンに女なんていたか?

「何か疑問に感じられることがおありでしょうか?」

「いや、ゴブリンに女性がいるということが初耳だったんで、驚いただけなんだ」

「貴様! 人間種至高主義(ヒューマニズム)か!」

 ヒューマニズム? 何それ?

「お待ちなさい。サトル様、この世界の種族に関して、御存知でしょうか?」

「いや、申し訳ないが全く分からない」

 種族って、人間とエルフ以外は魔物なんじゃないの?

「まず種族には、人間種と亜人種がおります」

 ヒューマンとデミヒューマン? ヒューマンは人間だから、デミヒューマンは……ああ、亜人か。

「人間種は人間族しかおりません。亜人種は多くおりまして、耳長族、小人族、竜人族などなど多数存在します。小鬼族も亜人種に入ります」

 意外と多いのか、亜人種。

「そして人間種である人間族のみが優れているという考え方を人間種至高主義と呼びます。反対に亜人種のみが優れているという考え方はありません。ほとんどの種族が、自分の種族が一番という考え方をしますから」

 なるほどね。

「人間と亜人の間には深い溝があるんだな。偏見は良くないな。すまない」

「いえ、分かって頂けたのなら、構いません」

 許してくれたか、ありがたい。

「では、本題に入ります」

 そういえば、まだ本題に入ってなかったな。

「まず我ら、小鬼族は現在鬼族によって支配されています」

 オーガがゴブリンを支配か。なんのために?

「理由は分かりませんが、恐らくは我らが人間族と仲良くしているためでしょう」

 人間族と仲良く? それにしては俺、馬鹿面って言われたんだけど?

「あなた方には、鬼族を倒して貰いたいのです」

「都合のいい話だな。村の娘達を攫っておいて」

「……それについては、申し訳ありません。命令には逆らえず、村の娘達には悪いことをしました。ですが、彼女たちは無事です」

 彼女の言葉が真実なら、無事だろう。だが、嘘なら……。

 まあ、ホントか嘘かなんて考えてる暇も無いか。

「分かった。案内してくれ」

 俺達は、小鬼族の娘イアの案内のもと、奥へと向かった。

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