友達
俺は個室の病室で、今までの勉強の遅れを取り戻すように一人で自習をしていた。午前は勉強。午後は運動と規則正しい生活を送っていたはずだった。昨夜寝る前に偶然にみずきと名乗る少女と知り合った。もう会うこともないだろうと漠然と思ってたそばから……
「今日は何して遊ぼうかー。さっちゃん」
「……ここ、女性は基本立ち入り禁止。何当たり前のように入ってきたの」
「えっーー。だってーみずきの友達だし。遊ぶって約束したしー。それにー、楓おばさんも、さっちゃんに友達ができて喜んでたよー」
いや、遊ぶ約束なんてしてないだろ。四日楓さんは20代後半の綺麗なお姉さん。若いみずきから見たらもうおばさんなのか。
「何やってるのー。見せてー」とツインテールを揺らしながら、笑顔でこちらに来るみずき。
「12時まで勉強してるの。だからみずきちゃんは帰ってね」
「あー。さっちゃん、みずきのこと馬鹿にしたでしょー。こう見えて成績はいいの」
「そうなんだ。すごいねー」
「もう」と怒りながらも「ここはねー」とやりかけの箇所を教えてもらってる。別に教えて貰わなくても一人で分かるがここは黙っていよう。
12時の鐘の音が聞こえた。問題に熱中してて時間に気づかなかった。成績がいいのは本当らしく、みずきは人に勉強を教えるのがうまかった。
「この後さっちゃんはどうするー?」
「(飯ってことだよな?っていっても……【不食】の俺には食事は必要ないし)俺は適当に飯を済ますよ」
「みずきと一緒にご飯食べようよ。食堂のパスタがおいしくて」
「う、うん」
断れなかった。俺は自分勝手に生きると決めたばかりなのに。仕方なく、みずきと一緒に食堂に向かう。
初めて一般棟に来たが女性しかいない。どうにも男性の比率が少ないという話が未だに信じられずにいた。だけど、ここまでくると……本当に前世とは違う世界なんだと改めて思う。それに、目につく全ての女性の容姿が前世と比べて優れていることに気づいた。今までに会った女性は四日楓。田辺先生。みずき。ここまでは偶然美人だと思っていたが。この世界、男女比の違いだけでなく、容姿のレベルが全体的に高いかもしれない。と思いつつも、自販機で売っていた『牛乳』の紙パックを買い、席に着きみずきを待つ。
俺は【不食】の力があるので飯を食べる必要がない。というより、体が受け付けなくなってしまった。救助されてから何度か食事を取ろうと試してみた。だけど、途中で気持ち悪くなり吐き出してしまう。飲料系は大丈夫だったので、最近『牛乳』を飲み始めた。建前は栄養が足りていないから。実際は、身長が年齢と比べてかなり低いことを気にしていたのだ。辺りを眺めると視線を感じる。見られている?ここは男も来ても問題はないはずだったような。
みずきが「待ったー」と手を振りながら来る。片手のトレーが落ちそうになりハラハラした。みずきちゃんは危なかっしい子だな。
「何か見られてない?みずきちゃんというより俺か?何かおかしいところでもある?」
「うーーん。だってーさっちゃん可愛いからねー」
「は?俺が……」
「ねえ、それより牛乳だけでご飯足りるの?もっとご飯食べないと大きくなれないよ」
人が気にしてることを……。
【不食】の話はできるだけ他言するなと四日楓に言われてる。食堂に来て何も食べないのは不自然だしな。みずきになら話しても大丈夫か……?悪い子ではないことは短い付き合いで分かった。俺はできるだけ他人に聞こえないようにみずきに体を近づける。
「あーーん」
何を勘違いしたのか、みずきのパスタをフォークで巻き、俺の口に入れようとする。
「みずきのパスタが欲しくなったのねー。いいよーさっちゃんになら一口あげる」
「いや、違う」
思わず、力が抜ける。
俺はみずきに、自分は【不食】の力があるので食事は不要であることを伝える。
「えー、そうなんだ。みずきにも祝福があるんだー。さっちゃんの友達でお揃いだねー」