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盗人日記  作者: 一二三 九十九
3/3

三つ目「真実の手鏡」

あの村から出てきて、3回ほど日の出を見た。

行先もわからないまま、歩いてきた。

その中でわかったことがある。

まず一つ、俺は顔までは特定されていない。

二つ、和葉の存在は指摘されていない。

そして三つ、

和葉が普通の娘ではないこと。

《魅惑のかんざし》の影響を受けてないらしい。

あの村で、《魅惑の簪》について少しは調べた。

毎年春、桜の蕾が咲く頃。

淡く紫色に光るこの簪は、

村の女を一人呼び寄せる。

そして、その女の血を吸い、死なせる。

この簪は、確かに綺麗だ、見惚れてしまうほど。

何故こういう、呪いまがいのがあるのかはわからない

ただ、和葉にその簪を着けても、簪は和葉の血を吸おうとしない。

むしろ、簪の呪いを祓ってしまったようにも感じる。


わからんな、しかし、普通ではないのは前からか。

そう考えながら一つの街についた。

空音街そらねまち》か。

「今日は宿で寝れそうなんな!」

「ここ三日、野宿だったからな、たまには宿を取るか。」

「思ったん、なんでお金あるん?」

「あー、それは、ばく──前からの蓄えだよ。」

「そうなんな、三ッ葉は金持ちなんな!」

「お、おう、そうなんだよ、欲しいものがあったら言ってみろ、なんでもかってやらあ。」

「考えとくん!」

心なしか、若干和葉が元気になった。

と言うか行動力がありすぎて困ったものだ。

しかしこの街は地味にでかい、

和葉が迷子にならんように見ておかないとな。

「和葉ー、行くぞー。」

そこには和葉は、いなかった。

あの野郎早速迷子になりやがったか。

とにかく探すか。


その頃──。

「双葉ー!どこなーん!」

双葉を探す、和葉。

しかし迷って、どこに行けばいいかわからない。

とにかく、声掛けしつつ探していると。

「そこの君ー。」

誰かが和葉に声を掛けた。

「なん?」

「高そうな簪着けてるね。」

「そうなんか?」

「それをお兄さんにくれない?」

側から見たら、完全に犯罪臭がする。

「嫌なん、これはわっちの宝物なん!」

「嬢ちゃん、まだ宝の価値とかわからないでしょ?

