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顔じゃありません  作者: ニビル
第一章  中
1/26

男の子

 社会人になり6年目の自分は常に疲れていた。平日は休日にしたいことを考え仕事をこなす。休日になれば何もやる気が起きず、平日の疲れを癒すだけだ。いっそのこと何もかも忘れて、仕事を投げ捨てたい。思うだけだ。行動できずに終わる。会社に勤めている以上責任もある。無責任にすぐ辞めますとはいかない。また自分のような底辺が生きていく糧を得るには、働いて、働いて、働かなければならない。自分の裁量でできる自営業でもすれば少しは改善できるのではと思わないでもないが、自分に能力がないのは百も承知だ。サラリーマンとして社会の歯車に組み込まれ、定年まで必死に線路から道を外れないようにしがみ付いてくしかない。毎日苦しくても出社して、必死に働く。一歩道を踏み外すと転落死する。まさにサラリーマンは現代の戦士と言ってもいい。

 

 ……と、つい昨日まで思っていたはずなのにな。

 

 (ここはどこ?)

 

 最後に覚えているのは体の異様な疲労。このままソファーで寝たら二度と目が覚めないのではないかという予感だった。

 

 (どこだここは)


 部屋のソファーで寝てたはずなのに、身に覚えのない景色。長い間利用していないと思われる古ぼけた山小屋。ほこり臭い匂い。そとから漏れる虫の音。初夏にかかる暑さ。寝起き後の水が飲みたい。質が悪い毛布の感触。今まで頭がぼやけてたのがすっとしてきた。そして自分の現在の状況が理解できた。たぶん、……確実に自分はソファーで寝たまま死んだのだろう。原因は分からないが今更どうでもいいさ。労働という地獄の苦しみから 一時的(・・・)に解放されたのだから。

 

 自分は死んで転生したみたいだ。感覚的には4歳~5歳になったばかりくらいの歳だと思う。転生して今はじめて前世の事を思い出した。成長したら自分の食い扶持を稼ぐために、また働かなければならないことが脳裏に浮かび鬱になる。今は先の事は忘れることにする。それより、自分の状態を確認しないと。

 視点がだいぶ低い。自分の手を見つめる。そこには小さなふっくらした手があった。


 (爪が小さすぎる)

 

 自分の体をぺたぺた触り異常がないか探る。何分鏡がないので自分の姿全体は把握できない。特に顔の部分を見た記憶はない。

 そして一番重要な下半身を確認する。


 (よかった付いてて)


 男の子に転生してよかった。と胸をなでおろす。なぜ古びて長年使った形跡がない山小屋に一人でいるのか。親はどうしているのかと疑問に思うことはたくさんある。自分の記憶がある限りでは、母と二人で山奥の小屋を転々として生活していた。母の顔立ち、日本語の会話から場所は未来の日本だと勝手に思ってる。最後に母を見たのは2日くらい前か?いくら精神年齢が大人……だと思うが中身は子供。母は自分のことを幼児だと認識してるのに、一人にすることはあり得ない。何か小屋に来れないような重大な事故でもあったのか。母はことあるごとに「誰も部屋に入れていけない、外に一人で出てはいけません」「特に女の人を見たら隠れなさい」と言っていたな。なんでかな。

  

 母は怪我をして動けないかもしれない。男なら当然助けに行かなければ。本当は昨日のうちに捜索するか、誰かに助けを呼ぶべきだが前世の記憶が戻ったのはたった今。今行動しなくては。この小屋には携帯電話、固定電話の通信機はないようなので外にでなくては始まらない。

  

 (急いで準備をして外に出るか)



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