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盗人日記  作者: 一二三 九十九
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二つ目「魅惑の簪」

あの夜、そう桜花家を逃げたした。

背中に小さな温もりを感じながら、

夜の街を行った。

ここは、余り土地勘のない俺にはここが何処だかは、

わからなかった。

だが、北に向かえば江戸に着くってのわかってる。

さて、これからどうするか。

とりあえず、北に向かえばどこかわかる土地に出る。

そう思う矢先だ、

「雨か──。」

顔に少し冷たい雨が当たる、

俺は和葉が濡れないように顔に布を被せた。

それにしても冷たいな、春だと言うのに。

しばらくして、何も無い田舎道に出た。

あれからかなりの距離を走ってきた。

流石に体力が持たない、ちょうど腰掛けにちょうどいい、木陰を見つけた。

和葉を降ろして、俺も座った。

すると、和葉が目を覚ました。

「三ッ葉、ここはどこなんぞ?」

「わからん。」

「そうか、夜中に雨とは、またいいものなん。」

「腹が減ったな。」

「あれから、どれくらいたったん?」

「わからん、後少しで、夜明けは近い。」

日が出る、まで待つか。

ぐぅ、と腹の虫がなる。

「わっちも腹が減ったのだ。」

「どうするかな。そうだな、耐えろ。」

「辛いなん。」

「仕方ないだろ?」

「そうなん、けど、わかった、耐えるん。」

そう駄弁っていると、

「おう、そこにいるお兄さん。」

──!追っ手が来たのか?!