僕達は、価値がわかるのよ。だから、ね?こっちに渡しな?」

「嫌と言ったら嫌なん!どっか行ってん!」

「聞き分けが悪いな。こうなったら力尽くだ。」

容赦ない、いい大人三人が、小さい子供に向けて、

拳を振おうとした。

「少し痛い目見てもらうぞ。」

和葉に男の拳が当たる、その前に。


「やめろ!いじめは良くないぞ!」


そうやって、男に向かう一人の少年がいた。

「なんだこのクソガキが。」

「お前らゴロツキなんかこわかない!」

そう言って、男に挑む少年。

「兄貴、こいつ向日葵家の生き残りですよ!」

「まだ生きてたのか、こりゃ、頭に報告も兼ねてここで潰さないとな。」

大人と子供の体格差は歴然。

顔にひと殴りされて少年は倒れた。

「調子に乗ってカッコつけてんじゃねえよ。」

そう男が言うと。


「こんなもの効かねえ、かかってこいよ、三下が。」


と強がり、立ち上がる。

「俺はそこの女の子を助けるために立ってんだ。かっこつけてねぇ!」

「それをかっこつけてるっていうんだよ!」

と言って殴りかかる男。

その時。


「迷子になってると思ったら飛んだ事件に巻き込まれてんな。」

癖っ毛が目立つ髪を掻きながら、歩いてくる男。

「双葉!」

「何だ兄ちゃん、お前もあのガキみたいになりてえか?」

「薄汚い面洗ってくるから、ここで、痛い目みるか、土下座して帰るか。三択だ選ばせてやる。」

「お前を潰して帰るだ。」

「なるほど、悪く思うなよ?」

俺は手加減が苦手だ、

男三人が俺に向かってくる。

しかし、力だけのゴロツキは、楽な相手だ。

殴りかかるだけだからな。

一つ一つまた一つ、

容易に針の穴に糸を通すように、相手の急所を確実に突く。

「子供に手を挙げる大人にゃ、きついお仕置きが必要だな。」

そして、男達はその場に崩れ落ちた。

「そこ!何をしてる!」

騒ぎを聞きつけた奉行所の役人が、こちらに向かってくる。

俺は小さい声で、

「カズ、行くぞ。」

そして歩き出した、

とりあえず、奉行所の役人は巻いたらしい。

だけど、後ろから少し気配を感じる。

小さな気配。

俺は路地へ入り木板の後ろに隠れた。

「なんで隠れるん。」

「何か来てるからだ。」

すると、一人の少年が現れた。

「あれ?こっちに曲がったと思ったんだけどな。」

見覚えがある姿、さっきの少年か、

「隠れる必要あるん?」

「もうちょっと待て。」

少年は、首を傾げながら。

「あの子、可愛かったなぁ。」

と呟く。

和葉の事だな、見た目的には同い年ぐらいか。

この年の子は、恋とかに、興味を持つのか。

「なんか言っとるん?」

「あ?あぁ、そろそろでるか。

あの子に助けてもらったんだろ?お礼を言わないとな。」

路地から出ようとする少年の肩を突く和葉。

少年は、体を一瞬震わせた。いや、驚いたのか。

そして和葉の方を向いた。

「さっきはありがとなん!」

「あ、いや、なんか、体が勝手に動いたっていうかなんて言うか。」

少年は少し焦ってたみたいだ。

ちなみに俺はまだ隠れてる。

何故か?それは面白そうだからだぜ。

少しの沈黙の後、少年は口を開いた。

「俺、実は謝りたかったんだ。

結果的に助けることができなかったし。

殴られたし。

俺一人じゃ、どうしようもできないのはわかってた。

あの人が来なかったら、何にも始まらなかったし。


だから、ごめん!助けられなくて!」

それは予想外の言葉だった。

自らを犠牲にしようとし、

さらには犠牲になれなかったことを悔やむ。

それは、まさに、《英雄》の様な立ち振る舞い。

「はっはっは!」

すると和葉が笑い出した。

「何を言ってるん、主が助けてくれなかったら、

わっちは、大切なものを奪われていた。

それを、身を呈して守ってくれた。

勇気を出して、一歩前へ進んでくれたん。


ありがとなん。助けてくれて。」

こいつは本当に12歳か、

猫の皮被った年寄りじゃないか?

