第46話
ちょっと長いですが、前半は前回のまとめ的な感じですはい。
翌日、有野総理大臣は声明を発表した。
「昨晩の東京に対する何らかの可燃性物体の投下について、被害にあわれた国民の皆様にお見舞い申し上げます。
今回の事案最大の問題は、領空侵犯を犯したなんらかの"生物"の領土上空への侵入を許してしまったことであります。その後航空自衛隊の戦闘機が対象を撃墜したとのことですが、これは完全なる正当防衛でありました。
しかし、日本領土に被害を与えた事実には変わりなく、今回の事案が再発しないように、対応を急ぐ予定であります。
国民の皆様には、ご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします」
防衛省 緊急記者会見
防衛省は、統合幕僚長による記者会見が行われていた。日本国外からの攻撃を受けたこともあり、防衛省の活動には国民の関心も高かった。
「昨晩の自衛隊の活動についてご報告いたします。
昨日1951頃、峯岡山のレーダーサイトが房総半島沖に飛行する3つの機影を確認、すでに防空識別圏間近の探知であったため、百里基地の301飛行隊に対領空侵犯措置を発動、F-4EJ改戦闘機が2機緊急発進いたしました。
しかし、3分後に峯岡山のレーダーサイトが対象を探知できなくなりました。当初入間基地の防空指揮所は、これに対してレーダーサイトの誤探知か、本当に領空侵犯をしているかの確認のために、対領空侵犯措置は解除せず、F-4EJ改戦闘機に低空での飛行を命じ、探知を続行いたしました。
1957頃、東京湾沖にて哨戒活動より帰港途中の第2護衛隊群第6護衛隊所属の護衛艦きりしまが、対象を探知。電測員による手動操作にて対象の継続監視を実施し、その情報をもとに、F-4EJ改が急行いたしました。
しかし、すでに再発見時には領空に侵入いたため、戦闘機乗員より警告射撃許可の申請があり、中部方面航空隊は警告射撃の許可を出しました。
それに伴って、対象に接近したF-4EJ改戦闘機は退去の警告を発しましたが、対象に依然動きがなかったため、写真撮影を実施いたしました。この際に、対象がなんらかの生物であることを確認いたしました。
そして、警告とほぼ同時に、航空総隊が東京が"攻撃"されたことを確認。現在領空侵犯中の目標から為された可能性が高いとし、自衛権の発動として、対象を強制着陸ないしは撃墜も視野に入れた行動を下命。
F-4EJ改戦闘機は対象が太平洋へと進路を取ったため、追跡を行いました。
当初はこのまま防空識別圏外まで追跡し、行動を終了する予定でしたが、対象が急遽再び日本領空へと進路を取ったため、まず機関砲による警告射撃により、進路を北になるように誘導、そのまま再度攻撃される事態を防ぐために、空対空誘導弾による撃墜を実施。すべて命中いたしました。
F-4EJ改戦闘機は燃料と空対空誘導弾の使用により、帰投し、後続のF-4EJ改戦闘機と三沢基地のF-2戦闘機が監視を続行。撃墜した生物が海に墜落したことを確認したため、帰投いたしました。
その後は早期警戒管制機による探知を継続して行っております。
また、東京付近の部隊に対して、防衛大臣命令により災害派遣を行い、被害者の救命活動を行いました。以上です」
続いて記者団からの質疑応答である。
>自衛隊初の撃墜事案についての所感について
「我が自衛隊が果たすべき国防という役割をしっかり果たせなかったことは、残念でありますが、被害の拡大を最小限に抑えることが出来ていたと思います」
>領空侵犯時に警告を行ったとありますが、すでに本土上空であったのに撃墜されなかったのはなぜか
「首都圏上空で撃墜すると、墜落した際に墜落場所の被害が多きことや、前例のない撃墜例や対象が生物であることから、なかなか命令が下りなかったからであります」
>今後の対応策は?
「対生物に対するマニュアル作成、探知能力を向上させる改修の検討、探知能力に秀でている機体の転属などです」
>撃墜した生物の回収などの予定は?
