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王都ルミエール

 ルミエール。メディアル大陸を治めるセイクリッド王国の首都であり、冒険者ギルドの本部がある街。だと、シャロンから教えて貰った。ちなみにメディアル大陸とは、俺達が今いる大陸の事である。これもシャロンから教えて貰ったことだけど。

 流石、首都と呼ばれるだけある。アルクスやメルカトールとは比べ物にならないほど、街の規模が大きい。

「──っ!」

「……ヴォーデ、あまりあちこち見ないで。お願いだから」

 まあ、ここまで広いと驚いて辺りを見渡すよね。俺も社会人になって都会に来た時は、同じ感じだったし。

 周りから見れば、完全に田舎者丸出しだろうけど。

「わ、分かってる! 分かってるけど、オレらの村や……今まで行った街に比べたら……おっ! 何だ、あれ!?」

「……サトルさん、申し訳ありません。ヴォーデが恥ずかしい真似をしてしまい」

 ……ごめん、ヴォーデくんのこと笑えない。

「まあ、都会に来ると気持ちが浮き立つのは誰にでもあると思うよ。俺だってあったからね」

「……分かりました。サトルさんがそうおっしゃるのであれば」

 なんか、シャロンは納得していないな。俺にヴォーデくんを叱って欲しかったのかな? 別に気にするほどじゃないし。まあ、行き過ぎるなら、叱りもするけど。

「おい、何してんだよ。早く冒険者ギルドの本部へ行くぞ!」

「─あっ! ヴォーデ、ちょっと待って!」

 やれやれ。ヴォーデくんはせっかちだな。といっても、このままだと俺だけ置いてかれそうだし、追いかけるとしよう。

「待ってく──っ!」

「痛ぇ!」

 痛たた……。誰だ? 前に誰かいたか?

「オメェ! 目ん玉、何処に付いてんだぁ? イディオさんが痛がってぇるじゃねぇか!」

 目ん玉何処に付いてるって、アナタと同じ場所に二つ付いていますが? 何これ、当たり屋?

「おい! 聞いてんのかぁ!?」

「……大変申し訳ございません。次は気を付けます」

 こういう時は、謝ればなんとかなる。文句は言ってくるだろうけど、我慢すればじきに相手も言い疲れて何処かへ行くだろう。

 こんなときに、クソ上司への対処法が役立つとは。

「オメェ、舐めてんのか? 謝れば良いってもんじゃねぇぞ!」

「舐めてはおりませんが、不快に感じられたのであれば大変申し訳ございませんでした。以後、気を付けますのでご容赦下さい」

 ここでケンカ腰はいけない。こんなのクソ上司に比べれば、大したことはない。

「オイ、腰巾着。こっちは急いでんだよ、邪魔すんじゃねぇよ」

「ああん! いまなんつった?」

 あれ? こっちの世界にも″腰巾着″って言葉あるんだね。

 ──って、そうじゃなくて。ヴォーデくん!?

「聞こえなかったのか? 腰巾着」

「ああん! 誰が腰巾着だぁ? ぶっ飛ばされてぇのか!?」

 ちょっと、これヤバイ展開じゃないか?

「はん! やれるもんなら、やってみろよ。この腰巾着が!」

「てめぇ! また腰巾着って……許さねぇぞ!」

 ああ……喧嘩が始まっちゃったよ。せっかく穏便に済ませようとしたのに。どうしよう……止めないとマズいよな?

「止めておけ、ラヴィッスマン」

「──イディオさん!? で、ですが……」

 あの腰巾着くんはラヴィッスマンというのか。しかし、彼の相棒? と思われる男。明らかに粗暴(そぼう)な見た目に反して喧嘩を止めた。これは見た目で判断するな。ということか?

「悪い、こっちが失礼した」

「いや、こちらこそすまない」

 なかなか良い奴なのかもしれないな。この男。

「すまんな。こっちも急ぎの用だったんでな」

「あ、ああ。こちらこそ引き留めてすまない」

 謝ってはいたが、何か悪意を感じる。俺だけだろうか?