少年は泣き出した。何故かは俺にはわからない。

だけど、和葉は、わかったみたいだ。

「そろそろ、行くぞ和葉。」

唐突に出てきた俺に対して少年は。

「待ってください!」

と言った。

「なんだ?どうした。」

さっきまで泣いていた顔は、

真剣な顔になりこちらに向いていた。

「俺を弟子にしてください!」

「やだ。」「即答はひどいなん。」

「なんでですか!」

「俺はこの場所に長居するつもりはない、旅人だからな。」

「だったら俺もついていきます!」

「行かせるわけないだろ。

家族とかもあるだろうが。」

俺がこう言うと、

両拳を握りしめ、声を最小限に殺した声で、

「いないです、家族も親族も。」

と言った。

「すまない。」

としか言えなかった。

少し、隣の鰻屋の焼く音が、チリチリと耳に入った。

そして、俺は聞いた。

「名前はなんて言うんだ?」

向日葵ひまわり太陽たいよう。」

「太陽か。暫く俺たちは近くの宿に泊まる。

旅はまだ続けるが、一度の休憩だ。

さっき言った通り、弟子入りは断る。

だが、旅の仲間として迎えるのは歓迎しよう。


だが、この先死ぬことになるかも知れない。

よく考えて、それでもついてくるんだったら、

明日の朝、俺たちが泊まってる宿屋に来い。」

「は、はい!」

そう言って太陽は、どこかへいった。

「三ッ葉。いいんか?」

「いいんだよ。」


そして宿に泊まり朝になる──。

障子が一人でに開き、陽の光が差し込む。

「起きてください!師匠!朝ですよ!」

「そうなん!起きるん!」

「お前ら2人元気だな。しかも結構朝早くないか。」

「朝に来いと言われたので。」

「いつもの癖なん。」

「健康体だなお前ら。」

そこから、太陽と和葉と過ごす日常が始まった。

恐ろしく朝早く太陽が来たと思ったら、

この宿の女将さんとは仲良しらしい。

予定では、一週間、空音街での、滞在期間だ。

とにかく今後の進路方向、俺の情報などを主に調べた。

そのために俺は出かけようとした。

「師匠!何処に行くんですか?着いていきます!」

「来るな、寄るな、師匠と呼ぶな。

太陽、和葉のお守りしといてくれ。」

「はい!わかりました!」

「お守りってわっちは子供じゃないん!