とりあえず平然を装うか。

和葉が、俺の服の裾を引っ張る。

俺は小声で話しかけた。

「どうしたカズ。」

「あのお姉ちゃん、三ッ葉の友達なん?」

「俺の友達にあんな、強そうな女子はいない。」

「おーい、聞こえてんぞー。」

「カズ、知らない人に話しかけられた時はどうすればいい。」

「わからないん!話しかけらとこがないのだ。」

「おーい、そこー、聞こえてるって。」

「恐らくこいつは俺たちを食いに来たんだ、そうに違いない。」

「なん!逃げなわっちは食われとうない!」

「聞こえてるって言ってるだろうがぁ!」

と言いつつ、俺に肘鉄を食らわせた。

「ごふ──。」

「あっやべ、にいーちゃーん!」

意識が飛びそうになる。

「とりあえずうちに来い!」

「和葉、これはついてったほうがいいぞ。」

「うむ。」

暴力女の後について着いたのは、

「ここが私達の村『蠱惑村こわくむら』だよ。」

村の入り口から見たのは、活気ある人々の姿。

朝早いってのに、よくも起きてるな。

「とりあえず、兄ちゃんと嬢ちゃんついてきなー。」

「これから、なにするん?」

「腹減ってるんだろ?うちに来いよ。」

「気持ちはありがたいが、俺たちは、ただの旅人だぞ。いいのか?」

「逆に駄目か?道端で腹空かしてるやつを放って置くほうが飯が不味くなるってもんだよ。」

この女、中々に人として心が育ってるな。

「そうだな、お言葉に甘えて行くか。」

「最初から来いっての。」

「ありがとなん!」

その日、朝日を見て俺の1日が始まった

「父ちゃん、客だ客。」

「なんだ、『鈴花れいか』、朝早くから。」

「腹空かしてるから連れてきたんだよ。」

「それならそうと早く言え!そこのにいちゃんと嬢ちゃん!座って待っとけ、すぐ作って持ってくるからな!」

「あ、ありがとうこざいます。」

そう言って親父さんは、厨房へ向かった。

座って待っていると、鈴花が話しかけてきた。

「そういや、あんたら名前は?」

「俺は、《三──、双葉ふたば》っていう。」

和葉がこっちを見て何か不満そうな顔をする。

「わっちは、和葉と言うん。」

「双葉と和葉ね、私は鈴花、《明蘭めいらん 鈴花れいか》と言う。」

「ありがとな、鈴花、飯までもらって。」

「ありがとなん!」

「なんか怖いわ、急に態度変わるから。」

「俺はお前が怖い、話を聞いてないだけで、殺しにかかる人なんて。」

「うるさい、これでも明蘭家は代々武闘派一家なんだよ。」

「ほー、道場でもあるのか?」

「あるよ、たまに小さい子に教えてる。」

「なぁなぁ、三──双葉、

武術とは何のためにあるん?」

そう和葉が聞いてきた、俺は下を向いた。

今まで、俺はそんなこと考えなかった。

この力は盗人をしていたら自然と身についた。

誰かの何かを《奪う》為の力だ。

「和葉ちゃん、武術ってのは、《守る》ためにあるものなんだよ。」

「鈴ねぇ。守るって何を守るんか?」

「それは、人それぞれの考え方だけど、

私はこの村をここに住んでいる人たちを守るため。

そう考えてるよ。」

──逆だ、考え方が。

そうだ、今はこの力は《和葉こいつ》と自分の身を守るためだ。

「鈴ねえ!わっちに武術を教えてくれんか!」

「和葉、それはここに居候する事になる、鈴花達に迷惑だろ。」

しょぼくれる、和葉、しかし鈴花は

「そうだな、一つ賭けをしよう。」

と言った。

「賭け?」

「そうだ飯後の軽い運動だよ、

私と双葉が手合わせするだけだ。」

「お前、俺は女に手を挙げる趣味はねえよ。」

「違う違う、悪魔でも手合わせ。私男にも負けたことないからね。」

「俺みたいなもやしでいいのか?」

「何言ってんだ、私の肘をくらって平然としてる奴が只者ではないのはわかってる。」

それだけ自信あったのか。

そう話していると、親父さんが

「持ってきたぜ、しっかり食いな。」

しかし、案外繊細な料理が出てきて驚く

「おいしいのん!」

「そうか、ありがとな。嬢ちゃんは、何歳なんだ?」

それは俺も気になっていた、だが聞けなかった

「わっちは、12歳になるん。」

「私の5つ下か、双葉は何歳なの?」

「俺は20だ、まだ若いぞ。」

「若いモンは元気が一番!」

そして、朝飯を食べて終わる。

和葉は、食べ過ぎて動けないと言っている。

「さあ、約束の時間だよ、道場へ行こう。」

「本当にやんのな、手加減はしたほうがいいか?」

「手加減はいらないよ、本気でこい。」

「カズー、道場に行くぜー。」

「今いくのー!」「転ぶなよ〜。」

和葉が、慌てるようにして、後を追いかけてきた。

そして、道場についた。

中では朝の稽古のために門下生が待っていた。

「鈴ねえ、そのおっさんは誰?」

「おっさんて、まだ若いぞ?」

「黙っとけおっさん。」

「双葉はおっさんなん?」

「このおっさんは、今日私と手合わせする人だよ。」

「お前までおっさんて。」

「鈴ねえと手合わせ?すごいことが始まる!」

門下生の子達は、御駄賃をあげたときみたいに騒ぎだした。

しばらくして、俺と鈴花の手合わせが始まった。

『よろしくお願いします。』

と言葉を交わしたその刹那、

鈴花は、横に倒れていた。

正確には倒した。

「どうだ?まだやるか?」

俺がこう言うと、

「いやいい、和葉の入門を認めるよ。」

その声は、少しばかり、涙ぐんでいた。

そして周りを見ると、門下生は口を開けたまま動かない。

「双葉、強いんな!」

そう和葉が言う。