「へんっ! 今度会ったら、覚えとけよ!」

 ヴォーデ、それは小者の悪人が使う言葉だからね。

「それにしても、あのラヴィッスマンって人、感じの悪い人でしたね。ただイディオって方が、いい人で良かったです」

「けっ! いい人のように見えて、実は悪い奴って相場が決まってんだよ!」

 まあ、また会うならともかく。ヴォーデくんの意見には賛成だ。あの男、何か裏がありそうだ。まあ、悪い奴なら相手をしなきゃ良いことだし突っかかってくるのであれば、ギルドへ報告すれば問題は無いだろう。

 とりあえず、″触らぬ神に祟りなし″ということわざもあるし。最悪、関わりすぎなければ良いことだし。


 冒険者ギルドルミエール本部。セイクリッド王国内に点在している街のほとんどにある冒険者ギルド。それらを統べる総本山。それがここである。

 本部の中は今まで行ったギルドより断然広く、勤めているギルド員だけでなく、状態確認(ステータスチェック)を行う部屋の数も支部に比べれば倍以上だ。

「ここが冒険者ギルドの本部か。流石、本部だけあって広いな。人も多いな」

「そうですね。設備も充実してそうですし」

「おい、それよりまずはフリーの魔術師(メイジ)が居ないか訊くところからだろ?」

 そうだった。元々は、それこそが、この街へ来た理由だしな。魔術師が仲間になれば、皆とはお別れ……出来ないな。シャロンが赦してくれそうにないし。そんなに俺のことを放っておけないのか?

「冒険者ギルドルミエール本部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「あっ、すいません。仲間を探してまして。魔術師とかいませんか?」

 受付の女性が頭を下げた後、中央にある円柱の部屋へと入っていった。何? 仲間捜しって、こういうシステム? なんていうか、ル○ーダの酒場ですか? ここは。

「お待たせ致しました。先程の件ですが、大変申し訳ございません。登録されております冒険者の中でソロの方は現在おりません」

 えっ? そんなことも分かるの? ギルドって。

「……じゃあ、ソロじゃ無くて良いからとりあえず魔術師はいないのかよ」

「ええ。魔術師がおりますパーティーは皆様方、仕事(クエスト)に行っております」

 クエスト? そういえば、今いる人間はほとんどがギルド員だ。ただ冒険者が全くいないわけではない。散見する程度だ。

「本部に冒険者が疎らにしかいないってことは、今何か大きな仕事があるってことですか?」

「は、はい。冒険者方は現在Dランクの仕事と請けております」

 Dランクの仕事に大勢の冒険者? 意味が分からない。

 ホントにDランクの仕事なのか?

「ちなみに、その仕事ってどんな内容なんだ?」

「えっ? は、はい。依頼内容は、(かどわ)かされた村の娘達を救出するというごく簡易なものとなります」

 拐かされた? ああ、誘拐ってことか。しかし、村の娘を攫うなんて酷い奴だな。

「あの、サトルさん。何か良からぬことなんて考えてませんよね?」

「へっ? 何のこと?」

 シャロンは、どうしたんだろうか? 俺の顔を睨むように見て、何か疑っているような……はっ! まさか、俺疑われてるのか? しかし一体何を。

「どうせだし、その依頼を請けちまおうぜ」

「ヴォーデ……最低」

 シャロンさん、今度はヴォーデくんの方を向いたと思ったら、冷たい言葉を投げ掛けた!? でも、何故そんなこと言い出したんだろうか。

「はぁ!? なんで最低なんだよ。その依頼を済ませりゃ、冒険者達も戻ってくるし。そしたら、魔術師がいるパーティーの中でもパーティー数が少ないパーティーと一緒に旅すれば、人数増えるし、魔術師も仲間になるから一石二鳥じゃねぇか!」

「えっ?」

 なるほど、確かに。しかしヴォーデくんは、そこまで考えていたなんて。本音言うと驚いた。口には出さないけど。

「なんだよ、お前ら。まさかオレが何も考え無しに言ったと思ってんな!」

 うん、その通り!

「ごめんなさい。ヴォーデがそこまで考えていたなんて。思いもよらなかったわ」

「お前ら……」

 あっ、ヤバいな!? 怒らせてしまったかな?

「それより、仕事の依頼は受けましょう!」

「……」

 シャロン、俺に振らないで欲しい。ヴォーデが依頼を受けようと言ってるんだし、彼に振れば良かったのに。また恨まれるじゃないか。しかし待て? 大勢の冒険者が請けたって事は、その依頼。早く終わるんじゃ無いか? ここで待てば、いずれ戻る可能性はないか?

「……ヴォーデくんの言う事は分かるが、すれ違いはマズい。一旦待とう。状況を把握しないと」

 ヴォーデくんには、悪いが慎重にいかないと。別に面倒だからとかじゃないよ?

「はぁ? そんな悠長な事言うとか、有り得ねぇ。魔術師が必ずここに戻らない可能性だってあるんだぞ!」

 いや、そう言ってもすれ違いはマズいでしょ。

「あの……如何します? 仕事を請けますか?」

 ああ、受付の人も困ってる。困らせちゃダメだろ? ヴォーデくん。

「あぁん? テメェ──」

「──おい! あのDランクの依頼。ホントにDランクか?」

 なんか、血相を変えてギルドへ飛び込んできた男が受付の人に仕事の件で問い質した。

 何だ?