太陽も同い年じゃろ!」

「お前の方が子供っぽいんだよ。」

という事になった。


それから3日が経過した。

わかった情報は。

まず、俺の滞在情報は、今《蠱惑村》になっている。

正確には10日遅れ。いずれ追いつかれる。

この先、一つ山を越えたら。

城下町がある。山を越えるのは大分時間がかかる。

聞き覚えのある城下町だ。

《天命城》、ここには、俺の親友がいる。

そこまで行けばしばらくは安心できる。

二つ目の情報、

和葉の事だ。

太陽と遊ぶ姿はまんま子供だが。

ここまで数日のうちに心が育ってる。

桜花家の養子ということもあって、

《何か高貴な身分の所の生まれ》と言う予想が出来た。

んま、和葉の潜在能力は、

計り知れない。


現時点では3つ目が、最重要だ。

《向日葵太陽》について。

近くの情報屋の情報を買った。

簡単に言えば。

太陽の家族は、殺された。

あの日和葉を襲ってたゴロツキどもは、

贋造組の下っ端どもらしい。

贋造組は、表の顔は、この街の商売人を支援し、

農業に力を注ぎ、発展に力を貸している。

ただ、裏の顔もある。

ここから先は別料金だったが。

まあ、特別にまけてくれた。

裏の顔は、金貸し屋だ。

それも、高い金利をつけた金貸し。

払えなくなった人は、《自らの命を代償に事無きを得る》。

何故働かせるじゃないのかは疑問に思うが、今は考えないでおこう。

問題なのは、《向日葵家が、そこから金を借りていたこと》。

いや、悪魔でも推測だ。

だが、一つわかってるのは贋造組と向日葵家の間で何かの問題があった。

元々、向日葵家は割れ物などを売っている店を営んでいたらしい。


──そうこうしているうちに、3日目の夜が来た。

すると、寝る前に和葉が話しかけてきた。

「双葉、この旅に終わりはあるんか?」

言葉に詰まる。

いずれ捕まる。

その時、《和葉こいつ》はどうするのか。

先の未来を考えたくはない。が本音だった。

俺が口を開こうとした時。

「すまんな、難しい質問をしてしまったん。

わっちは、双葉の側にいるだけで満足なん。

いずれ、別れる時が来たとしても。

その時はまた、どっちかが、探しに行けば、

また出会えるん。


三ッ葉、約束なんよ。


どっちかが、離れ離れになったら。

探すん、何処までも、探すん。


見つけてまた、一緒に拙い道を歩くんよ。」


「当然だ、約束だ。」

ガラッと襖の開く音。

太陽が入ってきた。

「師匠、お体に支障はありませんか。」

俺は握り拳で、太陽の頭を叩いた。

「太陽は、何か、夢とかあるん?」

「夢かー。強いて言うなら家族円満かな。」

「中々に黒いな。」

「師匠は、どうなんです?」

「俺はーー、んーー、今の日々が夢かな。」

「それ現実って言うんですよ。」

「なんかむかつくなぁ。」

「太陽の家族はなんでいなくなってしまったん?」

子供というのは残酷だ。

「聞きたい?あんまりいい話ではないぞ。」

「無理すんな、話さなくてもいいんだ。」

「いや、話します、

ここまで三日間ですが、

久々に笑えたり楽しい時間を過ごせたので。

俺のことは知ってもらわないと。」

「わかった。」

太陽は一息置いて喋り出した。

「俺の家族は贋造組に連れてかれました。

元々親族はいなくて、家族だけが血のつながりがありました。

俺な家は鏡を中心に割れ物などを売っている店を営んでいました、本当は古くなった鏡を買い取って、また売る店なんですけどね。


ある日、とある一つの手鏡が、原因で俺の家族は連れて行かれたんだ。

その手鏡は、いわく付きで。

その手鏡には、嘘をつけない。

嘘をつくと、鏡にその反対の顔が映る。

ってな感じでした。」

「なるほど、それに目をつけられたか。」

「はい、実際にそうだったんです。

それに贋造組の奴らは目をつけた。

無理矢理うちに来ては、鏡をよこせという。

そのうちに、暴力や脅迫まがいのことまでしだした。

それでも、うちの売りもんに手を出すなと言う親父と母さんは、ある日突然、贋造組に連れて行かれた。


そして、いなくなった次の日、うちに来て、手鏡をとると。跡形も無くうちを荒らしていったんだ。


俺の大切なものも全部奪われちまった。」

その最後の一言は、すべての思いが詰まっていた。

贋造組への憎しみ。

親を失った苦しみ。

宝を失った悲しみ。

「恨みは、晴らさなくていいのか?」

俺は何を聞いてんだ。

いや、俺ならすることを聞いた。

「置き手紙があったんです。

親父と母さんがいなくなったあの日。」


──太陽。辛い思いをさせることになる。

俺と母さんは、少し早いお出かけだ。

お前には、ここから先孤独を強いらせることになる。

ただ、何も恨むことはするな。

恨むなら俺を恨め。それでいい。

そして、もしお前を受け入れる人がいたとしとら。

お前は、それに素直に答えろ、それでいい。


「俺にとって恨みを晴らす相手は、


『親父《向日葵ひまわり天道てんどう》、なんです。』

よくわからない、恨みを簡単に親父に向けられるか。

違う、それは恨みじゃない。

恨みと言うものに隠された、ただの望み。

親父に会って、言いたいことを言う。

別れの言葉すら言えなかったのだから。


そしてその日は、終わった。


その夜、夢の中。

白髪の長い髪の女が一人立っていた。

その髪の毛は透き通るように綺麗だった。

そして女は、俺名前を呼ぶ。

──三ッ葉。

俺は答えようとしたが、声が出ない。

そして女は言葉を続けた。

──三ッ葉は、私を恨んでる?

その声は心の芯まで、響く。

──三ッ葉、ごめんね。

心の芯に響いた音は、記憶の片隅にしまった。


朝が来た、太陽の隠れた朝。

「今日は雨か。」

桜花家を出た初夜の雨以来だった。

「双葉は、今日はどうするん?」

「ごーろごろ。」

「だらしないなん。」

「和葉と太陽は、この雨の中どっか行くのか。」

「師匠、和葉を連れて八百屋に行きたいと思います。」

「あー、女将さんがなんか言ってたな。」

女将さんが、八百屋にお使いを頼んだらしい。

料理の材料がないから揃えたいけど、

他の仕事があるからいってちょ!

