見世物
何度も注文を取るのも面倒なので、ここからここまでなとメニュー欄のドリンク全部10杯ずつ頼んだ。恐らく、今まで検証してなかったけど俺は飯は食えないけどドリンク系ならいくらでも腹に入る気がする。もうすでに何杯も飲んだけど、飲もうと思えば後100杯くらいは余裕でいけそう。限界以上飲水したら水中毒で死ぬ。常人は一定の量を超えたら体が受け付けないけどファンタジー的な世界だしなんとかなるだろうと楽観的になる。飲めきれなければなずなや先輩にあげよう。
「えっ、皐月君それだと100杯超えちゃうんだけど、まさか実習(仕事)でここに来た理由って、そういうこと(大飲みの懸賞金でお金を稼ぐため)だった?」
何やら俺を尊敬するような、怖いものを見るような目で見られている?
「……まあね(タダ飲み最高)」
誰かの奢り。タダで飲み食いする物は旨い。前世で会社の先輩に飯に連れて行って貰ったことを思い出し、少し感傷的になる。今どうしているのかな。
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「準備の時間があるので少しお待ちください」
四日なずなは考える。月桂樹学園で一番有名な男子。美少年で実習の授業が始まる前にも関わらず、1億円を稼ぎ出した前代未聞の行動をやってのけた皐月くん。全学年の女性が注目をする男子。男性からも一目置かれる存在なのは当然のことだ。
相席の女が気になるが、それよりもなぜ男女ともに神聖な『実習』の時間に喫茶店にいることのほうが重大だった。ただの休憩ならわかる。それとも実習すら出なくても稼ぐことができる「何か」があるのか。それが確信に変わったのは……『100杯飲む宣言』これを聞いたとき四日なずなは全身に鳥肌がたった。
1時間以内に100杯飲む挑戦。太古の昔、神が酒100杯を1時間で飲みきった伝承に触発されてスタートした。神は『お金』と、『飲む』ことを重要視してそれは私達人類にも受け継がれている。そう、例えばお金を稼ぐことを学ぶ『実習』の授業のように。
大飲みの成功者にはいつしかお金の賞金を渡す決まりになり、大抵の飲食店には慣習的に挑戦できるようになっている。挑戦者の数はあれど成功者はなし。記録にある限り直近だと173年前に1度成功したことになっている。大昔のため真偽の沙汰は記録映像がないため不明である。でも、もしかしたら、美少年で、1億を稼いだ実績がある皐月くんならひょっとしたら成功してしまうのではないかと希望を抱いてしまう。
なずなは同じバイトの立花に皐月くんの100杯挑戦を伝えて準備の手伝いをお願いした。なお、3回連続で1人で100杯の注文が間違いないか聞かれた。それだけぶっ飛んだ挑戦である。なずなも直接注文を受けなければ同じように聞き返していたはずだ。なずなは皐月くんの雄姿の記録を残すため、帽子にカメラを装着して配信の準備を始める。いくら親の店といえバイト程度では稼ぎはしれている。そこで、店と客の許可を取り、バイト風景をネットで配信することにした。まだ始めたばかりなので収益化はできていないが……。
「皐月くん……ちょっといい?」
「待ってました……ってまだ何も持ってきてないな」
「もう少し待ってね。それでお願いがあるんだけどいいかな」
なずなはバイト代プラスのお金を稼ぐための事情を説明した。仕事風景を動画に配信して皐月くんを映しても大丈夫か聞いた。
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「俺を映して生配信したい?」
「そう。収益化したら代金は渡すから。撮影協力お願い」
「嫌だ」
嫌なことは嫌だとちゃんと言う。元社会人の時、どんどん仕事を頼まれても断れず溜まったり、出来ない仕事を引き受けてしまって困った経験がある。ゆえにもう無理は一切しない。嫌なことははっきりと断ることの重要さに気づいた。俺は有名になりたい訳でも、男性が少ない世界で女性からちやほやされたい訳でもない。ひっそりと静かに目立たず自堕落に生きたいだけだ。納得してくれたのか、それ以上なずなは俺にしつこく追及せず、粛々とタイマーを設定して、グラスを並べ始めた。
なんだこのタイマーはと思いながらも、ごくごくとグラスを空にしていく。この中だとクリームソーダが一番美味いな。いくら飲んでも特に体に影響はない。50杯飲んでも1杯飲んでも体感変らない。誇張なしにダムの水を時間かければ飲み切れる自信があると言えばわかるだろうか。水を無限に飲めることが俺のチート能力だった……?あまり嬉しくないな。まだ10分も経過していないのに、用意されたグラスの数は片手で数えるほどになってしまった。
「3」
「2」
「1」
と俺が最後の残りを飲み干すたびに何故か店中の人からカウントされ、飛び跳ねている。まるで地震が起きているのか錯覚するような勢いで店を揺らす。こっちを見るな。俺は見世物じゃない。
「先輩食べ終わったようなので外出ましょう」
「いいの?あと1杯で100杯達成だよ?」
「いいです」
俺はなずなに勘定の支払いを頼むと人込みの中に入る。俺は見世物じゃないので二度とここに来ることはない。
帰り際になずなに賞金はいいのかと聞かれた。俺は何を言っているのかよく分からなかったので適当に「少ない」と返事をした。




