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39.ユヅキ

「レイムの魔法、かなり威力上がったか? 左指にはめた新しい指輪によって増幅力があがってるのか……」



 一人戦場の上空でレイムの魔法を見ていたユヅキは感心したようにそう呟いた。

 ミカとリアも、見ている限り即興にしては中々のコンビネーションが取れているようでこちらも予想の上を行く強さだった。



「レイムの言った通り、強くなろうとしているのは俺だけじゃないってことか。あの三体は二人に任せても平気そうだな。となると、俺の獲物はあっちのワイト二体とハイオーガ一体かな? 冒険者達に向かってる残りのハイオーガ二体は位置的にレイム達で対処できるだろうから、雑魚はさっさと片付けて、後ろの男に事情聴取しないと……なっ!」



 戦況の把握が終わると、重力操作により一気にユヅキはワイトらが固まっている場所へと飛び込む。



 出会い頭に一線。


 退魔の力を持つユヅキの刀は、ワイトキングをも斬り裂くことができる逸品だ。

 ワイトの一体はユヅキの接近に気付く間も無く身体を真っ二つに斬り裂かれて霧となってしまった。



「ガァァァァァアアア!!」



 ユヅキの接近に遅れて気付いたハイオーガが果敢にもユヅキに斧を振りかざし襲ってくる。

 もう一体のワイトも、至近距離にも関わらず即座に魔力を練り始めていた。


 唐突に接近し、ワイトを一瞬で斬り裂いたユヅキに最大の警戒心で向かってきているため、ハイオーガは自身の一番信頼できる腕力を、ワイトは至近距離にもかかわらず、最大の魔力をもって迎撃にかかっていた。



 しかし、勿論それも当たってこそ意味を成す。

 背後から襲われる形になったハイオーガの斧を焦りもせずに横っ飛びで躱したユヅキは、振り向きつつワイトに向かって飛び込み再び一線。


 溜め込んでいた魔力を暴走させて爆発を起こしながら、ワイトは真っ二つとなり消滅していった。



「うおっ。込めた魔力が爆発しやがった……。かなりの量を練っていたからだと思うけど、気をつけないとな。驚いた」



 驚いたとは言いつつも、落ち着いて状況を把握していたユヅキに対し、爆発の衝撃に体勢を崩したハイオーガは耐え切れずに倒れてしまう。


 その隙を見逃すユヅキではない。ハイオーガが起き上がろうとした時には既にユヅキはその倒れた巨体の上に立っており、掲げた刀を一突き。胸を貫かれたハイオーガは、起き上がることなく消滅していった。



「さて……っと」



 三体の魔物をいとも容易く倒してしまったユヅキであったが、警戒心は解かない。いや、初めからユヅキの意識は魔物になど向けられておらず、その視線の先には、薄く笑いながらこちらを見返している黒髪の男がいた。



「おい、あんたが勇者なのか? 何故突然魔物をけしかけてきたんだ?」



 ユヅキの問い掛けに対し、黒髪の男は笑みを崩さずにこちらをただ見ている。

 流石に友好的に会話が成立するとも思っていなかったユヅキは、腰の刀に手を伸ばそうとしたのだが、その前に黒髪の男が喋り出す。



「ふぅーん。今代の転生者はお強いねぇー。Aランクを一撃とは、怖い怖い。だったら……数の暴力とかって、どうかなー?」



 返答が来ないと思っていたユヅキは、喋り出した黒髪の男に意表を突かれて、飛び出すタイミングを失してしまう。ふと気付くと、男の背後にいつの間にやら現れた魔方陣から、こちらも黒髪の、綺麗な女性が現れる。


 その女性は、男の肩に親しげに手を乗せたかと思うと、反対の手を天に掲げ、振り下ろした。



 魔方陣が、描かれる。



 黒髪の男と女。その背後の空に、三メートルはあろう魔方陣が突如描かれる。



 その数は、十を数える。

 魔方陣からは、数の暴力……そう、一つの魔方陣につき十数体もの魔物が現れ始めていた。



「やられた……! ちぃっ。あの女の魔法か?!」



「おっとー。彼女に手は出して欲しくないなぁ。この刀で斬られちゃったら痛いじゃないかー」



 ユヅキは珍しく動揺のあまり身体が硬直してしまっていた。それも仕方のない事だろう……。


 黒髪の男の手には、いつの間にかユヅキの愛刀が握られていたのだから。



「お前、いったい何をしたんだ……?」



「んー?さてー、何だろうね? それにしても、この刀凄いねぇー。僕でさえマトモに受けたら斬られちゃいそうだ」



 ユヅキの刀を振り回しながら、黒髪の男は愉しげに笑う。

 良いようにやりくるめられてしまっているユヅキであったが、更に状況は悪化する。そもそもユヅキは黒髪の女を”止めようとした”ところ、刀を奪われたのだ。



 そう。召喚は完了した。


 百を超える魔物が、魔方陣から呼び出されてしまった。



 完全に手玉に取られてしまったことに気付いたユヅキは、珍しく悔しさに顔を歪めて男を睨みつける。



「そんな怖い顔しなくてもいいじゃないかー。さぁ、さっきも言ったけど、数の暴力ならどうなる、かな?」



 跳ぶ。飛ぶ。翔ぶ。



 黒髪の男の発言をきっかけに、百を超える魔物達が走り、飛び、這い始める。

 幸か不幸か、その殆どがCからBランクで占められており、Aランクのワイトやオーガキングといった凶悪な魔物は見当たらないが、それでもそこそこの町なら滅亡しかねない戦力だ。


 ユヅキに向かって襲ってくるもの、ユヅキの背後の仲間達や冒険者達に向かって進むもの。

 魔物達の襲撃が、改めてユヅキ達に襲いかかる。



 黒髪の男は愉快に笑みを浮かべ、黒髪の女はその表情は崩さず、男に寄り添っていた。






 ーーユヅキ異世界初ピンチ?! STARTーー

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