なんか凄く軽い頼み方だった。

「それじゃ、行ってきます!」


嫌な予感がする。何かの予兆のような。

しかしその予感は、女将さんの一言によって掻き消される。

「あんちゃーん、こっち手伝ってーな!」


傘をさして歩く小さな姿。

しかし、片方は名前に似合わず、

どんよりしていた。

それもそのはず、傘は一つしかなく、

小さな体を一つの傘に収めて歩いていたからだ。

しばらくの無言が続く。

「太陽は本当についてくるん?」

唐突な切り出しだった。

「ついていく、俺は師匠の強さを盗む。」

少女はクスッと笑った。

「わっちも、双葉の強さには心底驚いた、

あの細身のどこにそんな力があるのかなん。」

「和葉は、武術の心得とかはあるのか?」

「少しかじっただけなん。」

「ほー。」

そうこうしているうちにどんよりしていた雰囲気も、

少しは晴れた。

「おし!着いた!」

そこは宿から六軒ほど、離れたところにある。


和葉と太陽は野菜を見ていた。

逆に言えば何事にも注意をしなかった。

後ろから迫る、

黒く大きな影が小さな英雄の首に手刀を決めた。

「ぐ・・ぁあ・・・。」

意識が朦朧となる。

その最中聞こえた。


太陽と小さな少女の小さな叫び声。

しかし、それは雨の音に掻き消された。



「あんちゃーん、しっかり働けー。」

女将さんが俺に喝を入れる。

「俺、一応客ですよ。」

「だからこそだよ。」

「なんでですか。」

「危険な客を匿っているのは私の方だよ。」

「危険な客?」

「あんたの事だよ、天下の大罪人《三ッ葉》。」

「なんのことですか。」

「一応私はこの街で一番顔が効くんでね。

情報は普通より早く伝わる。」

「それが何故俺と?」

「勘だよ。」

その一言には説得力はないが、強い自信に満ちていた。

「仮に俺がその三ッ葉だとして、なんで突き出さないんですか。」

女将さんは少しはにかんだ笑顔を見せて。


「太陽の笑顔を見たのは久しぶりだよ。」

そして続けた。

「例えあんちゃんが、天下の大罪人だとしてもね。

太陽は救われた。それだけでいいんだよ、理由は。」

一つ間を置く、そして、

「ありがとうございます。」

俺はそういうしかなかった。

「しかしあんた、《月見姫を攫う》って、大胆なことしたね。」

唐突に言われたことを認識する前に一つの大きな声が俺の耳に響く。

いや、それは声ではない、悲痛な叫びにも聞こえた。

「師匠!!」

声の主は太陽だ。

そんなのはとっくにわかっている。

「どうした。」

雨の中、走りに走ったのか、裸足であった。

ずぶ濡れになった、体は一つ一つの肌をたたせる。

「和葉が、、贋造組に、、連れてかれました。」

言葉は途切れても繋ぐのは容易かった。

しかし、判断を鈍らせる。

表立ったことをしすぎると、

尻尾が掴みやすくなってしまう。

「俺のせいで、和葉は、、」

「男がメソメソすんな、和葉は、まだ無事なはずだ、行くぞ。」

内心は焦っていた、いや、どちらかというと腹を決められた。

そりゃそうだ、いずれこんなことだってある。

旅は道連れ世は情けってやつか?勉強は苦手だ。

「贋造組ってーのは、どこにあるんだ?」

「すいません、俺もよく知らないんです。」

申し訳なさそうな顔してそう答えた。

「あいつらの居場所なら、私が知ってるよ。」

その瞬間だ、一つの黒い筋が女将の真横を通った。



──ポツポツと、雨が地面を打つ音、それにも負けない、カツカツと、下駄が地面を弾く音

場所という場所、それはわからない。

だが、見つけられなくはないだろう。

なぜか、それは奴らのほうから現れたからだ。

あの時、女将さんの首の横を通ったのは、≪一つの苦無くない≫、

