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顔じゃありません  作者: ニビル
第一章  中
9/26

金策(2)

 お小遣いを欲しいとお願いした俺が言うのもおかしいが、まさか12歳の子供に、現金で5万円も渡すとは思わなかった。貰ったお小遣いで、楓さんにプレゼントをしたいからと言ってしまった手前、ちゃんとしたプレゼントを用意する必要があるな。だが、目的の欲しいゲーム機本体とソフトを購入したら、プレゼントを買う余裕がなくなってしまう。どうしたものか。まあ、その時はその時だ。人生前向きに生きると決めた。

 8月だから暑い訳だ。早速、外に出るが暑い。もうクーラーが効いてる室内に戻りたくなった。戻ろうかなと内心思いつつも、重い足を何とか動かす。つい数か月前までは扇風機すら使っていなかった。人間は弱い生き物だと個人的には思う。一度楽を覚えるとついつい妥協をしてしまう。

 病院の敷地を出ただけで汗ばむ。体力がなさすぎて気力が限界だった。歩いて目的地に行くのは不可能だ。お金は十分にあるのでタクシーを呼ぶことにした。スマホで近場のタクシー会社を検索する。ここがよさそうだ。


 「クラシーヴィー(美青年)タクシーです。いつもご利用ありがとうございます。何分コースにしますか?」

 「コースですか?10分~20分くらいで目的地に着くと思いますが」

 

 変なことを聞くなと思いながら答え、電話を切る。タクシーはすぐ来てくれるらしい。よかった。 

 後ろを向くと、女性が俺の目を見て手を振ってきた。俺も片手で返事をすると、その女性が早足で俺のそばに向かってきた。

 

 「何かな?皐月くん?」

 「……どうして俺に着いてくるんですか?楓さん!?」


 女性は先ほど別れたばかりの楓さんだったのだ。

 

 「だって、心配で……迷子にならないとか、知らない人に付いていかないとか」

 「そんな――、子供じゃないんだから大丈夫」

 「何言ってるの。皐月君はまだ12歳でしょう?それに、一人で外に出たことないよね?」

 「うっ」

 

 忘れていた。今の俺は12歳で、大人の楓さんから見たら世間知らずの子供だった。


 「お仕事の途中だと思うんですけど……抜け出していいの?」

 「皐月君といるのも仕事なんです」


 楓さんの詳しい仕事内容は聞いていないし、聞く気もない。この世界の公務員で何やら男性関係の仕事をしているのはわかっているが。仕事とはいえ、俺に振り回されて大変だなと思っても、俺は好き勝手に生きると決めたので遠慮はしない。


 「それで、誰と電話していたのか教えて貰えないかしら」


 目ざといな。よく見ている。暑くて、疲れて、歩くのが嫌になったからタクシーを利用するといったら怒られるかな。


 「タクシー」

 「タクシー?」

  

 楓さんと話していたらタクシーが見えた。あれかな。


 「じゃあ、俺はこれで」


 逃げるようにタクシーに乗り込む。当然のように一緒に乗る楓さん。

 もう好きにしてくれ……。車内は冷房が効いていて涼しい。

  

 「ズトラーストヴィチェ(こんにちは)。岩井隆司です。20分コースでよろしいですか?」

 「あ!」


 俺はここで声のする方を見て初めて驚いた。タクシーの運転手が男性だった。なんてことだ。この転生して初めて出会った男は働いていた……。なんで男が働く必要のない世界で働いているんだろう。あまりの衝撃に、頭の中は楓さんのことは綺麗さっぱり忘れていた。……っと、いつまでも無言のままでは岩井さんが困るな。早く返事をしないと。


 「は、はい。20分でおねがいします」

 「――で、場所は間違いありませんか?」

 「ええ」


 目的地を告げる。室内は普通のタクシーと変わらないが一つだけ前世のタクシーと違いがある。運転手と客の間をを隔てるように鉄格子がある。洋画で見た護送車の中みたいだ。貴重な男に危害を加えないようにするためだろうか。


 「飲み物はどうしますか?座席裏にメニューが載っているので好きなのを選んでください」

 

 外が暑いため、ちょうど喉が渇いていた。飲み物完備で提供するのはこの世界では普通なのか?メニューはソフトドリンクからお酒まであった。いつもは成長を期待するために牛乳か水くらいしか飲まないけど、今日は暑いしちょうどいいか。


 「とりあえず生をひとつ」

 「皐月君!?何を頼んでいるの」

 「ちょっとした冗談ですよ」


 まずい。俺はまだ未成年だった。自分の事なのにすぐに忘れてしまう。

 

 「じゃあ、ウーロン茶で」

 「私も皐月君と同じで」

 「かしこまりました。ウーロン茶2つですね」

 「て、手!運転手さん。前を、前を見ないと」


 俺は慌てて声をあげる。もう車は出発している。しかし運転手はのんびりと助手席にある小型冷蔵庫から飲み物をとりだしグラスにウーロン茶を注いでいる。


 「完全自動運転だからね。目的地を入力したらあとは勝手に移動してくれる」

 

 こちらの世界は自動運転が実用化されているのか。人件費もかかるだろうし、運転手の必要性が分からんね。


 「自動で目的地に着くなんて便利です」

 「お嬢さんはタクシーはじめてなの?」

 「初めてです。俺はこう見えても男なんですが……」

 「すみません。クラシーヴィー(美青年)タクシーを利用するお客様は女性しかいないから勘違いしていたようだ」


 世間話をして、運転手の存在理由が分かった。タクシーを利用する客はほぼ女性しかいないので、運転手の男が接待しているらしい。貴重な男と話す機会があるので、女性には人気があるとか。

 

 「なんで国からお金が貰えるのに働いているんですか?」


 この男性を見ていたときから思っていた疑問をぶつける。運転手は大学生くらいの齢で若くて、顔も悪くない。なぜ働くのか俺には理解できない。首にドックタグのようなネックレスが見えた。


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