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The primitive sin

零落〜oscurità:Come la luce della luna quando illumina……

作者: Ars Magna

先か、後か、『「fioritura dei anima」断章』を読んだ方が理解できます。

名だたる探検隊の一員として、ここにいる事を誇りに思う。私の隣にはもう誰も居ない。皆此処に至るまでに朽ちていった。


「……Whether curse or retribution?」


諦めにも似た気持ちを抱えながら、それでも命尽きるまで探求を辞めようとは思わない。

だが私の生命はもう消えかかっている。その最中で、思う。長年を費やして最期に観る景色が、この迷宮の"王室"ならばなんと良きことか。

つつ、と私の頬を汗がたどる。風の無い淀んだ迷宮では一時も私の体は休まることはない。

これは、不味いな。これは体力を奪うーー仲間を殺した類のもの。唇が揺らぎながらも、ひとつ、私は詠う。


「Haven't vanished yet,yes yet.……"Fortune favors the bold." 」

ーーまだ消えてない、そう(いま)だ……運命(イエス)は勇猛果敢を好む。



力が、湧水のように静かに流れていく。私が長年をかけて編んだ"魔術"の第一分野"暗示"。

祝詞を詠うことで実際に力を得ることができる。それは言わば神への信仰の力だ。人々が神を信じてやまないからこそ、"願い"が指向性という強力な力を得た。私の願いは、人々の願いだ。

きっと短い祈りの文句だっただろう。しかし届かぬということはない。そう、力が少し抜けた。私は今運が高まった状態にあるだろう。

さぁ、奮い立て。まだ倒れるわけにはいかない。


枯れ果てたコケ植物の葉が残る壁に身体を預け、ずるずる、ずるずると歩んでゆく。

謎は、残り二つ。


誰がどうやって唯の洞窟を押し広げ、王室を作ろうとしたのだろう。我々が今持つ建築技術も無いままに。


そして、何故そんな大きなものが発掘されないのかということだ。


私は周囲を見やる。視界は良好でないが、同じ場所をぐるぐると回っているような感覚は無い。付けてきた目印も発見していない。ーーつまりこの迷宮は完全に一本道だ。


それでも三回は日を跨いだはず。おかしいと、思う。

食料は果てて、水も無く、松明は燃え尽き、酸素も薄い。思考がめちゃくちゃになろうとしている!


「Don't get it…ah……!」


足元を照らす、この迷宮特有のキノコを苛立ちで踏み潰す。

くそっ。

生き物の気配すらない。

曲がり角へと進み、冷や汗を拭おうとしたこの時、それは突然に始まった。


じゃらっと音を立てて、何かがポケットから落下した。

なんだ


なんだこれは。

何故知らない物体が

私のズボンに仕舞われている?


小型の円盤。緑色の柔らかな光を浴びて幻想的に輝く金属の塊。美……しい。いや、コレは全くもって未知。

私はソレを拾い上げて見る。ようく耳を澄ませば微かなチッ、チッという音が定期的に聴こえてくる。子気味の良い音だ。ヒンヤリとした表層の感触が、手を通して伝わって来る。


突起を押してみると蓋が開く。

透明な膜に覆われた内部な露わになり、12の古典数字が円順に並び、三本の針が動いている、その内側に、私は見てしまった。


なんと形容したら良いだろう。

一見して精密。緻密。

再度みれば、その美しさに魅入られてしまうだろう。細かすぎる歯車が百、千と噛み合い、音を立てている。

私はこれを何に用いるか分からない。また同様に魔術の先駆者たるわたしであっても尚、この様な技術は持ち得ないのだ。


もしや


これが神の思し召しかーー。

私は歓喜した。神に見初められたことーー恩恵を与かり得る、良き人と認められたこと。

ぶるり、と体が震える。生き残りたい。思いが蘇ってきた。


私の歩みは止まらない。


遮るものが何も無い。


だがこの無限の迷宮に


私の全てがただただ減っていく。


あれほど私の体を虐めていた大量の汗はもうない。


長年のカンがいう。空気が変わったと。

ようく目を凝らせば、先の床は変色しているように思われる。

熱気はそこから発生しているように思われる。

思われる、というのは、分からないからだ。いかんせん、キノコの数が微少になっているものだからここから先はほぼ無明に近しい。


だからこそ、躊躇いがある。

これ以上の熱に耐えられるか?


ここにきて、私の体は熱に悲鳴をあげていた。

しかし迷宮は巨大な無音に包まれている。

水の滴る音は無く、期待もできない。


私は先ほどのアーティファクトに願いを込めた。

その一拍。

瞳を閉ざしたその瞬間に、始まっていたのだろう。願いの成就が。


前に向き直ると、

湖が見えた。


私はまたもほくそ笑む。やはり神は見ておられるのだ。この私を!


