28.魔の森の死闘
ユヅキは焦っていた。
道を塞ぐ木々をかいくぐいながら森を疾走する。
前方に突然現れた、ワイトのものとは比較にならないレベルのプレッシャー。
”アレはヤバイ”
魔物のランクなどには詳しくない。生命の危機なんて感じたことがなかった。当たり前だ、平和な日本でずっと暮らしてきたのだ。
そんなユヅキの全身から今、逃げ出せと言わんばかりに、最大限のアラームが鳴り響いてる。
しかし、アラームがけたたましく鳴り叫ぶことに気付けば気付くほど、ユヅキの足は先を急ぎ、焦る。
「くっそ! なんなんだよコレは! ワイトだけじゃなかったっていうのか……。もうすぐだっ!」
一瞬にして視界が開けた。元の場所に戻って来たのだ。
しかし去る前とは違い、激しい戦闘の余波によって、周りの木々が所々折れたり、地面が抉れていたりしている。
そして、その広間にはワイトの姿は無く、かわりにアラームの原因が佇んでいた。
「なんだ……あいつは……」
身長は2メートル程であろうか、巨大とは言わないがユヅキよりは大きい。
裾や所々が破れている紫色のフード付のコートを頭から着ており、手には身の丈よりも大きい大鎌を持って肩に掛けた格好だ。
全身が骸骨の姿であることから、魔物である事が一目でわかる。
しかしユヅキは、目の前の骨だけの骸骨の身体から、引き締まった筋肉が身体を支える、歴戦の戦士のような雰囲気を感じ取っていた。
「ユヅ……キ、逃げて……」
プレッシャーの主はこちらを向いてもいないのにも関わらず、ユヅキが目の前から感じるプレッシャーに身動きが取れないでいると、右の方から掠れたミカの声が聞こえた。
「ミカか?! 大丈夫か!」
ミカの声で我に返ったユヅキは、慌てて声のした方へ駆け出す。
そこには、傷だらけの姿のミカが木の陰に倒れていた。
「なんなんだ、アイツは。何があった?! レイムも生きているのか?!」
ミカはユヅキが来てくれたことに、ほっとしたような申し訳無さそうな顔をしながらも、身体を起こす。
ユヅキに支えてもらいながら上半身を起こしたミカは、痛みに耐えながらもユヅキに話し始める。
「ユヅキ……。私、必死に戦った、んですけど、ダメでした。レイムさんの、全然魔法も通じなく、て。あれはリッチーといって、Sランクの魔物だそう、です。レイムさんは、たぶんあっちの方に……。早く……逃げてくだ、さい。ユヅキだけで、も」
ミカの話を聞いたユヅキは、軽く辺りを見回す。
すると、ミカの言った方向の辺りにレイムの姿を確認することができた。
「ミカ……。なんとか歩けるか? レイムの所へ向かって、二人で逃げろ。いや、少しでもいいからここから離れるんだ」
「ダメですっ! うっ……。無理です、よ。いくらユヅキが強く、ても……。アレは、次元が違いま、す。遊ばれていた、みたいなものなのに、何もできませんでした……。ユヅキこそ逃げ、て!」
ミカは今にも泣き出しそうな顔でユヅキに懇願する。
ユヅキを死なせたくない。愛しい人が、目の前で傷付くのをわかっていて見逃したくない。
ミカは必死にユヅキに逃げるように懇願する。
ミカの目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
ユヅキはおもむろに、その涙を指でそっと拭う。
壊れそうなものに、愛おしいものに触れるようにそっと……。
ミカに微笑みかけ、涙を拭ったユヅキは、そのままミカの頭にポンポンと二回触れると、リッチーの方を睨みつける。
「俺の強さが、信じられないか?」
ユヅキはミカに問いかける。
「うぅ……。その聞き方は、ずるいです……」
「ははっ。約束したよな? 後でまた会おう」
もう一度だけ、ユヅキはミカの方を振り返るり、笑いかける。
そのあとは振り返ることなく、リッチーに向かって歩いて行く。
「はい……。後でユヅキさんの武勇伝、聞かせて下さい、ね」
ミカもまた、歩いて行くユヅキの背中にむかって笑顔で声をかけた。
そのままミカは、痛む身体に顔を歪めながらもレイムのいる方へ向かう。
自分よりも遥かに強いし、戦闘経験も豊富なレイムの事だ。無事だとは思うが、それでも自然と早足に向かう。
「レイムさんっ。大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよー。散々いちゃいちゃしてくれちゃってもう。アタシの事なんて忘れちゃってたでしょー?」
既に意識を取り戻していたレイムは、呆れた様子でミカの額を小突く。
「ご、ごめんなさいっ。でも、心配してたのは本当ですっ! ユヅキも……」
「わかってるわよー。さぁ、邪魔にならないように行きましょう。悔しいけど、援護もできないアタシ達はここにいたら足手まといよ……」
「信じて、待ちましょう」
二人は、ユヅキの方を見つめて微笑むと、痛む身体をお互いにかばいながらその場を後にした……。
ーーミカ、レイム魔の森の死闘 THE ENDーー
散々続いた魔の森編もそろそろクライマックスです。
盛り上がってきて下されば幸いです!




