prolog
ヴォーデ・アンビシオンというシャロンの幼なじみで斧使いの冒険者を仲間にし、三人で一路この国の首都であるルミエールへと向かっていた。
「……おい」
「なんだい? ヴォーデくん」
彼から声を掛けてくるなんて珍しい。メルカトールを出てから一度も、俺のことを無視するから困ってた所なのに。主にシャロンがだけど。
えっ? お前じゃ無いのかって? いや、俺は男に声を掛けて喜ぶような人間じゃないし。まあ、返事は返すけど、一応仲間だからね。
「いつまでも、その呼び方で呼ぶのはやめろよ。ガキじゃねぇんだ。馬鹿にすんなよ」
「いや、どう呼べばいいか分からないからね。それにいきなり呼び捨てもどうかと思うし」
いきなり呼び捨てするなんて、馴れ馴れしくて怒られそうで嫌というか面倒だし。
「つうか、名前で呼ぶこと自体馴れ馴れしいんだよ」
なるほどね。名字で呼べと。仕方ないな。じゃあ、心置きなく名字で呼ぶよ。
「サトルさん、ヴォーデの事は名前で呼び捨てして良いんですからね。仲間なんですし」
「シャロン!? おまっ──」
あっ、シャロンがヴォーデくんの口を押さえている。
「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて、ヴォ──」
「──ああん!」
「──アンビシオン」
睨まれた。キレる若者、コワイ。
「仲間同士の喧嘩はダメ。サトルさんは、仲良くしてくれてるんだからヴォーデも歩み寄らないと。じゃないと、私も名前で呼ぶのやめるから」
「──っ!?」
シャロンさん、それは脅しというやつでは? なんかヴォーデくんが激落ち込みしてるし、相当堪えてるだろうな。仲良しの幼なじみに距離感ある呼び方されると。
「仲間同士で呼び合うときは、名前で。それも呼び捨てで。良いよね?」
「ハイ、ソレデイイデス」
ヴォーデくんが大人しく従った。ホントにこれでいいのだろうか?
「サトルさんも良いですか?」
「えっ? あ、ああ。悪い、俺は特に問題は無い」
まあ、呼び捨てされて嫌がるのは、ヴォーデくんだけだし。
……横から鋭い視線を感じるけど、無視無視。
ただ、問題が一つある。
「ま、まあ。ルミエールまでだしな。その後は、お前とは別々になるから、我慢してやるよ」
「そうか。それなら、仕方な──」
「ヴォーデ、それはダメ。サトルさんと三人でこれからもずっと一緒に旅を続けていくの。ですよね、サトルさん」
初耳なんですが、シャロンさん。そんな話でしたっけ?
「おい、シャロン。当の本人は知らないようだぞ」
「あれ? おかしいですね。サトルさん、前に話したじゃないですか。もう忘れちゃったんですか?」
コワイデス、シャロンサン。
「あ、ああ。そういえばそんなこと言ってたな。悪い、忘れてたよ」
「忘れるなんて、ダメですよ? サトルさん」
仕方ないじゃ無いか、ヴォーデくん。話し合わせないと怖いんだよ。シャロン。君だって分かるだろ? だから、睨むのは止めてくれないか。
「……分かったよ。それならそうと、早くルミエールへ行こうぜ」
いや、ヴォーデくん。そこまで急かさなくても……。
「早くしろよ、置いてくぜ!」
「あっ、待って。ヴォーデ──」
もう強引な子だな。面倒だけど、放っておけないし付いていこうか。
俺とシャロンがヴォーデくんを追う形で、ルミエールへと歩き出した。