「……申し訳ございませんが、どの仕事でしょうか?」

「あ、ああ。すまない。南のグラナート村の娘を救出する依頼の件だ」

 ん? 大勢の冒険者が向かった仕事か。どうしたんだ?

「あの仕事はDランクのはずですが、何か不都合でもございましたか?」

「相手は手練れだ。Cランクの冒険者揃いの奴らが手も足も出なかったんだ。明らかにBランクの仕事だ」

 えっ? それってやばくないか?

「しょ、しょ、少々お待ち下さい!?」

 受付の人も慌てるのも無理は無い。確かBランクって、レベル20以上の人間じゃないと難しいヤツだよな。

 これ、請けない方が良いんじゃ……。

 あっ、受付の人が戻ってきた。ん? 誰か連れてきたな。

「ギルド長のデュクスと申します。もう少し詳しい話を聞かせてくれますか? 敵は何者なんですか?」

「うう……いや、それが奴らは暗闇を利用して攻撃してくるから、目が慣れるまでに味方は倒れていくんだ」

 まさかのギルド長の登場か。それほど状況は、逼迫(ひっぱく)しているのか。しかし、相手も賢いな。ん?暗闇を利用するって、松明(ランタン)を使えば、良いのに。

「松明は使わないのですか? 何故、わざわざ相手の有利な戦い方?」

「最初は皆、松明を持って入っていくんだ。俺達もそうだった。だが、奴らは松明を壊し、意図的に暗闇を作るんだ。その隙を狙われて……」

 なるほどな。暗闇に慣れた敵と慣れてない冒険者達なら、勝敗は決まったようなものか。

「……あなたは、どうやってここまで?」

「……そ、それは」

 ん? なんか、言い淀んだな。もしかして見捨ててきたのか?

「コイツ、仲間を囮に逃げて来やがったな」

「……そうなのですか?」

 どうなんだろうか? 本当なら、最低なヤツだが。

「……仲間を囮になんてするか! 仲間を引きずってでもここまで来たかった。だがな、死んだ奴らをどうやって助ける?」

 なんか、言い訳にしか聞こえないな。

「……それで、レベル20以上の冒険者を求めてここまで逃げてきた……と?」

「ああ、そうだ。何もいらない。俺は皆の仇を取りたい。だけど、俺の力じゃそれも叶わない。裁きなら、後でいくらでも受ける! 今は冒険者達を助けるのに時間を割きたい」

 マジかよ。目が本気だと言っている……風に見えるな。

「そう言って、逃げるつもりなんじゃねぇのか?」

「ヴォーデ!」

 ああ、ヴォーデくん。余計なことを。

「一応、私達は、彼を除く全員がレベルは20を越えてます。私達では、ダメですか?」

 あれ? シャロンさん? それって俺とあなたのこと? 確かにヴォーデくんを指差して彼と言っているけど。えっ、行くの?

「それは仕事の請負ということでよろしいでしょうか?」

「はい」

 シャロンさん、人の顔見て良いですよね? みたいな顔しないで。そんな顔されたら、断れないじゃないか。

「……ああ、シャロンの好きにしたら良いさ」

「承知しました。今より仕事請負の受理を承りました。では、詳細は彼にお聞きください」

 詳しくは、目の前にいる冒険者に訊けと。まあ、当事者みたいなものだしな。

 それにギルド長も、奥の部屋へ消えてったし。

「あの、その依頼にはどれくらいの冒険者達が参加してるんですか?」

「そうだな……だいたい十数組くらいだったな」

 十数組くらい……それでも苦戦している。相手の正体さえ分かればなんとかなりそうなんだがな。多分。

「急ぎましょう!」

「急ぐぞ、早くしろ!」

 そりゃあ、急を要しているのは分かるけど、そんなに急かさなくても……。

 悲しきかな、俺は二人に両腕を引っ張られながら、ギルドを出た。恐らくグラナート村へ向かうのだろう。

 冒険者ギルドを出た俺達。

 冒険者の男の話では、洞窟内は広さは十分あるが高さに余裕が無いらしく、使える武器も制限されることが分かった。

 ということで、準備はしっかりと整えた方が良いだろう。

 武器や防具。それ以外にも色々と道具類を。

 武器は縦幅が狭い洞窟内でも戦える短剣を。それと小さな斧。

 防具は、軽装鎧とローブを買った。

 道具類はポーションとマナポーションと松明、その他諸々を。

「これで準備万端だな。グラナートを目指すぞ!」

「「おーっ!」」

 皆、意気込みが凄い。俺も覚悟決めるか。

 俺達は南のグラナート村へと向かった。

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