5話
グアムから敵アメリカ軍艦隊が出航した頃、日本でも虎の子の艤装が完成した。
「この対空、対艦、対地を兼ね備えた大和改があれば、日本もしばらくは安泰でしょうな。」
「だといいのですが...」
防衛省の幹部の1人が、敵アメリカ軍の予想上陸地点を示した地図を眺めた後、処女航海の準備へ向かった。
2日前
東京、市ヶ谷にある防衛省では数パターンの敵軍の上陸予想ルートの選定を行っていた。
「やはり史実の通りで行くと沖縄でしょうな。念のため沖縄防衛局により事前の避難計画はあるので、あとはそれを実行に移すのみです。」
「次に考慮すべきはオリンピック作戦ですな。第1に種子島にある現代のロケット技術を使用されては元も子もありませんし、次に敵は30万もの歩兵を投入するはずなので。」
史実を考慮した防衛計画が建てられていたとき、不意に最も若い官僚が問題点を指摘した。
「すみません、これは樺太や千島列島からの上陸等は考慮されないのでしょうか?」
場の空気が一瞬にして固まった。
「北海道は90式で固めていたから油断していたが、敵はソ連、アメリカのどちらも有り得る...という事か。」
案がまとまらないまま、いつの間にか会議開始から2時間が過ぎようとしていた。
「日本海側の防衛は今まで通り、北海道北部、九州南 部、太平洋側を重点的に行うといった形で宜しいでしょうか?」
「意義なし」「賛成ですね。」「賛成」
「また兵力面での差が大きいため、在日米陸軍にも応援を頼みます。」
「これにて本日の防衛計画制定についての会議を終了とさせていただきます。」
開始から2時間30分ほど、やっと防衛案が決定した。
「主砲、発射用意。」
大和改では、46cm三連装砲に変わって搭載された、150mm単装超電磁速射対空対地対艦砲の試験が行われていた。
「この巨大な船体にこの小さな主砲を見たら、相手は確実に油断するでしょうね。『いいカモが来た』と。」
「ええ、確実にミサイルが有るとは知らずに来るでしょうしね。」
搭載された発電専用ガスタービンエンジンが轟音を轟かせながら、レールガン発射用の電力を供給している。
「装填、及び蓄電が完了しました。」
「試験開始」
「撃ちー方ーはじめー」
爆音とともに海面に白波が立ったが、煙はほとんど出なかった。
「成功ですね。」
「試験完了、これより帰投する。取ー舵ー、25度、浦賀水道を目指せ。」
試験を完了した大和が横須賀に向かい始めた頃
「硫黄島レーダー局南西方向に対水上目標30...いや、40確認」
「40...だ、と。」
「速やかに空自に連絡し、偵察の要請を。」
5分後
「スクランブル、スクランブル、我が国の領海に多数の国籍不明機、国籍不明艦を確認、速やかに迎撃に移れ。」
F2戦闘機、F15戦闘機など、約30機が編隊を組んで洋上へ向かっていった。
この海域の防衛を担当する第22特防編成部隊に、通達が伝わったのは更に15分が経過してからだった。
「何故もっと早く連絡が来ないのだ。組織としての連携がなっていない。上層部はどうなってるんだ。」
「まあまあ、落ち着いてください。敵は15ノットに満たない速度ですし、私たちはアウトレンジから1方的に攻撃できるので。」
「まあ、そうだが。」
主に戦闘を指揮する砲雷長はレーダーの隅にパラパラと映る黒点を観ながら、攻撃許可の合図を待っていた。
上空にいる空自機も戦闘態勢に入った。
「敵航空部隊はドーントレス35機、F4F 64機と見られます。」
『了解、F15、F4は全機攻撃態勢に入れ。』
「Sir」
「こちらいかづち。いなづま、長良の各艦は対空戦闘を開始せよ」
海上でも攻撃の許可が与えられた
「こちらCIC、攻撃許可を求めます。」
「対空戦闘用意」
「Prepare for attack by enemy aircraft fire.」
『Hit confirmation.』
「Ok.」
「これより東南東方面に転針する。」
「通信にノイズがかかってよく聞こえない!もう一度たのむ!」
敵航空部隊は電子戦担当艦のECMが発する強力なジャミングにより、統制すらできない状況に陥っていた。
「シースパロー発射用意。サルボー」
シースパローの射程に敵航空部隊が到達した瞬間、4隻から白煙が飛び出した。
「インターセプト10秒前、9、8、7、6、5、スタンバイ...マークインターセプト」
「いかづち、きりしま、麻耶のシースパローも命中した模様です。」
F4F、ドーントレス計99機は、その日の夜には完全に、姿を消していた。
1話分が長くなりました。投稿感覚が開きますが、ご了承ください。