オークション
真面目に授業を受けようと思い、脳みそをフル回転させて疲れた。教科書を読むと前世で一度習ったなと感慨深くなる。前世で勉強好きでもなく、できる方でもなかった。若い時にもっと勉強していれば違った未来になっていたと社会人になってからしみじみと思う。年月が経つほど勉強の大切さを感じるので今は学ぶことを苦に感じない。社会人になり、働くより勉強する方が100倍以上気持ちが楽に感じるのは不思議だ。
休み時間になり次第速攻で駐車場に向かう。2時間も勉強したわけだから今日は十分頑張った方だろ。早退すると連絡したから後は自主休校だ。学業は明日から本気をだすことにする。早く帰って余計な心配を楓さん達にかけさせたくないので、時間を潰すためゲームセンターに寄る。飯代含めて3000円で長時間楽しめるものをとなると……
「もう3時か……」
メダルゲームを楽しんでいたら時間があっと言う間にすぎた。十分遊べて楽しんだのに、900円も余った。900円残してもいいけど適当にクレーンゲームでもやって帰るか。なんとなく目に映ったスナック駄菓子の商品がある機体を選ぶ。
「ああー」
「惜しい」
「頑張れ」
子供らが俺のプレーを見て応援してくれている。君ら学校はどうしたのと聞こうと思ったけど藪蛇になるのでやめた。何も取れないままワンコインしかなくなった。他のクレーンに青いぬいぐるみのゲームのキャラクターがあるのが目に入る。これだと感じる。今までの失敗はぬいぐるみを取るための前座にすぎない。俺が移動すると後ろの子供らがついてくる。見てくれてる観客を楽しませるためにも俺の華麗な技術を見せてやろう。
景品が一つも取れず金だけ吸われてうなだれるに俺に、子供らの中からゴスロリの衣装の女の子が近づく。リアルに見たことがない恰好に目を丸くするがすぐに表情を戻す。
「皆から集めたお金で少ないけど……よければどうぞ?」
ひー、ふー、みー、よー。4万。物価も前世と変わらないのは判明しているので、一人1万円としても4万円は大金だ。子供が持てるお金ではないと思うんだけど。
「気持ちはありがとう。子供からは受け取れないよ」
お金を丁重に返すと驚いていた。
同じ子供なのに何言ってんだこいつと思ってるだろ。
「何年ですか?うちら3年だけど」
「1年。高校のね」
「……年上……」
私服に着替えたから俺の年齢を間違われたに違いない。見た目のせいじゃない。そういえばとぽつりとゴスロリが話す。
「……おねえに今年の新入生にすごい小さい男の子がいるって聞いた」
それが俺だよ。だけど小さいは余計だ。寛大な心で許してやってもいいか。
「俺はもう帰る。寄り道しないように」
「はーい、ばいばーい」
店を出るとさっきのゴスロリに呼び止められた。
「何か用?」
「うちに髪を切らせて下さい。お願いします。何でもします」
頭を下げたまま動かない。そんなことしてもらっても困るから頭をあげてもらう。俺の髪の毛が長すぎて邪魔に感じていたのは事実だ。前世のように禿げる予定はない。いい機会だし散髪自体に抵抗はないのだが……ゴスロリに切ってもらうのには抵抗がある。
「いきなり髪を切らせろなんて、意味が分からないと思うんだけど……」
「初対面で言うのはおかしいっては分かるんですけど、これしか思いつかなくて」
黙って言い分を聞く。
「家が美容院でカリスマ美容師になりたいか。いい夢だと思う。男の髪を散髪して一人前の世界か。君の熱意に負けた」
「……うちに切らせてくれるってことですか」
俺がうなずくとゴスロリが嬉しそうはしゃぎまわる。「常連ゲット」と言ってるがまだ通い続けるかは未定だからなと言うと悲しそうな顔になった。
「散髪代金は俺が払わず逆に貰えるってそれで儲かるのか?」
「男の人が通ってるとなると周りに信用されやすいので、お客が増えます。お支払いするお金についてですが、オークションに切った髪を出品してそこから代金を支払せてもらおうと思うのですが……」
「え、そんなの出品して大丈夫なの?」
大丈夫だというので手間が掛かる手続きは全て任す。ゴスロリの家は徒歩10分。当然俺は歩きたくないので車にゴスロリを乗車させる。
「これが男の子の車。これはもうデートしたってことですね。うちの友達に言っても信じてもらえないかも」
何やらごそごそとしてるが細かいことは気にしない。っと、ここか。美容院の脇に車を止めて中に入る。
オークションサイトに載せる写真を撮る?いいけど。腰まであった髪を肩まで短くした写真を撮った。ゴスロリは姉と友達をカリスマ美容師になるための練習台にしているらしく腕は悪くなかった。
「最低入札金額はいくらにしますか?」
多分。いや、きっと。男が貴重で、前世の価値観がある俺からしたらぶっ飛んでる世界だから。容姿もずば抜けていい若い俺の髪の毛だし売れないわけがない。
「1本(1千万)で」と俺が人差し指をたてる。
「1本(1億)で出品しときました」