そこには、紙がついていた。

内容は、場所の指定、取引内容。

どちらもくだらないものだった、だから破いた。

場所は街の役所。

取引内容はいずれわかることだ、今は語らないでおこう。

「師匠、速いっす、走るの。」

息が切れ始めている太陽の言葉は、途切れ途切れだった。

「もうすぐだ、我慢だ。」

太陽の能力についても多くは語ることはない、

それは、もうすでに説明してあるからだ。

≪英雄≫の立ち振る舞いだと。

役所についた、その時だ。

一つの物音、それは鉄を鉄ではじいた高い音。

「太陽!伏せろ!」

咄嗟に叫ぶ俺だった、太陽は伏せるというより転ぶ形になっていた。

役所の入り口、そこから出てきたのは黒い針、いや大量の刀。

苦無の数は計り知れず、一瞬刀のようにも見えるその速さ。 

「・・・っく。」

さすがに目の限界があった。一つ一つとよけるのは無駄、そう判断した。

「心拳『枝垂桜しだれざくらの構え』」

その構え、まさに枝垂桜のごとししなやかに枝垂れる構え。

不利な点のほうが多いが、この構えは、利点が強い。

その利点、まさしく、柔軟でひ弱に見えるが、枝のように頑丈なとこだ。

一つ一つの苦無に対応はできないが、急所を避けれれば勝ちだ。

そして幸いに、下のほうには落ちない。

俺は言った。

「太陽このまま、中に行け!」

太陽の返事はなかった、だが強い意志を感じた。

そして俺は、掠り傷を大量に背負った、右頬に三本の後世に残る傷跡ができた。

苦無の嵐が終わった、気付けば俺は囲まれていた。

さすがの俺もこれは堪える。

「まさに万事休すか。だから俺は勉強が苦手だって。」

この状況、あの時を思い出す。

こんな俺にも、一つのしっかりとした過去がある。

それは、また後で語ろう。

ここで、生き延びられていたら。

「者共、このコソ泥を捕まえるんだ。」

中心核の人物らしき人、悪魔でも頭ではない人が掛け声をかける。

なんだ、もしかしてこいつら俺を突き出すために、和葉を攫ったのか。

不思議と笑みがこぼれる、狂気の沙汰ほど面白いってやつか。

「てめえら破落戸ごろつきごときに、

この天下の大罪人≪伊吹いぶき三ッ葉≫が捕まえられるか?」

「大口たたくのもこれで最後だ、お前が捕まるだけでどれだけの人が安心できるか。

これは世の中の平和のためなんだよ!」

「ほざけ、外道が。」



─その頃、少年は。

「どこに行けばいいんだ?」

道に迷っていた。

外の騒ぎはひしひしと伝わってくるが自分にはどうしようもできない。

ならば、任されたこのことを成し遂げる。

少年は、焦っていた。

また一人になるんじゃないか、

自分のせいで大切なものを失うんじゃないか。

自分の力で誰かを助けられるか。

頭の中でその言葉が回っていた。

一つ一つ最悪のことを考えてしまう。


─いや、違う。

助けられなくても、感謝をしてくれる人がいる。

自分を信じて、先に行かせてくれた人がいる。


何より、四日という日々を過ごさせてくれた人達がいる。


負けるのが怖い、死ぬのが怖い、失うのが怖い。

いや、一番怖いのは、『自分の存在の意味を考えるのが怖い』。

何もかも、割れた鏡のように映す自分の目。

それを直してくれたのは、他でもない、あの人たちだ。


少年は、心の中で自己完結をした。

まるで袋小路から抜け出すように。


そして、一つの扉を開けた。

そこには、最後の試練が待っていた。

「よぉ、久しぶりだな。向日葵家の死にぞこない。」

贋造組・かしら登藤のぼりふじ贋造がんぞう

「こっちは、初めて会うんだ、だけどお前は悪い奴だってのは知ってる。」

「そうか、それで、今日はどっちを取り戻しに来たんだ?

