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顔じゃありません  作者: ニビル
第一章  中
11/26

男の時給

 家電製品売り場に来たのは、前世で死んで途中までしか遊べなかったゾンビゲームを再び購入するため。大量のゾンビが襲いかかるシーンをPVで見てから買おうと決めていた。序盤はゾンビ一匹倒すのにも苦戦するのでステルスを駆使してゾンビを殺し、中盤終盤では……。ゲームコーナーを探しても俺が欲しいゲームソフトが


 「ない……」

 「何がないの?」と楓さんが聞いてきた。

 「ゲーム」

 「皐月くんはゲームがしたかったの?やはり男の子ね」

 「うん。気になったゲームがあって。でも無ければいいです」

 

 当然といえばそれまで。前世と違う世界なので俺が欲しかったゲームはなかった。前世でプレイしたゲームはもう一生できないことに、一人だけ別の世界にいることを改めて実感して孤独を感じた。プレイ済みのゲームが無ければ自分で作ればいい。遊んだことがある名作ゲームをこの世界で復活させて発売したら流行るかもしれない。大金持ちになって……違う。俺は働く気は一切なかった。危ない所だった。病院の外に出る目的も達成した。気分転換にもなった。

 俺の後ろに、スーツ姿の楓さんがぴったりくっついて歩いているのはだいぶ目立つ。周りの客の視線が気になり居心地が悪い。さっさと家に帰るか。


 「そろそろ帰ります」 

 「……そう」

 

 帰りはどうしようか。もう一度タクシーを利用する気になれない。この時、俺はすでに余ったお金を楓さんに返すことは考えてなかった。歩いて帰るのは距離が遠く、疲れているので論外。乗り物を利用するにもお金がいる。男が貴重な世界だ。その貴重で若い男の俺が頼めばもしかしたら乗せてくれるかもしれない。

  

 「よし、行きましょう……」

 

 後ろを振り返るが楓さんの顔に元気がない。

 また忘れていた。俺が外に出たのはゲームを買うためというのは個人的な理由。建前は楓さんにプレゼントを買って(楓さんのお金で)喜ばせようとすることだった。


 「というのは冗談です。……ええっと……」

 

 どうしよう。プレゼントに何を買うか思いつかない。女性にプレゼントしたことがないから何を買えば喜んでもらえるか分からない。

 俺の乏しい経験では何も思いつかない。何かないか。


 「ご飯はまだですよね?よければ一緒に昼食にしませんか?」

 

 楓さんに世話になりそれなりに時間を共有したけど、今まで一度も一緒に食事をしたことがなかった。俺が【不食】の力のせいで食事が不要なことが原因に一つあると思う。彼女なりの気遣いだろう。それに、楓さんはお金に困っているようには見えないので、何か物をあげるより一緒に食事はいい『プレゼント』になるかもしれない。この世界で貴重な男と食事は本来お金を払ってでもしたいという女性は多いはず。

 大通りを外れたところにあった喫茶店に入り注文をする。


 「本当に何を頼んでいいの?」

 「ええ、構いません。好きなのをどうぞ」


 元は楓さんのお金だ。俺の懐は一切痛まないから食べたいものを値段を気にせず注文してください。


 「アイスコーヒーをひとつ」

 「わたしもアイスコーヒーとナポリタンでお願いします」

 

 お洒落な革製のソファーに流れる音楽。冷房も効いてて涼しいな。人もそこそこいて人気店なのだろう。


 「楓さんはナポリタンが好きなんですか?」

 「そうね。最近パスタをよく食べるの。普段はあまり食べなかったのに、みずきちゃんに食堂のパスタを進められて食べてみたら以外に美味しくて」

 「へー」

 

 みずきと楓さんは顔見知りと知っていたがそこまで話す関係だったんだな。

 適当に話してると料理が運ばれてきた。


 「いただきます」

 「おいしい」

     

 夏なので喉が渇き一杯では足りないので追加で注文をする。

 

 「メロンソーダで。楓さんは飲み物どうします?」

 「アイスティーを一つ」

 

 注文をすませたのでトイレに行く。

 通路にアルバイトの求人があり、女が時給1000円。男だと時給5000円となっていた。

 

 「5000円!??」


 喫茶店のメニューや家電売り場でみたけど物の値段は前の世界とほとんど変わらないことを確認している。それにしても男は時給5000円。仮に8時間働くと一日4万円。月に二十日フルタイムで働くと80万!?どうなっているんだ。席に戻り男の時給が5000円だと楓さんに告げた。


 「安いくらいよ」

 

 特に驚いた風もない。この世界で男の時給は高い。いろいろ驚いたこともあったが楓さんが喜んでくれてよかった。会計をすませて外に出るとき、後ろでざわめきが聞こえたが俺には関係ないだろう。


 ところで、どうやって帰ろうか。

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