「まず撃墜した生物の状況を外見より調査し、引き揚げなどの処理調査を行う予定です」
>防衛費の増加が閣議決定されましたが、どのような部分に重点的に予算を使う予定か。
「まず最大の配分先は、自衛隊の人件費です。今回のオルスター王国派遣に従事した隊員に地域手当の配給、および一般隊員の給与の増額を予定しております。
また、使用兵器の国産化に伴う研究開発費への割り当てなども予定されております」
バナスタシア帝国 王城
「昨日の我が国に対する攻撃について弁明をお聞かせ願おう。場合によっては貴国のインフラ設備などの事業中止も視野に日本は入れている」
外務省に新たに創設された部署に、未確認国家局というものが作られた。これまでにあった総合外交政策局のなかにあった各地域の局を縮小し、この世界に対しての外交を担うものとして設立された。
その中に、マスニカ半島局がおかれ、そこにバナスタシア帝国担当課が設立された。その中の主任外交官に選ばれた、佐川 勝則 外交官がバナスタシア帝国に来ていた。
そこで、バシナリウス八世に昨日の攻撃事案の説明を求めていた。
なお、まさに中世の王城を彷彿とさせる室内に座っている佐川の両隣りに立っているのは、目出し帽で覆った特殊作戦群隊員4名で89式小銃と共に立っていた。
また、佐川たちがやってきたSH-60K(バナスタシア帝国付近の洋上に護衛艦2隻が展開中)の中にも普通科隊員がフル装備で待機している。
「何のことだ?我は本当に関知していない。そもそもその写真の翼竜は我が国には配備していないものだ」
墜落現場で撮影された翼竜の写真にバシナリウス八世は関与の否定を示す。
「そうですか。しかし我が国に敵対行動をとる国は貴国以外に存じていないのですが」
「知らん、おいまさか軍務省で研究を勝手にやってたりしないよな?」
軍務大臣は汗をだらだら流しながら否定する。
「いえ...我が国では翼竜を配備しておりませんので」
「そうか。その翼竜に人は乗っていなかったのか?」
「ご明察。翼竜の胴体に人が乗っていましたよ。幸い翼竜に固定されていたからか、救助は楽でしたよ。低体温症に意識不明でしたけどね」
「乗っていた騎手はどうするんだ?」
「治療のうえ、体調が回復した次第に事情聴取及びオルスター王国への輸送ですね」
「なぜオルスター王国に輸送する?」
「戦時中ではないので捕虜取り扱いが出来ないのですよ。なのでオルスター王国の管理下で事情聴取を行います」
「わかった。我がバナスタシア帝国は日本に全面的な協力をしましょう。貴国のインフラ整備事業は我が国の発展に大きく貢献するだろうからな」
「分かりました。では今日はここでよいとしましょう。まだ大使館の建設が終わっておりませんので洋上で待機させていただきますよ」
「うむ。今日はどうもありがとう」
王城を出た佐川はSH-60Kに乗り込み、そのままローター音をあげながらSH-60Kは飛び立っていった。
王城
「おい、本当のことを言え」
「な、何のことでしょう?」
バシナリウス八世が軍務大臣を呼び出し、尋問していた。
「貴様の慌てようを見ているとわかるぞ。もし言わぬなら貴様を罷免の上あそこに送っちゃってもいいんだぞ?」
「ひっ。あの...トルマン王国に国内の利権の一部と引き換えに協力を依頼しました」
「馬鹿か!」
「申し訳ございません!」
「日本の傘下に入った方が、我が国として良い意味で発展を遂げる。しかも一度降参した相手に再度攻撃を仕掛けるなんて我が国がしたか?我々も基本的には脅ししかしていないだろう?」
「はい...」
「しかも、日本は我々に国内の整備までするという。こんな好機を逃すわけにはいかんだろう?」
「その通りでございます」
「とりあえず今は状況を打開しろ。日本に嫌悪感を抱かせないように全力を尽くせ。処分はそのあとだ」
「全身全霊で頑張ります」
「とっとと出ていけ」
バシナリウス八世は意外と常識的かも?