第18話
翌朝
「では昨日の会談の審議についてお伝えいたします。まず、鉱物の採掘権に関してはこのマスニカ半島の先端部200Km、つまり我が国から北50Kmから250Kmまでの鉱物の採掘権を譲渡いたします」
「一つ質問なのですが、そこの領有権は貴国で間違いないですか?」
「はい。我が国に領有権がございます。しかしご存じの通り軍備が不足しているため、そこまで手が回っておりません。なので代価といたしましては採掘権が及ぶ範囲の警備などをお願いします。また、採掘権が及ぶ範囲でありましたら、自由に土地開発もしていただいて構いません」
「ほんとうによろしいのですか?領有権の引き渡しともいえる行為ですが、まぁありがたく享受させていただきます」
「では次に、大使館の設置に関しては歓迎いたします。大使館の位置については王都周辺とまでしか決議されておりませんので役人立会いの下、後々決定致しましょう。次に安全保障条約についても対等な関係であれば締結いたします。」
「ありがとうございます。大使館の至近距離に護衛として自衛隊が駐在するというのはいかがでしょう」
「護衛としてなら駐在していただいて構いませんよ。しかし人数の制限をいたしてもよろしいですか」
「人数制限に関してもかまいません」
「ありがとうございます。我々からは以上です」
「では我が国も。採掘権の対価としまして自動車の輸出は許可されると思います。しかしリバースエンジニアリング、つまり解体調査してその情報を他国に流すという行為はおやめいただきたい」
「重々承知しております。情報管理に関しては厳重にさせていただきます」
「貴国が独自に発展させるだけであればかまいません。そして、食糧輸入に関しての恒久的な補給はお約束いただけますか?」
「それに関しては日本の要求する量の半分程度までは供給できますが、全部というのはいささか無理がございまして」
「半分ですか...まぁわかりました。我々からは以上です」
「こちらからも以上です。では閉会といたしましょう」
今回の会談でオルスター王国はマスニカ半島の先端部の領有権を実質的に渡したという形になるが、これは意味があっての行動である。金属物資の生命線ともなろう土地を日本がやすやすと渡すことはしないと想定し、強大な軍事力をもつ日本に警備をしてもらうという戦略だった。
そもそもこの土地はもともと開発しにくい土地だったのであるが。
首相官邸
「会談でいろんなものを得たな」
首相かつぶやく。
「安全保障条約と採掘権、大使館の設置。まぁ地球での外交だったらひとまず安心というところか」
「安全保障条約を締結したからひとまずは攻撃される恐れはないな。採掘権も広大な範囲を得れたようですし」
「でも一つ気がかりなのはオルスター王国もその土地に踏み入ったことがないというところだな。普通なら地質の調査などをすると思うのだが」
「とりあえず地質調査などを開始するように通達してくれ。それと地質調査の前に対象地域の安全確認も行ってくれ」
「つまり自衛隊の派遣ですかね」
「自衛隊には申し訳なく思っているが仕方がないな。もうちょっと予算増やすよう財務省に通達するか」
「多分人件費が足りませんな。その件も通達しておきます」
首相と補佐官は雑談しながら目の前の書類を片付けていく。
オルスター王国 王城 会議室
「とりあえず、不可侵条約を向こうから提案してきてよかったですな。でも条約が破棄されるかもしれないので警備は万全にな」
「もちろんですな。でも本当にいわば領有権を譲渡してよかったのか?」
「これで警備は日本に押し付けられる。万が一バナスタシア帝国が戦争を吹っかけてきても日本が領有権を保有しているといえば矛先をそらすことを出来るだろう」
「私たちもあんな軍事力にあらがう気力はない。もしバナスタシア帝国と手を組まれてみろ。残忍な国家が世界最強になってしまうぞ」
「確かに...あと自動車の輸入ができるというのは大きいですな。馬車は速度性に欠けますし、全馬車に魔導発動機で補助をするなら魔鉱石が足りませんな」
「でもあれは魔力反応の類が一切なかった。実に不思議だ」
「日本は魔法という存在を知っていないそうだ。それであんなに発展できるというのも不思議であるな」
「やはり異なる惑星から転移してきた国家というのも本当なのか」
「にわかには信じ難いがな」
「これで日本側が屈服したらどうするつもりだ?」
「だから大使館なんだよ。もしそのような兆候があればすぐに問い詰めて場合によっては大使の捕縛をする」
「不可侵とか言ってなかったか?」
「安全保障条約を破棄したようなものに不可侵など守る義務はない」
「そうすか。しかし昨日の船はすごかったですな。船内は清潔で明るく、そしてみたこともないようなサイズ」
「しかも、空飛ぶ機械ってか。魔法後進国って感じには見えんがな」
「まぁ日本に関しても調査していきましょうか」
省庁幹部たちの会談はこれにてお開きとなった。