本能的に終点だと悟る。きっと目的の王室は近い。そこに古き王は死せずに眠る、と言われている。それを可能とするのが魔導書(グリモワール)だとも。

私はそれらの発掘を担当すべく、派遣されたのだ。


私は進む。誰が私を止められよう。




いや、おかしい。

そう思うのは何度目か。どうなっているのか分からないが、湖は彼方遠くにあるようだ。


進めど、進めど、距離は縮まる気配がない。


私はもしかして神から加護を頂戴し、遠方を見通す千里眼を開眼したのだろうか。

しかしそれならば説明がつく。

この三日三晩に及ぶ強行軍の疲労が、あまり感じられなくなっていることが。

これもまた加護の一種で、力天使様の力の一端であろう。奇跡を、私は体感していた。

しかし、その力は私には大き過ぎる。回復した身体を思うように動かせないのを感じていた。

これは、私の精神が未熟だからだ。

だが

目標が見えているのに、止まるわけがない。

私は進む。



何歩目か、それは私にも分からない。

急すぎて、一瞬何が起こったのか解らない。


私はまた趣の違った迷宮に転移していた。


景色の違いに思わず目をこする。

幸いなことに薄暗い迷宮で、目は潰れていない。

いや私はこれを迷宮と形容するが、それはここがどこだから分からないからだ。

打って変わって狭い空間。そこを埋め尽くす、絵のようなもの。壁に色付く単色とは違って鮮やか。そう、鮮やかすぎる。

ただ、確かに古い場所である。それはあたりに散らばる供物のような悪臭の存在からよく分かる。放置された、食料のようだ。


そのうち私は気になるものを見つけた。


この空間で一番存在感を放つ、壁画についての記述である。

またこの空間で珍しく、私が解する言語だった。

この事は私を非常に興奮させる。

私は迷宮発掘の先人となるわけである。


『Do not eat.』


"食べてはいけない"?

当たり前だ。いやしかし、この短い警告文は逆の発想にも取れる気がする。ーーこれは食べることで効果を発するアーティファクトーー手を伸ばして、恐る恐る触れる。

植物のような、艶やかさ。つるりとした陶器のような。


しかし暗くてよく分からない。火打金もなく、近寄ってジロリと見つめる。

すると奇妙なことにその壁画からも覗かれているような、そんな感覚に陥るのだ。不自然に大きすぎる黒い双眸からじっとりと、濡れた瞳で。

よく見れば絵は、人の雌の様にも見て取れなくはない。

それを理解すると、私は全身が痒くなった。全包囲、視線に包まれるて落ち着かない気分になる。


そして唐突に理解する。これは転移魔法陣だ。迷宮の床が暗くて分からなかったが、きっと起動装置があったのだろう。


驚いた。

古代の遺跡から魔術の痕跡が出土するなど。

つまり"魔術"の先駆者はいたわけである。


さらに壁画を手でなぞって探索をすると、先程まで気がつかなった黒い板状のものを目にすることとなる。

それは硬質で、つるりと陶器のようにツヤを放つ。それでいてひんやりとした全身は、小さくもしっかりしているといった印象だ。

暫く触ってみるも、なんの反応もない。唯の、黒い箱。

表面の文字についても触れておこう。それは象形文字のようにぐりゃりとしていてとても読むことのできない。スケッチはしたので、見て貰えるはずだ。

私なりに解釈をして読むと、


『vaio』


つまり生物。そうなると魔導兵器にも思われる。

後で解析をしよう、と鞄へとしまう。


最期に私が見つけた念願の品を記載する。

それは

魔導書。


最初はただ乱雑に、押し込まれるように保管された本だと思ったものだ。しかしそれは間違いだった。薄い。軽い。そしてカラフルな装丁は先程の壁画のような絵がより複雑に描かれている。これは間違いなく、最高級の書物。

ここにはたくさんのそういった本がある。我々のよく見る、羊皮紙の本は見当たらない。知り得ない特別な製法ゆえ、混ぜて保管してはいけない決まりなどがあるからかも知れない。


私が着目した一品はネイビーブラックの薄い本。埃を被った重厚な表紙とそこに燦然と輝く金文字。表紙には斑らに黒の紋様がのたくっており、死を予感させる不吉な印だ。


古さ、であればこれは最たるもの。変色した頁を見て感じる。何千年と経たのだろう、と。尚美しさを保つ鞣された表紙を撫でればツルリ、と滑った。

……私は指先に息を吹きかけ、灰色を飛ばす。


タイトルの文字を写してみた。

『反魂香とアルスマグナ』


私は今震えている。

猛烈な死の予感に。


身体はもうとっくに悲鳴をあげていたのだ。

大切に、大切にそっと

本を抱きしめて、瞳を閉じた。






パチパチ、と静寂の中で火が揺らめく。呼応する一つの影は、まるで戸惑うように。その背景は多種多様な女の子達の、ポスターで一杯だった。


座り込んで首をもたげ


そしてこう言った。


「え、私の部屋、歴史深過ぎ……⁈」


その視線は一冊の本に向けられる。

ネイビーブラックの表紙の大学ノート。

その表層には輝く文字で刻まれている。


『反魂香とアルスマグナ』

テーマは"神"はあるか、という事です。


反魂香を焚いた主人公は一人の探検家の記憶を覗いてしまう。

そして自分の部屋の知られざる過去を知るのです。


さて、ここでは現実に起こり得る事と、少し不思議な出来事が、入り乱れています。


何故起こるか?それを考えることは勿論、考えないことも大切だと思うのです。

私はそれを古代帝国の仕業だとw思いますw


信仰は科学に追放された、という事が

拙い文章ですが感じられたなら

私は嬉しいです。


p.s.タイトルは、うーん、「暗がり:月明かりのように照らして」ですかね。Liberaという歌から頂きました。イタリア語ですねぇ。私の闇(厨二病)は優しく暴いてあげて……

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