親の形見の手鏡こいつかそこにいるちび助か。」

よく見ると、和葉が牢獄の中にいた。

幸い簪は、取られていないみたいだ。

「どっちだ?」

贋造はさらに聞く。

「答えを焦るなよ、つーか、簡単なことだ、両方に決まってんだろ。」

「仕方ねえな、両方か欲張りな野郎にゃ、過酷な試練が必要だよなぁ。」

そういうと、破落戸が、一人、たった一人だ。

太陽の前に現れた。

「お前はそいつに勝てば、両方返してやる。

負けたら外のやつもお前も命はない、だ。どうだ?」

少年は、笑った。

「てめえの面に、一発拳骨入れる大盤振る舞いでどうだ。」

「威勢のいいガキだ、やってしまえ。」

和葉、その目は、こっちを見ている。

そして、無茶をするなと訴える。

しかし、その願いは届くはずもない。

大きな破落戸、大男は、太陽に向かって右こぶしを振りぬいた。

太陽はひょいっとよけるが。どうも攻撃をするには間合いが足りない。

殴りをよけるのはいいが、相手の懐に入れず。

悩んでいた。

いや、見つけた。

大男がこちらをめがけてこぶしを振りぬく、その刹那

太陽は伏せた、いや、倒れた。

倒れるのに身を任せたからだはそのまま地面にぶつかりそうになる。

しかし、その体を自然と出た足によって前へと一気に詰める。

そして、体重を乗せた右こぶしを、大男の懐へぶち込む。

それは渾身の一撃。


だが、大男は、平気そうに懐に潜った太陽を締め付けた。

「グァ、ガァ。」

苦しそうなうなり声が上がる。

「変わらない、お前も、お前の親父も!自らを犠牲にしてまで、そこまで守りたいものなのか!」

贋造は俺に対していっている。

「お前たちは、わかっていない、宝の価値を、だから奪うんだ。」

だんだん意識が遠のく、

「太陽、貴様も親父のもとへ行くがいい。そろそろとどめを刺してやれ。」

贋造は大男に命令した。

「やめろ。」

和葉が言った。

しかし、聞くはずがない。

さらにきつく、締め上げていく。

「ぁ・・・・」

声すら出なくなっていく。

太陽の意識はほとんどない、

死を悟った。どうせ、また負ける。

「やめろといっておる。」

和葉は続ける。

しかし、続く。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


少年は心の中で思った。

俺の存在の意味、

そんなのを最後に考えるのか。

しかし、少年は気付いた。

ここにいる、それは、

『好きな人を守るためにここにいる』。


それが存在の証明の言葉には充分だった。


─その時、少年は意識を取り戻した。


締め付ける、その攻撃を、払った。

突然の言わば、《英雄の証としての覚醒》。

大男は流石に驚く。

しかし、太陽は情けをかけない。

驚いた顔でこちらを見ている腹に。

3発、いや4発右拳で殴った。

よろける大男、その世界は到底、現実とは言い難い。

しかし、太陽は最後の一発を大男の顔に決めた。


「これでどうだ、満足したか。」


贋造は、唖然としている。

しかし、

両手を挙げ、手鏡を破ろうとしているのがわかる。

それに気づいた、太陽は止めようとするが、

覚醒の反動が体を蝕み思うように動けない。


そして贋造が両手を下ろそうとした時だ、


「宝の価値をわかってねえのは、お前なんだよ。」


そう言いつつ。

目では追いつけぬ速さで贋造の真下まで行く一つの影。

「天下の大罪人、伊吹 三ッ葉、ここに見参。」

と変なノリで入ってくる。

しかしその体、血塗れである。

「てめえ、あの連中をどうやって倒した。」

「自分たちの苦無で自滅したんだよ。」

あの時、枝垂桜の構えで、下に落ちないと説明した。

その時に上に打ち上げていたのだ。

数えれば約数百本。

上から降ってくる苦無の雨。

