賞金
先輩に仕事の話を聞くために、行きつけ(今回で2回目)の喫茶店プローシルイに入る。2階奥窓際で外の景色が見える男性優先席に案内された。
先輩は少し不安そうな顔をしていた。何でそんなに不安そうな状態を抱えているのかはわかるよ。内装もお洒落で、客層のレベルも高いから値段も相応になると思っているんだろう。この年齢では気軽に入りにくいかもしれないけど問題ない。
「心配しないでください。バイトを抜けて貰ったお礼に、特別に俺が奢ります。味はどれも美味しいので、じゃんじゃん好きなものを遠慮なく頼んで下さい」
「男の子に出してもらうなんてとんでもない。バイト代もまだまだあるから。うち、私が出すよ?」
俺の財布は痛まないから気にしない。ちなみに俺の財布の中身は素寒貧。この男が貴重な世界。良心を捨てる覚悟があれば男ならではの支払う方法はいくらでもある。
注文を聞きにきたウエイトレスに「取り合えず、いつもの」と伝える。人生で一度は言ってみたいセリフの一つだ。
普通なら何言ってるんだと取り合わないが、こちらは百年に一人の超希少な美少年の登場だ。俺はウエイトレスの顔は覚えていないが、相手は今回で2回目なの来店なので俺のことを覚えているだろう。「かしこまり」と返事をしてそそくさと厨房に消える後ろ姿を確認して先輩に向かいあう。
「す、すごいね。高そうなお店だけどよく来るの?」
とやや気後れした声色で聞いてきた。
「まあね。行きつけの店だから」
これも言ってみたかったセリフベスト3だ。
1分もしないうちに別のウエイトレスの女性がアイスコーヒーをトレイに載せてきた。
「お待たせしました。アイスコーヒー2つになります。以上で注文はよろしいでしょうか。ところで、皐月君。そちらの女性は・だ・あ・れ?」
お前こそ誰だよ。何で俺の名前を知ってるんだ。俺はウエイトレスの顔をまじまじ見つめる。結構可愛い顔だな。最近見たことがあると考えていると隣の席の四日なずなだった。普段の服装と髪型が違うから一瞬誰かわからなくなってしまった。なぜバイトしている。おっと、まだなずなの質問に答えていなかった。
「あー、彼女はーーー。ビジネス(実習)の話でちょっとね」
「そうなんだ。実習の話だったんだね。皐月君モテるからてっきり……デートだと。もしそうなら……私」
長くなりそうなのでこちらの話を進める。
「なずなは実習の授業でここでバイトしてるの?」
「そう。親のお店の一つで、私も通ってお気に入りのお店だからここで働くことにしたの。皐月君は知らないでここに来たの?」
アイスコーヒーを味わうことなくがぶ飲みする。美味いと思うけど成長期の俺に1杯だと足りないんだよな。
「し、知ってたよ。楓さんにちゃんとなずなが仕事してるかを報告するために来てやった。ということで、金ないからここの代金の支払いお願い。追加でメロンソーダ1つ。いや、先輩の分も含めて2つ頼むよ」
なずなとは従妹の関係で、親しき中にも礼儀なしという言葉もあった気がするし、金がないのでなずなに飲み代を集ることにした。「もう、仕方ない」といいながらも『笑顔』で上機嫌のなずなが代金を払ってくれることになった。男性がいるだけで店の社会的評価が上がり、客も増えるから全然いいよと言ってくれた。「美少年の俺が入ったおかげで店が混んできたからむしろ宣伝費を欲しいくらいだよ」といったら本気にされてお金を渡してこようとすることを容易に想像できてしまうので自重する。
「クラスメイトはなずなみたいに今日から働いてるのか?」
「ほぼ全員ね」と俺を一瞬見たのを見逃さない。
どんなに圧力を掛けられても、同級生に憐みの目で見られても俺は働く気はないからな。絶対にだ。働かずに飲むメロンソーダは格別に旨い。メロンソーダ最高と叫ぶと周りの客もメロンソーダを注文し始めた。
「今日の実習の時間までに事前に準備をしてくるからね。メロンソーダを運んでくれた子。隣の4組の立花さん。去年からうちで働いてくれているよ」
「去年?ということは中3から働いてるのか」
世界が違えば価値観も違っても然るべきだが、彼女たちは困窮してるわけでもないのに、自発的に働くことが俺には理解できない。なずなは混んできた店内の対応するために、厨房に戻った。
メロンソーダを飲み終わった先輩がレアチーズケーキの所のメニュー表を眺めていた。どうやら先輩はレアチーズケーキが食べたいみたいので追加でそれとまだ足りないだろうと思いモンブランも注文した。
「どうですか?ケーキはおいしいですか?」
「聞いて以上に美味しい。でもだ、後輩君の分は注文しなくていいの?」
「お腹が減ってないから気にしないでください」
先輩が食べ終わるまで時間がかかりそうなので、今度はソーダを注文した。喉の渇きは癒えたが、無料なので飲めるだけ飲むことにする。
壁にドリンク100杯60分以内に飲みきったら賞金1000万という金額が書かれていることに気づくことはなかった。




