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顔じゃありません  作者: ニビル
第一章  中
2/26

山塚皐月

 「一人で外に出てはいけません」「誰にも会ってはいけません」と母から何度も忠告されたけど非常事態だ。俺は急いで母を探して無事を確かめる必要がある。もしも見つからなければ助けを呼ぶために、急いで身支度をすます。床から俺のリュックサックを拾い上げる。リュックサックには子供の間で人気の筋肉ムキムキねずみの刺繍が施されている。八つに割れた腹筋をアピールするねずみ。力こぶのポーズをとるねずみ。元はアニメ作品で、力こぶをぴくぴく動かす動作に大笑いして見ていた。前世の記憶が戻る前の俺はこの筋肉ねずみが大のお気に入りだった。リュックサックの中にも筋肉ムキムキねずみのロゴ入り水筒があるので出してみた。水筒下部に、マジックで山塚皐月(やまつかさつき)という名前が書いてある。やまつかさつき。俺の今生の名前。皐月という女性のような名に疑問を感じ質問するが、母は笑うばかりで名前の由来は結局教えてもらえなかった。

 今は自分のことより優先させることがあった。水は水筒の中にあるので補充する必要はないだろう。食べ物は……と周囲を見渡すが、保存食、菓子、インスタント食品残り全て母が外出していた2日間に食べつくしてしまった。そもそも母が外出した原因が、食料がなくなりそうなので麓の村まで買い出し出かけたからだ。食料は諦める。ないものは仕方がない。水があればなんとかなるかなと安易な考えのもと外に出ようと扉を開けようとする。


 (ドアが開かない。どういうことだ?)


 外から施錠されており、内側から開けようにも鍵の部分が折れている。ネジの部分は錆て変形していた。工具かドライバーの代わりになりそうなものはなかった。仕方がなく、5歳児が本気で体当たりをしてみる。扉は頑丈でびくともしない。

 俺がいるの場所は、僻地の山小屋かロッジのような小さな建物。家の構造は少し変わっている。出入口が玄関(扉)の一箇所しかない。扉が開かなければ、窓から脱出すればいい。しかし、窓はトイレに小さな換気用の窓があるだけだった。この窓がやっかいで、鉄の防犯用の面格子(めんごうし)がついている。大人と違い体が小さい子供でも十数センチ程の隙間から出入りは無理がある。


 (このままだと俺は山小屋に閉じ込められて、外に出られない)

 

 食料はすでにない。あるのは水だけ。部屋は狭く、簡素で何も役に立つものは何もない。そのことに気づいた俺にパニックが襲う。あらん限り叫ぶが、助けを呼ぶもこんな辺鄙な場所に人が誰も来ないと悟る。やがて力尽きるよう毛布の上に倒れる。ついに全ての気力を失う。この体は幼い。成人男性の感覚と比較しても体力がない。

 

 (外に出られずか)



 体中に痛みが残っている。俺はあれから自暴自棄になり、寝てしまったようだ。


 (今何時かな?)


 時計は母が身に着けていたので正確な時間が分からない。時間が分かるとすればトイレの鉄格子の窓から太陽の位置で確認するか、腹時計だ。窓から外を眺め、凡その時間が判明した。


 (10時くらいか?)


 目が覚めたら母がいて、いつも通りの生活に戻ると期待していた。そして何もかもよくなると思っていたが無駄だった。小屋には俺しかいない。

 水道があるので水だけはあるが、電気とガスはない。水さえあれば人間は1週間以上は生存可能だと何かで見聞きした記憶がある。 

 冷静になり、外に脱出しようと試みるもうまくいかず。何かがおかしい。

 

 

 絶食してから3日。体に異変を感じる。眩暈、体に力が入らなくなる。

 5日目、空腹を感じなくなる。体力を消耗させないため排泄と喉を潤す以外に、毛布の中でじっとしている。

 そして、7日目、無意識の内に命の危険を感じる。






 ――山塚皐月は、極度のストレスと空腹のため、疲れている。

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