三ッ葉は、それを避けて早めにここまで来て、

太陽の戦いっぷりを見ていたのである。


「そうか、俺の負けか。」

贋造は、あっさりしていた。

「負けたなら仕方ねえ、持ってけ。」

何か仕掛けてあるんじゃないかと疑う。

「警戒すんな、何もねえ、負けは負けと決める主義なんだよ。俺は。」

その時太陽が起き上がる。

「よう、太陽目覚めたか。」

「お陰様で苦しいけどな。」

二人の会話を聞きつつ和葉の元へ行く。

「おめえの親父と、母さんの居場所を知りたいか?」

少し躊躇う太陽、

「生きてるのか?」

「もしかしたらな、絡繰都市からくりとしに行け

ば。会えるかもしれん。」

「絡繰だ?何故そんなところに。」

「そこに有名な絡繰技師がいる。何せそいつの絡繰は、絡繰と言うよりは、生きたものを見ているようだと。評判でな。昔に俺も一つの依頼をした。」

「それがこれと何の関係がある。」

少し声は苛立っていた。

「焦んなよ、なんせ十年も前にした依頼だ。」

太陽はむすっとした顔で聞いてた。

「俺にもよ、一人の嫁さんが昔はいた。

そいつは、とんでもねえぐらいべっぴんさんでよ。

こんな顔の俺には釣り合わねえぐらいだ。」

贋造が話し始めた。

「その嫁さんがよ、十年前によ、

死んじまってな、原因は元々弱かった体にかかってた重度の負荷。

俺はこんな柄だからよ。気づけなかった。

だけどあいつは、

『あなたと、過ごせた日々、本来私にはなかった日々をくれてありがとう、出来れば、もう少しあなたのそばに居たかった。』って言ってたんだよ。

俺は、その言葉が本当にそうなのかどうかわからなかった。

最後まで俺に気遣っていったんじゃねえかって。」

段々と声が沈んでく。

「俺はだから、絡繰技師に頼んだ、こいつを蘇らせてくれってよ。そしたらよ、実験が必要だその為の人を連れてこいって言われたのが始まりだった。

そんなの、信じた俺を殴りたい。


そんなことしていたら、お前ら家族に出会った。

そして《真実の手鏡》を、見つけた。

これならあいつの言葉の審議がわかると思った。


馬鹿だよ俺は、そんなことしなくたってよ。

あいつの言葉が真実だってのに気付けたのに。

お前らを見てわかった。

人の言葉には裏がある、

だけど裏の裏は真実なんだってよ。

嫁は俺のことを贋造って呼ぶのに。

あなたと二回呼んだ。

そういう事だったと今気付かされたよ。」

太陽は情けなく泣きそうだった。

「すまんな太陽、自らの欲に任せ、

いろんな人の大切を奪った。

償いきれるかわからんが。今後は、街に尽くす。」

「絶対だな?約束しろ。」

「約束だ、男に二言はない。」

そうやって、いった贋造の手鏡には、

贋造の真剣な顔が写っていた。

その日、この街での俺たちの出来事は終わった。

和葉が俺に問う。

「悪い人なのか悪くない人なのかわからん。」

「たくさんの罪を犯した人は、この世にたくさんいるんだよ。

許されない罪かもしれない。

だけど、それに固執してたら、前には進めない。

罪ってのは誰かに許されるまで脚にかかってくる、

言わば呪いだ。」

「そんなものなのなんな。」


その日の後の出来事だ。

俺な倒した奴らは一応軽傷で済んでたらしい。

頑丈だなあいつらも。

俺たちは、その日の次の日に街を出た。

小さな英雄と、真実の手鏡を引っさげて。

そして自分にこの旅が怖いかを問い鏡を覗く。

そこには、楽しそうな俺の姿が映っていた。







3話目の投稿はだいぶ遅れました。

さてどこまで進んでいるのかわからないこの物語。

私の中の構想では

次のお話を上下に。

さらに次のお話は上中下にして、そこで、このお話は終わりにするという考えです。


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