4.七度の転移
「事情は大体わかっています。ゆっくり話はお聞きしますので、お願いですから一晩休ませて下さい…………」
ユヅキは結局、全部で七度の転移を経験した。
転移の度にお互いの事情説明、新しい情報の整理、そして転移を繰り返したユヅキは疲れ果てていた。
案内された寝室で、ユヅキは今日の出来事を整理していた。
この世界には、ユヅキの前にも転移の前例がいくつかあった。その中でも特筆すべきはやはりユヅキの前に転移してきた勇者である。
その転移者は魔王討伐の為に呼び出されて、その際に得たスキルを活用し、数々の功績を残して見事魔王の討伐に成功したようだ。
ここまでならハッピーエンドなのだが、その後勇者として皆から崇められた転移者は、魔王城に拠点を構え、自分の好きなように世界のルールを決めて行ったのだ。それが勇者法と呼ばれるこの世界を縛るルールだ。
細かくは色々あるが、主には課せられるその重税が挙げられる。その為、応接の間が質素だったり、この寝室も王城にしては簡素なものとなっているのだ。
そこで勇者を止めて欲しいとユヅキが呼び出されたのだ。
各国が協力し攻め入るという案も出たことはあるのだが、相手は曲がりなりにも一度は世界を救ってくれた勇者だ。それも不義理だという意見も多く、更には魔王討伐を行うほどの強さを持つ勇者に敵わないだろうということもあり、却下となっていた。
そこで、勇者と同じく別の世界から呼び出した者に説得してもらえないかという案が浮かんだということだ。
各国の意見がきっちり固まる前に、転移陣の使用条件の一つである新月の日が来てしまったらしく、それぞれが独断で召喚を行なった結果が、今回のユヅキの疲労困ぱいの原因という訳だ。
四回目の転移が終わった際に、この世界には一から七までの国と、八つ目の勇者が直接治める国があるという事を聞いたユヅキは、そこで七回の転移がありそうだと予測していた。四回、五回と繰り返されれば、最早七回目まであることは様式美と言えよう。
ただし、予測していたとは言えど疲労は重なる。結果、七回目の転移が終わった時点でユヅキは休息を申し出た。
「はぁ。異世界転移まではまぁいいさ。最初は驚いたしどうしようとも思ったけど、流石に七回は無いわ、七回は……。もう異世界に来たことなんてどうでもよくなってきた。諦めもつくってもんだよ……」
ベッドに横になりながら、ユヅキは独り呟く。
「まぁでも、考えようによってはこれヤバイかもな。結局スキル七個ゲットとか、超絶チートじゃねぇか。まぁ重力制御以外はまだ『???』だったけどな。なんか結局、ワクワクしちゃってるんだろうな、俺」
ユヅキは結局、前任者の不始末をつけることを受け入れたようであった。
明日になったら色々確認しなければいけないことが多そうだな、と色々と整理しつつも興奮を抑えきれないまま眠りに入るユヅキであった。
これは偶然が重なったものなのであろうか。
それとも、逃れられない運命の悪戯か……。
ーーユヅキ転移陣の常習者 ENDーー