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顔じゃありません  作者: ニビル
第一章  中
4/26

7年

 「田辺先生、変化はありませんか?」

 「ないですね。患者に呼びかけると此方に視線を向けますが、それ以上の反応はありません。

――男性という立場のため強く――」

  

 四日楓(しか かえで)はため息を吐き、現在の状況を整理する。




 『蛾糸山で男性を発見した。自力で動くことが困難で、生命に危険な状態にある。至急救助をしてほしい』という内容の一本の匿名電話が入った。


 蛾糸山付近に男性はいないはず。そもそも蛾糸山付近は人口が過疎地帯。なので、最初はいたずら目的の電話だと思った。しかし、貴重な『男性』が救助を必要としている可能性がわずかでもある限り動くべきだろう。それが四日楓の仕事。何か問題が起こってしまったではすまない。髪先をいじり、パソコンを起動させる。パスワードを入力して立ち上げたアプリを見る。画面に日本地図がある。蛾糸山付近クリックして拡大させる。


 「マーカーはなし……か」


 男性の絶対数が少ない世界。誘拐や事故等を未然に防ぐという男性保護の建前の元、全ての男性にマイクロチップが体内に埋め込まれている。GPS機能もあるため、専用のアプリとIDとパスワードがあれば男性の現在地を把握することができる。実態は男性の行動を監視、管理するためのものでしかない。どこにいようが男性の居場所は目印(マーカー)が地図上アプリに出る。


 「マイクロチップを自力で外した?」


 男性は旅行等の行動が一部制限されている。不満を感じた男性が近年マイクロチップを抜き取る事件が増加している。ほかに考えられることは、最初からマイクロチップを埋め込まれていない可能性もあるが。ここでいくら考えても答えは出そうにないので、四日楓(しかかえで)自ら直接現地に捜索に赴くことになった。



 

 蛾糸山で廃墟のような山小屋を探索する。

 山小屋の出入口は一か所しかなく。ドアは工具を使うことでようやく開錠できた。窓はトイレの換気用の窓が一つだけあったが、鉄格子がはめてあるため、隙間からは出入りができない。長い間人の出入りがないのは確実だった。中は食い散らかした食料の残骸がちらばる。壁にライトを照らすと、血で天使が描かれていた。隅に隠れるように毛布があり、中に男児が生存しているのを発見した。最初は髪が長いため女性だと勘違いした。何度呼びかけても返事はなく、男性保護病院に緊急入院されることになったのが1週間前だ。

 

 その後、小屋に残された持ち物から、保護された男児の名が山塚皐月(やまつかさつき)だと判明した。検索してみるが戸籍が登録されていない。そして、残された食品の残骸に賞味期限がある。日付が7年前のものだった。水道が生きていて水はあったが食べ物がない。7年間食べずにどうやって生きていたのか。正確な年齢は不明だが、10歳くらいなので3~5歳からここにいたことになる。

 不可能を可能にする力。山塚皐月は神の祝福(ギフト)を持っている。世間で一部超能力と呼ばれているが違う。

 そこで四日楓は考える。山塚皐月のギフトの力は何か。……【不食】だ。食事を取らなくて生存でがきる力。そのため7年もの期間閉じ込められた小屋で死なずにいたのだ。ギフトは決して良い力ではないので眉をしかめる。ギフトはストレス原因を無くす力が一般的であると考えられる。一番苦しい死に方の一つが餓死だと聞いたことがあった。山塚皐月(やまつかさつき)は極度の空腹を味わったはずだ。



 それからちょくちょく、四日楓は山塚皐月に話しかけることが日課になった。初等教育を受けていないので、四日楓はどれだけ言葉を理解しているか分からないが、できるだけ山塚皐月に優しく話す。時間はたっぷりあるので、教育はこれからゆっくりすればいい。まず心を開いてくれなければと今日も山塚皐月の病室に向かう。


 「皐月君のカバンを見たの。筋肉ねずみが好きなの?私の姪がお気に入りでね。あ、四日薺(しかなずな)っていう子なの。皐月君と歳は近いと思うの。本当は駄目だけど、特別に今度連れてこようか?田辺先生には内緒にしてね。それでね、よくアニメを一緒に見ていたの。筋肉ネズミが悪ネズミを倒して、力こぶをピクピクするシーンが大好きでね。一緒に大笑いしたの」

 「……」

 「疲れちゃった?また来るね?」

 「……」


 次の日も、またその次の日も他愛のない話を一方的にする。


 「今日は真面目な話をします。この世界のお話をします。男の子は女の子より少ないの。だから、男の子はすごく貴重なんです。同性がすくないから寂しいかもしれないけどね、男の子は『義務』を果たすと国からお金が『支給』されま……」

 

 その時初めて山塚皐月の眼が四日楓をとらえてニッコリと笑った。

 この瞬間四日楓の心は決まった。山塚皐月を引き取ろうと。


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