提案とステータス
「異世界人ですって!」
王女の発言を聞いていた周りの騎士達も驚き、騒ぎ始めた。
……異世界人って本当かよ……
……でも、姫様が嘘を言うか……
……俺、異世界人初めて見たよ……
……確かに、見慣れない服を着ているな……
……本当に異世界人なら何十年、いや何百年ぶりか……
……王国の歴史上初になるのか……
……もしかしたら神話にある伝説の勇者様なのか……
騒ぎで発生した会話は、声こそ小さかったが、ほとんど聞こえてきた。
その時、何で異世界人だと分かったのか分からない俺は、考え込んでいた。そして、会話で聞こえた勇者という単語に反応してしまい、異世界に来た原因の一つである言葉を思い出し呟いてしまった。
「勇者……召喚…。」
俺の小さい呟きを、王女は聞こえたのか、ハッ!と驚いた表情になり、急いで周りを見ていた。
幸い?周りの騎士達は会話と思考に夢中で、俺の呟きを聞いていなかったようだ。
その様子を見て、王女は安心していたようだった。
(なんでだ?)王女が何で驚いたのか、理由が分からない俺は、首を傾げていると、
パン! パン! 「静かに。」
王女は、手を二回叩いて、周りを静かにさせてから、改めて、俺を見ながら、提案を出してきた。
「カミキ・リュータさん、もし良かったら私が乗っている馬車に乗りませんか?私としては、異世界人であるあなたが、なぜこのような所にいるのか等、いろいろと聞きたいことがありますから。」
王女から出た提案に、俺は、これからのことを考え悩んでいると、
「姫様!私は反対です! 」
さっき俺に槍を向けていた騎士が王女に向かって大声で言った。
他の騎士も同じなのか、首を縦に振っていた。
王女は、騎士に尋ねた。
「どうしてもだめ?理由は?」
騎士は、ハッキリと答えた。
「だめです!理由は、その男が姫様に危害を加える可能性が少しでもあるからです。」
王女は、ハァとため息を吐きながら、
「それに関しては、たぶん大丈夫だと思います。ですが、私の言葉だけでは、納得しそうになさそうなので、あなたも一緒に馬車に乗って、私を守ってください。」
王女は、反対していた騎士を指して言った。
これでいいですねと、言わんばかりに周りの騎士達を見た。
そして、これ以上反対するものは、いなかった。
どうやら、話し合い?が終わったようなので、俺は、王女に向かって、
「俺の方もいろいろと聞きたいことがあったので、お願いします。」と、そう言った。
実際、今の俺には、馬車の件を断れる程の余裕がなかったので、この提案は、渡りに船だった。
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、行きましょう。」
王女が馬車へ向かって歩き出したので、俺も一緒に歩き出した。
……周りの騎士達がまだ俺のことを警戒しているので、王女から少し離れた後方から追い掛けるように。
止めてあった馬車に近づくと、馬車のドアの前に背の低い少女が立っているのが見えた。
(あの子、着ている服からして、王女様のメイドかな?)
そう思いながら、俺は、これから乗る馬車の方が気になって視線を移して眺めていた。
メイド?の少女が、馬車のドアを開ける。
王女は馬車に乗る前に、少女に「こちらのお二人も一緒に乗りますので。」と言った。
そして、少女が頷くのを確認して、中の方に入っていった。
次に、護衛の騎士が中に入っていき、俺はいつ中に入れば良いのか考えていると、少女がじっと俺を見ていた。
何も言わず、中に入る様子もなかったので、馬車を指して、「良いの?」と、先に入って良いのか聞くと、何も言わず、頷くだけだった。
(大丈夫かな?)不安になりながら、恐る恐る馬車の中に入っていった。
馬車の中に入った俺は、とりあえず空いている所に座ったら、ドアの前にいた少女も中に入り、ドアを閉めた。
馬車の中の位置関係は、俺を基準に横にメイドの少女、前方に王女とその横に騎士が座っている。
そして、しばらく待っていると、
バシン! ヒヒーン ガタッ ゴト
音や鳴き声とともに馬車も揺れ、進み始めた。
馬車が進み始めて、しばらくの間、馬車の中の空気は酷かった。
なぜか?それは、王女の護衛の騎士がものすごく俺のことを警戒していたからだ。
その騎士は、馬車の中でもヘルムを被っていて、そこから見える目が俺のことを強烈に睨んでいた。正直、恐ろしくて、とても、話し合いができる状況じゃなかった。
あまりの空気の悪さに、王女が原因である騎士に声をかけた。
「まったく、もう。とりあえず、カナあなたは今すぐヘルムを脱ぎなさい。ここは、馬車の中なのですから必要ありません。それと、そろそろ彼に対する警戒を緩めてください。たぶん大丈夫ですから?」
王女から注意を受けた騎士は、不満そうに「しかし…」と呟いた。
すると、「命令です♪」と王女は笑顔で言い返した。
その笑顔を見た俺は、さっきの睨み以上に恐ろしいものを感じてしまいそうだった。
騎士は諦めるようにヘルムを脱いだ。俺は騎士の顔を見て(やっぱり!)と思った。
それは、騎士は女性であったからだ。
まあ、馬車の中まで護衛をしたり、聞こえてくる声で分かり易かったけど。
カナと呼ばれた騎士は、王女に注意された後も俺に対する警戒を緩めていなかった。
その様子を見た王女が、今度は諦めるように、
「お互いに話し合う前に、まずは、私が彼を大丈夫だと言った理由を話したほうが良いわね。」
そして、王女が警戒を下げていない騎士に向かって言った。
「彼が大丈夫だと言った、その理由は、彼のステータスがあまりに低いからよ。」
ステータス?
何のことだ?と首を傾けている俺の様子を見て、王女が、「そうでした!」と、何かに気付いたように、パン!と手を叩いて、
「確か前に、お父様から聞いたことがあります。遥か昔にこちらに来た異世界人のほとんどが、ステータスが存在しない世界出身だったということを」
王女からの説明を聞いて、初めて知った俺達3人は、とりあえず黙って、続きを待っていた。
そして、王女は俺に向かって、「ステータスと言ってみてください。」と言った。
「ステータス」
とりあえず、俺は、言われた通りに言ってみた。
すると、目の前に四角い透明のものがでてきた。
よく見てみると、次の事が書かれていた。
ステータス
名前 神木 龍太 (カミキ・リュータ)
種族 異世界人
職業 なし
Lv.01
HP 10
MP 8
STR 4
DEF 3
INT 8
AGI 5
スキル
アイテムボックス (SR)
危険察知 (R)