36.ドーラム
ドーラムの集落は、ウルカの街から徒歩で三十分ほどの距離にある。多くの人が利便性の高いウルカへと移り住む中でこの集落が今もそれなりの人数を残しているのにはもちろん理由がある。
この集落では、特産品である羊牧が盛んに行われているのだ。ただ、一口に羊牧とは言ってもユヅキの世界の羊牧とは大きく違う点がある。ドーラムで飼育、繁殖されているのは羊の魔物である、グレートシープだ。
角や牙、皮などがグレードの高い装備品に加工されることから需要の高い魔物を繁殖させ、それをウルカの職人達が加工するというのがウルカの国の一大産業となっている。
魔物を飼育しているとはいえ、そこまで凶暴な性格ではないグレートシープと過ごすのに騒ぎは起きないのだが、今はドーラムでは大きな騒ぎが起こっていた。
逃げ出そうにも百を超えるグレートシープを放って逃げてしまっては、近隣が大変な騒ぎになり兼ねないが、黙って待ち受ける訳にも行かない。
そこでドーラムを守る為に五組の冒険者パーティが緊急の招集に応じたのだ。
「取り敢えず、俺たちはドーラムから離れた地点で奴等を迎え討とう。ここの防具には世話になってんだ、むさむざ蹂躙させやしねぇ!」
勇んで皆を奮起させているのは、”赤の牙”のリーダーであるブラントである。Aランクパーティである彼ら”赤の牙”の中でもリーダーのブラントは特別強く、その背に担ぐ巨大な剣を振るい、Bランク上位までの魔物なら一人でも仕留め切るという。
「そうですね。ここで籠城してグレートシープに下手な刺激を与えるのはよくありませんし、ブラントさんの意見に賛成です」
続いて声をあげたのは、”シールド”のリーダーであるルインだ。こちらも集まった五組の内二組あるAランクパーティの一つであり、ルインの持つ巨大な盾がパーティの特徴にまでなるほどの守りに長けたチームだ。
彼ら二組のAランクパーティを筆頭に、残りはBランクパーティというメンバーが揃っている。
Sランクの魔物を一人で倒したユヅキはかなり規格外なことであり、この五組の戦力というのも普通の魔物討伐ではあり得ない程の強さを誇っている。
緊急の招集にこれだけのメンバーが集まったというのは、ドーラムの人々からすればかなり運が良かったと言えよう。実際このメンバーで協力すれば、Sランクと言われているドラゴンとさえ、作戦によっては互角に渡り合えるかも知れない。
ーー
「ブラントさん、それでは私たちは私たちで、パーティごとに集まって迎撃するということでよろしいですか?」
「あぁそうだな。見知った顔とは言え、乱戦になりゃあ即興のパーティじゃ連携が取りにくいだろう。だが、無茶はするなよ。強力な魔物が出て来たら俺のとこかルインのとこに任せろ」
五組のパーティはドーラムから少し離れた所で魔物の群れを待ち構える。ブラントに話しかけた女性は、唯一女性のみでパーティを組む”風の踊り”を率いるミリーだ。”風の踊り”は全員が軽装で、短剣やショートソード、風の魔法を使う素早さに長けたチームである。
残り二組は、全員が魔法使いという珍しい組み合わせのパーティである”マジックゾーン”と、バランスの取れた組み合わせで万能に力を発揮する”青龍の尾”である。
どのパーティも熟練の実力があり、名前もそれなりに広まっているパーティであり、たまたまグレートシープの装備を整えにウルカへと来ていた所を依頼されたのであった。
そこへ、彼らを絶望へと誘う音が響き渡る。
迫る軍勢は凡そ二百。先槍を担うのはCランクの魔物であるレッドホブゴブリンではあるが、その後ろにはBランク中位のオーガや、タイガーウルフなども大量に迫っている。
ーー
「くそっ! おい、ミリー無茶するな! オーガにはパーティ単位で当たれ! ドリスんとこもだ、俺たちはいいからミリーとアイシャのパーティを援護しろ!」
混乱する戦場にブラントの声が響き渡る。ドリスと呼ばれたのは”マジックゾーン”のリーダーで、アイシャは”青龍の尾”のリーダーだ。
レッドホブゴブリン程度の魔物なら彼らなら一蹴出来たのだが、他の魔物はそうはいかない。乱戦の中でも確実に一体一体仕留めるようにとブラントから檄が飛ぶ。
「ルイン、あっちのハイオーガヤレるか?! あれが来たらBランクの三組は持たねぇぞ!」
「ブラントさんがタイマンで一体相手取ってるのに、ヤレないなんて言えませんっよ! 僕がハイオーガは抑えます! ”シールド”は取り巻きのオーガを!」
ルインの言うように、ブラントは一人でAランクのハイオーガを相手にしながら周りに的確な指示も飛ばしていた。
しかしハイオーガは強く、気を抜くとその手に持つ巨大な斧でペチャンコに叩き潰されてしまいそうだ。
そんな中でもブラントは他のパーティの動きや魔物の動きを捉え続け、指示を飛ばして行く。尋常じゃない程の集中力を持って戦場をなんとか持たせていた。
しかし、時間と共に疲弊していくのは冒険者パーティの方だ。オーガやタイガーウルフなど、強力な魔物を何体も倒すことに成功してはいたが、ハイオーガをはじめとするAランクの魔物はまだ一体も倒せていない。
それだけではない。まだ戦場に参戦していないAランクの魔物が十体も後ろに控えていた。
「ふふ。中々耐えるね、あの冒険者たちも。ハイオーガ二体も上手く手練れが抑えているみたいだ。そろそろみんなも戦いに行きたいかい?」
五組の冒険者が文字通り必死の奮戦を行っている様子を、少し離れた所でのんびりと見物していた黒髪の男が、傍に跪く十体の魔物に声をかける。
グルルルと唸ることで同意を示した魔物達が、ゆっくりとブラント達に絶望を与えようと動き始めていた。
ーードーラムの危機 CONTINUEーー




