8.ユヅキのチカラ
肩から荷物袋を抱えたユヅキは、いよいよ旅を始めるべく、街から出る門を出た。
「さーって、まだまだやることは沢山あるな。まずは、ようやくこのスキルのお試しだ」
スキルを早く試してみたくてうずうずするユヅキだったが、焦ってここでする訳にもいかない。門の出入り口付近は人通りも多いからだ。
取り敢えずは、人の少ない場所を目指して街から遠ざかる。
数分で人気のない場所に出る。草原だが、岩なども点在してあり中々の場所だ。
ぱっと見渡す限り、魔物も色々といるようだ。
「おぉ、あれが魔物か。確か街の近くにはゴブリンやウルフが多いということだったかな。確かに結構いるな。練習台には事欠かなそうだな」
ユヅキは一つの大きな岩陰に荷物袋を置くと、準備運動に屈伸を始める。
「ん……っと。よし、まずはスキルだな」
準備運動を終えたユヅキは、ロングソードを抜いて一匹のウルフに狙いをつけたようだ。
「いくぞ。【重力制御:ゼロ】」
ユヅキがスキルを使用した途端、ユヅキの右目の色が赤く変わり、目には見えないが魔力が右目に集まる。
ウルフはと言うと、走り出そうと踏み込んだ瞬間にスキルの影響を受けたものだから、斜め上の方に浮いてしまい、困惑しながらも逃げようと足をバタバタさせている。
「コントロールが難しいけど……っ。【重力制御:コントロール】」
再びユヅキの右目は赤くなる。ウルフはユヅキの思う方向からの重力を受け、ユヅキに向かって斜めに落ちてくる。
スキルを維持してウルフを自分の元へと落下させながら、ユヅキはロングソードをウルフに向ける。
ウルフはロングソードに向かって落ちてきて、胴を貫かれて絶命する。
魔物というのは、主に身体の中を魔素という粒子が血液の代わりに流れている生き物のことを指す。そのため、斬っても血は流れず、魔素が拡散して黒い霧のようなものが身体から溢れ落ちる。また、絶命した魔物は数十秒で巡回しなくなった魔素により肉体が崩壊してしまう。
簡単に言うと、死んだ魔物は黒い霧となって消えていくのだ。今のウルフのように。
ただ、死んだ際に肉体と魔素が一部だけ混ざり、それが結晶となって死体の跡に残る。魔石と呼ばれるそれは、魔物の魔素量や濃度により大きさや純度が変わる。冒険者たちはその魔石を、ギルドや商人に売ったり魔武具へと加工したりして、生活している。
「魔石……ね。解体しろとか言われたら面倒だったし、楽でいいな。成分分析で簡単になんの魔物の魔石かもわかるらしいし、討伐依頼の証拠にもなる、と。ホント楽だな。よし、次はゴブリンを……っと」
またもやユヅキの右目が赤く染まる。ロングソードを構えたユヅキは、そのままゴブリンに向かって地面を蹴り出す。
ダンッ!!
軽く地面を蹴り出したはずのユヅキは、猛スピードでゴブリンに向かって飛ぶように進む。
そのまま構えたロングソードで、すれ違いざまにゴブリンを斬り捨てる。
推進力を使い威力を増したユヅキは、易々とゴブリンの身体を斬り裂いた。
「よし……っと。スピードの調整がちょっと難しいけど、これも上手くいったな。自分の重力の方向と強さをコントロールすれば、スピードも方向も自由自在か。重力スキル、想像通り便利なスキルだ」
満足そうに頷くユヅキ。重力スキルだとわかった瞬間に思いついた使い道を、実戦で順に試して感触を得ていく。
気付けば辺りの魔物はすでにほぼ倒しきっていた。
最後に残るのは、少し強そうだったコカトリスと呼ばれる鳥の魔物だけだ。
「最後は奴だな。身体が怠いな……魔力が減ってきてる証拠って感じか。最後はこれを試さないとな。【重力制御:圧縮】」
ユヅキがスキルを発動した途端、コカトリスの周りの景色が歪み始める……。コカトリスに向かって周囲の重力を圧縮しているのだ。
圧縮し始めて十数秒でコカトリスは圧死して霧になったが、ユヅキはスキルの発動を強めていった。
景色の歪みが強くなる……。
突然、パンッと景色の歪みがなくなった。
はぁはぁと息を切らしながら、ユヅキは膝をついていた。
そう、ユヅキの魔力が切れて、スキルが止まったのだ。ユヅキの目の色も戻っている。
「ふぅ…………。キツイ……な。でも、俺が睨んだ通りなら、魔力さえもう少しあれば、うまくいきそうだな……。奥の手ってやつだな」
ニヤリと嗤うユヅキの表情は、いろんな想像についてくる、自身のスキルの効果の高さを感じたものであった。
ーーユヅキ異世界ニヤリ旅 STARTーー
ようやく軽くですがスキルですね!!
もっと早くに主人公には戦って欲しかったのですが……。