救助と出会い
(???視点)
私は今、馬車に乗って、ゆっくりと整備された街道を進んでいる途中でした。
「たしか、次の目的地は辺境伯が治めている街だったわよね?」
そう言って、確認するために向かいの席に座っている最近私の専属の侍女になった小柄な少女を見る。
「はい。……そのとおり、です。」
必要最低限の言葉だけを言って、侍女は黙って座っていた。
(変わらないわね)出会った時からあまり変わっていない様子の侍女を見て、そう思いながらも、私は、侍女に話掛けてみた。
「あとどれくらいで街に到着するかしら?」
「……今日中には、到着する、予定です。」
想定外のトラブルに遭遇することなく、予定通りに進んでいるので、今日中には到着するという答えに、私は納得して「そうね。」と返した。
(これ以上のお話は今は無理ね)私はそう思って、窓の外に目を向けて、外の景色を眺めることにした。
しばらく、外の景色を眺めていると、徐々に飽き始めていき、完全に心の中で(飽きてしまいました)と思った時、
ヒヒーン ガタン!!
馬車が街道の途中で止まりました。
私は、窓から外の様子を確認したところ、盗賊や魔物に襲撃された様子もなく、危険がなさそうなのを確認してから、馬車のドアを開けて、外へ出た。
「何事ですか!」
複数いる護衛の騎士の内、最も近くにいた一人に事情を聞いてみた。
「はっ!先ほど、魔物の叫び声のようなものが聞こえましたので、この先も、安全に進んで頂くために、周辺の偵察を行いたいと提案します。ご許可を頂けませんか。」
馬車が止まった理由に納得した私は、
「わかりました。許可します。」
そう言うと同時に、数人の騎士が偵察の準備を始めた。
その様子を見ながら、馬車の中に戻る前に、ふとこれから向かう街の方向に目を向けると、ここから少し離れでいる所で、横側にある木々が多く立っている森のような場所から一人飛び出てきました。
「誰かしら?」
私は少し興味が出て、馬車の中に戻らず、ゆっくりと、前に歩き始めた時、気づいたのです。その人に魔物が迫っていることに、
「危ない!!」
そう叫んで私は走りました。
私が叫んだことで、周りにいた騎士達も状況が分かったようで、行動しようと動き始めていました。
オーガに襲われている人には、私の声は聞こえていなかったのでしょう。その場から動く様子が全くなく、オーガとの距離がどんどん近づいていきます。
そして、ついにオーガが見知らぬその人を殺すために、棍棒を頭上に上げようとしています。
(ここからならぎりぎり!)私はそう思い、自分の中にある魔力を使って、力いっぱい叫んだ。
「お願い、届いて。ファイアーボール!」
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(龍太視点)
ドカァアアアアン!!!
その音と同時にやつの体に何かが当たって、よろめいているのが見える。
(いったい何が?)
俺がそう思っていると、今度は、
「はあああああ!!」 ズドォン!!
鎧を身に付け、馬に乗っている、まるで、騎士のような人が大きな声を出し、手に持っている槍で攻撃していた。
俺は、目の前で起こった光景にただ驚いていたが、騎士は、既に次の動作に入っているようで、槍を持っている右手を後ろの方に引いて、その場で、やつをしっかりと見ながら、槍を勢い良く前に突き出した。
「やあああああ!!」 ブゥン!
グギァアアアア!!
槍自体は、空を切ったはずなのに、叫び声を出したやつの方を見ると、左目のあるあたりを手で押さえているのが見えた。
(いったい、何が!)
再びそう思ってしまう程、俺は、目の前で起こっている出来事が理解できず、眺めているだけだった。
けど、その時やつは、顔を右へ左へと移動させ辺りを見ていた。
そして、ある一点を見つめるようになると、右手に持っている棍棒を大きく振って投げ飛ばした。
投げ飛ばされた棍棒は騎士とは別の方向に飛んでいた。
騎士はすぐに何かに気付いたのか、急いで後ろの方に視線を向けていた。
俺も、その方向に視線を向けると、騎士と同じような鎧を着た数人と、その中心に一人いる集団が、こっちに向かっているのが見えた。
そして、棍棒が今にも、その集団に当たりそうになった時、
「ウインドシールド」
その声とともに、棍棒が何かにぶつかったかのように急に地面の方に落ちていった。
何でそうなったのかはわからないけど、とりあえず大丈夫そうな様子が確認できて、安心したが、すぐに、やつ自身がまだいることを思い出し、やつの方を見ると、そこには何の姿もなかった。
周りを見てもやつの姿が確認できず、もしかして森の中に逃げた?と思って森の中を見るように目を細めていたら、
「大丈夫でしたか?」と声を掛けられた。
声を掛けられた方を見ると、さっき見た集団が俺の近くに来ていた。
俺に声を掛けたのは、中心にいた人で、よく見ると俺と同じくらいの年齢の少女だった。
「あっ!はい!大丈夫です。助けてくれてありがとうございます。」
少し緊張しながら、俺は頭を下げて、お礼を言った。
そして、この異世界で初めて出会った人、しかも、俺を助けてくれたことから、悪人である可能性が低い。
だから、この世界のことを知るためにいろんな話をしたい。そう思って、彼女に近づこうとしたら、いきなり、槍の先が目の前に現れた。
「え?」
何で槍を向けられたのか、わからない俺は、混乱していたが、よく見ると、槍を持っているのはさっき俺を助けてくれた騎士で、今は、馬から降りていた。
そして、俺を警戒しながら言った。
「それ以上、姫様に近づくな!」
周囲にいる他の騎士達からも警戒されているのが感じられたか、それよりも、俺は、ある単語が気になり、声に出した。
「姫様?」
俺の声に反応するように、パン!と手を叩いた彼女は、騎士達に「大丈夫です。」と言い、槍を下ろさせ、俺の方を向き一歩前に出て、言った。
「そういえば、まだお互いに自己紹介をしていませんでしたね。初めまして。私の名前はエレナ・カイザード。カイザード王国第二王女です。」
(王女!!)俺は、初めて会った王女にどう対応していいかわからず、あたふたしていると、王女は黙ってこちらを見続け、周囲の騎士達からも、警戒や若干の怒りが出ているのに気付き、慌てて、言い返した。
「えっと、俺の名前は、神木龍太。…あれ?この場合は、リュータ・カミキでいいんだっけ?とりあえず、姓はカミキで、名がリュータです。」
俺は自分の自己紹介を慌てて言った後、王女様?は、「リュータ・カミキさん……珍しい名前ですね?少し、失礼します。」
そう言って、王女様は俺を見た。俺はその時、ゾッと全身に悪寒がはしった。まるで、俺の全てを見ているように感じたからだ。
数十秒しない内に、今度は、王女様が驚いた顔になっていた。
「嘘でしょう?」
ピクッ!とその言葉に周りの騎士達が反応して、警戒度を上げ、いつでも行動できるように準備していたが、次の発言を聞いて、全員が驚いた。
「異世界人ですって!!」