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パイナップルの真実

作者: 絵里子

 パイナップルの真実


「誰がなんと言おうと、この土地は誰にも売らん」

 じっちゃは、いかついあごをつきだした。

 ところは南の島のある村である。戦争中には激戦地だったこのあたりだが、いまはすっかり平和になって、あちこちでパパイヤやマンゴー、パイナップルなどを栽培している農家も多い。 

 日本から、この南国のフルーツを作りたいので、土地を売ってくれと言う打診が、おれのところへ来たのは、つい先日のことだ。じっちゃの相続人はおれだけだから、いずれはその土地もおれのものになるのだ。少し早く譲ってもらったって、構わないだろう。

 と、じっちゃを説得したのだが、

「ここは誰にも売らん」

 の一点張りであった。

 そこで、おれも一計を案じた。

 じっちゃの好きなものを食べさせて和んだ隙にこの件を提案してみるのだ。

 おれは、じっちゃの好きそうなものがなにかを考えてみた。


 第二次大戦中には、食べられなかったという、日本の寿司などはどうだろう?

 世界的にも有名だし、この村の連中の評判もなかなかいい。

 じっちゃは贅沢することを知らないから、寿司ぐらいならおごってやってもいいだろう。

 今後の儲けを考えれば、そんなことぐらいどうってことない。


 おれがじっちゃに、「どうだろう、町の寿司屋に寿司を食いに行かないか」

 と、誘ってみると、じっちゃは顔をしかめて言った。

「寿司だぁ? 日本人の作ったものだろう? ロクなもんじゃねー」

 偏見である。日本人だって、立派にいろんな商品を作っている。トラクターでどれだけのひとが、辛い畑仕事から解放されたことか。

 ジープで、どれだけのひとが、歩きにくいジャングルのでこぼこ道をすいすい歩けるようになったことか。

 おれは、言葉を尽くしてその事実を訴えた。

 じっちゃは、ぷんと横を向いてしまった。

「日本人は、ロクなものを作りゃしない。そのジープだって、中東では武器として使われているって話だろ。口で平和を唱える死の商人なんかに、先祖代々の土地は売れないね」

 取り付く島もないのである。

 おれは、ほとほと弱ってしまった。

 日本の商社マンに、その話をすると、

「まあ、そういうこともありますよ。おじいさんには、あとで説明するとして、いまはその土地を見せていただきたい」

 と、押しが強いのである。

「しかし、あれほど売り渋っている土地を,勝手に見せるわけには」

 おれがためらっていると、

「いいんですか? あなたのお仲間は、すでにパパイヤやパイナップルで成功を収めているんですよ。この波に乗らなければ、あなたは一生貧しい農民のままですよ?」

 商社マンは、メガネをきらめかせてそう言った。

 おれは、じっちゃのパイナップル農園を眺めた。

 この農園を日本に売り渡せば、一攫千金、大金持ちである。欲しかった冷蔵庫、クーラー、テレビ、車、なんでも買える。なにより、じっちゃの労働が減るのが嬉しい。じっちゃももう、トシだ。そろそろ引退して、楽隠居させてやりたい。

 おれはたったひとりの孫として、じっちゃの財産を、じっちゃのために使う義務がある。

 そんなタテマエとは別に、本音もあった。

 カネがいっぱいあれば、女はより取り見取り。札束をちらつかせてセレブの仲間入りを果たし、映画スターと肩を並べる。パイナップル農園を売れば、それだけのカネが手に入るのだ。じっちゃの土地は、それほど肥沃で広大だった。

 なぜ、じっちゃは、それがわからないんだろう。

 もちろん、土地に愛着があるのはわかる。ここを出ていくことになったら、長年の友だちとも縁が切れる。しかし、なにかを手に入れるためには、なにかを犠牲にしなければならないのだ。じっちゃも、カネをたくさんゲットできれば、考え方が変わるだろう。


 おれと商社マンは、パイナップル農園の奥へと進んでいった。

「この辺から、ジャングルになってますが、開拓すれば大丈夫です」

 おれは、奥へと案内しながら言った。商社マンは、おっかなびっくり、腰をかがめてついてきている。日焼けした肌に、虫がまとわりついている。

「この辺は、日本軍と地元住民が戦った激戦地でしてね。じっちゃは、その戦争に参加したらしいんです。あまり多くは語りませんが」

 おれは、案内をしながら説明する。商社マンはうなずきながら、ジャングルへと入っていく。

「この辺は、じっちゃは手つかずのまま放置しているんですよ。農園を譲ることになったら、整備の方、よろしくお願いします」

 おれはていねいにそう言うと、頭を下げた。

 商社マンは、ふと、足を止めて手に何か拾い上げた。

「これは?」

 見ると、小さな灰色の物体で、上の方に導火線が引いてある。

「あ、あぶない! それは、パイナップルです!」

「なーんだ、人の悪い。新しい種類の果実を開発していたんですね」

「そうじゃない。第二次大戦に使われていた、日本軍の手榴弾です!」

 あわてて商社マンがそれを放り投げると、どかん! と爆発音がして地面が飛び散った。

「こんなのが、ゴロゴロしてるんですか」

 商社マンは、少し青ざめている。

「―――じっちゃが、売りたがらないわけが、やっとわかった……」

商談は、破談に終わった。

  

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― 新着の感想 ―
[一言] パイナップル☆パイナップルセンセのペンネ―ムの意味がやっと分かりました。 私はあほでした。 もう作品が読めないと思うととてもとてもとても残念です。
2017/11/22 07:04 退会済み
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