38.ミカとリア
レイムの魔法が炸裂し、ワイトが二体消滅したのとほぼ同時に、ミカとリアがそれぞれハイオーガに挑みかかっていた。
「リアさんっ! 無理しなくていいんですよー! たぁぁぁー!!」
「ミカこそ、リアのお肉置いといてくれてもいいよ? えいっ」
ミカの飛び蹴りとリアの右拳がそれぞれハイオーガに命中し、二体のハイオーガは大きな地響きを立て倒れ込んだ。
そこにすかさず、ミカが追い討ちで膝から”落ち抜く”。
ズドン、という鈍い音と同時に、ハイオーガの巨体は”くの字”に折れ、苦しそうな声をあげた。
反撃を警戒してハイオーガの上から即座に飛び退いたミカの脚には、以前着けていたレガースとは違い、薄く緑に輝く新しいレガースが装着されている。
ワイト戦の後、レイムは新たな魔法触媒を作成していたが、ミカもまた、レイムと半分に分けたワイトの魔石から新たな武器を得ていたのだ。
「凄いね……それ。ぞわぞわって感じる。でも、リアも凄い」
ミカの魔力を帯びたレガースを見てその強さを感じ取ったリアであるが、こちらも負けてはいない。
起き上がろうとしていたもう一体のハイオーガに駆け寄ると、リアは自分の右手を少し引いた。
次の瞬間、リアの背丈程もの大きさの特大斧がリアの右手に現れる。そのまま駆け出した勢いを乗せたリアの斬撃が、ハイオーガの左腕を掬うように襲った。
リアの襲撃を避けるため、右に半身を捻ろうとしたハイオーガであったが、地面を削り取りながら向かってくる特大斧を躱すことは叶わなかった。
凄い速度でいとも簡単に振り上げられたリアの特大斧は、ハイオーガの太い左腕を、二の腕あたりから見事に切断してみせた。
「ホントにブレスレットが斧になっちゃったぁ……。それに、そんな大きな斧を簡単に振り回すなんて、リアさんすごすぎ……」
「うん。ダリアって言うの。ミカも、さっきの蹴りは鋭かった。あと、リアのことはリアでいいよ?」
「わかった……! リア! 私も負けてられないからねっ!」
笑顔で談笑を始める二人の少女達だが、ハイオーガ達もまだ死んではいない。
ミカに膝を落とされたハイオーガは、怒り狂って大きく叫びながら起き上がる。
リアに片腕を落とされたハイオーガは、痛みを感じさせない勢いでまだ健在な右手に持った巨大な斧を振り上げ、鈍い足音を響かせながら走って来ている。
ドォーーーーン!!!
ハイオーガの持つ巨大な斧は、手入れもされていないため、斬るというより叩き潰すに特化したような形状になっており、その大きさとハイオーガの胆力によって叩きつけられた地面は巨大な音を立て、大きくへこんでしまった。
ミカとリアは慌てず横に飛び退いてその斧を躱していたのだが、横っ飛びしたリアは、急に方向を変えて吹き飛んでしまう。
「リアーーー!!」
左右に分かれて飛び退いたはずのリアが、突然違う方向に飛ばされた事に驚いたミカが振り向くと、そこには近くにいたもう一体のハイオーガが拳を振り抜いた体勢で止まっていた。
リアの事を心配したのも束の間、今度は先ほど自分が横倒しにしたハイオーガが、ミカに向かって斧を振りかざしているのが目の端に映る。
慌てて今度は後ろに飛び退いたミカであったが、直撃は免れたものの、ハイオーガの振り下ろした斧の衝撃で体勢を崩し、地面に転がり落ちてしまった。
「あぐぅ……うっ」
なんとか起き上がろうとするミカを休ませるつもりは無いらしく、三体のハイオーガが揃ってミカに向かってドスドスと走って来る。
立ち上がったミカも負けじと、両脚に着けたレガースに魔力を送り込み、迎撃の体勢を整える。
「やあああぁぁぁぁ!!」
己を奮い立たせる掛け声と共に、ミカが向かって来るハイオーガの中でも片腕のそれに狙いを定めて飛び出した。
まずは一体。そう決めたミカは振り下ろされるハイオーガの斧をかい潜り、低い姿勢のまま片腕のハイオーガの足を水面蹴りの要領で蹴り飛ばして転ばせた。
そのまま両手を地面に着けて弾くように飛び上がったミカは、空中で器用に一回転しながら倒れたハイオーガの顔面にかかと落としを放った。まさに猫の獣人に相応しい身のこなしだ。
ミカの渾身のかかと落としをまともに受けたハイオーガは動かなくなるが、そこに別のハイオーガの斧がミカを襲う。
「やっ、あぶなっ!」
寸前のところでミカは斧を躱すことに成功したのだが、倒れて動かなくなったハイオーガはそうはいかず、味方の攻撃をもろに受けてしまう。
味方の攻撃によってトドメを刺されたハイオーガは、その場で黒い霧となって消えてしまった。
「あと……二体!」
「ううん、あとはその仲間を倒しちゃった一体だけだよ。お肉も消えちゃった……」
突然聞こえたリアの声にミカが振り向くと、そこには特大斧を掲げたリアが、少し怪我はしているものの平然として立っており、その特大斧の餌食となってしまったであろうハイオーガの残骸が霧となって消え行くところであった。
「リア! 大丈夫だったの?!」
「もちろん。少し痛いけど、咄嗟にダリアで受け止めたから平気」
ミカはリアの無事に安心した表情を浮かべると、もう一体のハイオーガを倒すために再度力を脚に込める。
リアも特大斧を構えなおし、二人はタイミングと呼吸を整えた。
「グガガガアアアア!!」
怒りのままに襲いかかって来るハイオーガは、己の力に任せて斧を振り回してくるが、冷静に二人は攻撃を躱す。
Aランクに位置するハイオーガは、元々多少の知性を持った魔物である。その為、リアの隙を狙った不意打ちを仕掛けてきたりしたのだが、今の頭に血が上った状態ではこの二人の敵では無かった。
大きく後ろに飛び退いたリアを横目に、ミカはその素早さを活かしてハイオーガの攻撃をかい潜る。今はユヅキの自動重力制御の恩恵も受けているため、尚更ミカの動きは鋭くなっていた。
ハイオーガが斧を振り回す合間に、的確にミカの蹴りが入る。
「やあああぁぁぁぁ!!」
一発……二発……三発……鋭さを増していくミカの蹴りに、堪らずハイオーガもたたらを踏んだ。
そこにすかさず、ミカの渾身の回し蹴りが叩き込まれる。ハイオーガはよろけた所にまともに食らってしまい、尻餅を着く形でその巨体を倒した。
「ミカ、あとはリアに任せて」
後ろに飛び退いていたリアが、その魔力によって銀色に輝く特大斧、ダリアを振りかざしてハイオーガに飛び込む。
シュバッッッッ!!
一閃。
閃光が通り過ぎ去るが如く、銀色の帯がダリアの尾を引いた。
「……また、つまらぬ物を切ってしまった?」
ダリアを振り切った体勢で、ハイオーガの背後まで駆け抜けたリアが独りごちた。
身体を斬り裂かれたハイオーガは、黒い霧と化して消えていった。
「リア! やったね!! だけど、つまらぬ物を……って、なんだったの?」
「さぁ……? ユヅキがたまに一人で言ってたから、真似してみた」
ーーユヅキパーティそれぞれの戦い CONTINUEーー