こうして、『明蘭家』にしばらくお世話になることになった。

毎朝和葉は、日の出前に起きて稽古に励んだ。

俺と二人の時は《三ッ葉》、それ以外は《双葉》

そう俺のことを呼んでいた。

和葉は、

「追っ手はこないんかな?」

と心配してくる。

「来たら来たで、その時だ。」

の一言で安心したらしい。

俺は村の中を歩いて逃走ルートと、夕焼けの綺麗なとこを探していた。

そして、一つの穴場を見つけた、町の端にある。

小さな神社《蠱惑神社》だ。

いつか、和葉を連れてくるかな。

そして、桜の蕾が開き始めた頃。

大体二週間ぐらい経った頃だ。

その日の夜の事、もう俺たちの旅立ちを、

祝福してくれた月も殆ど欠けたとき。

親父さんと、鈴花が話をしていた。

「父ちゃん、来たよ。この時期が。」

「もう二度とあんなことを起こさせない。」

「今年も、見張り番を頼む、鈴花!」

「わかってる、《魅惑の簪》を狙う奴は私が倒す。」

「あれは、もう二度と外に出してはいけない。」

「母ちゃんが、いなかったら、この村はなかったもんな。」

盗み聞きせざるおえなかった。

《魅惑の簪》か、気になるな。

そして、会話の最後に

「新月の頃だよな、いっそあんなもの、盗まれて仕舞えばいいのに。」

と言うと、親父さんが鈴花の頬に平手打ちをした。

そして我に帰ったかのようにして。

「すまん。」

「いや私が今のは悪かったよ。」

その会話をしてその日は終わった。


そして次の日、その会話で悩んでる俺に

和葉が話しかけてきた。

「三ッ葉、鈴ねえのお母さんていないのん?」

「わからん、だけど、気になるよな。」

「この前なん、わっちが稽古してたらな、

『もうすぐお母様の命日ですね、この村があるのは、

お母様があの簪の呪いを払ってくれたからです。」

と言ってたのが聞こえたん。」

──「盗んでくれないかな。」

あの一言は、まるであの時の和葉の様だった。

《変わることを望んでいる》

恐らく、その簪があるからこそ、

鈴花は、窮屈な思いをしている。

それは、普段の自身の強さと自信の強さで見せなかったが、

あの時俺に負けた時、一瞬だけ気持ちが溢れそうになった。

「なあ、和葉。」

「なん?」

「この村はいいとこだよな。」

「そうなんなー、わっちもそう思うぞ。」

「明後日、この村を出ることになる。」

「わかったん、準備はしとくん。」

案外あっさりしていた。

「いいのか?」

「何がなん?わっちは三ッ葉と一緒に行くと決めた。

それは、行き当たりばったりかもしれん。

だが、三ッ葉といれば、わっちは、大きくなれるんよ。」

「わかった、明後日の夕方、出るぞ。」

そう言ったあと、和葉は、

「後でな、門下生達で、手合わせをするん。」

「おう、見に行くぜ。」

そう言うと、満面の笑みで

「絶対勝つのん!」

と言って道場に走っていった。

和葉は、稽古始めた頃、鈴花に、

「素質はあるけど、体力がない。」

と、言われていた。

さてどうなったのか。

俺は和葉の手合わせを見に、道場へ向かった。

その夜──。

「惜しかったな、あと少しで勝てそうだったのにな。」

「やっぱり、体力だな。和葉は、体力さえなんとかなれば、あの子達の中で一番の能力があるのに。」

「むぅー、わっちは、納得いかん!」

「もっと稽古すれば、体力着くから、ちゃんとやろうね。私も付き合うから。」


「あ、ありがとなん。」


その声ははっきりとした涙声だった。

そりゃそうだ、もう、明日でここから、離れる。

そして耐えかねた、和葉は、泣いた。


その涙の一つ一つに、たった二週間の思い出が、

詰まっていた。

「ど、どうしたの?大丈夫?」

鈴花もさすがに動揺している。

「大丈夫なん。」

その日の夜。和葉は泣いた疲れか、深く眠った。


俺が寝ようと布団に入った時、

「双葉、起きてるか?」

「なんだよ。」

「私さ、負けたことなんて一度もなかった。」

「俺に負けたことか。」

「初めて負けた時、こんなものなんだって思ったよ。」

「それがお前の実力だからな。」

「ありがとな、私に負けることを教えてくれて。」

「それだけか?」

「それだけだ、悪いか?」

「悪くねえよ、早く寝ろ、風邪引くぞ。」


そして、村を出る日が来た。

もちろん誰にも言っていない。

「和葉、夕方にこっそり出るぞ。」

「三ッ葉、今度は何をするん?」

「ちょっと、ある家族の《宝物》を盗まなきゃいけねえ。」

その日は、あっという間だった、

旅に備えて、必要なものを買い揃えた。

夕方、あの神社に和葉を連れてった。

「ふぉあ!すごく綺麗なん!」

「だろ?これをずっとカズに見せたかったんだ。」

和葉は言ってた、旅立ちを決意した時、

───「外の世界を見てみたい。」

俺はこの言葉を、裏切らないようにする。

俺に目的がない今、和葉の目的が俺の目的だ。

そして、日が沈み見えない月が昇った。

神社の神木の、木陰に座っていると。

淡い紫色の光が神社の敷地全体から出ている。

これが、《魅惑の簪》の影響か。

そして、俺は神社の中に入った。

和葉は、神木の木陰に座らせている。

《魅惑の簪》は、木箱の中に入っていた。

俺はその箱を開け中から簪を取り出した。

すると、その、淡い紫色の光が、薄れていった。

俺は神社の中から外に出た。

───そして。

「やっぱり、あんただったのか。」

「よ、こんなとこで会うとは奇遇だな。」

「双葉、いや、三ッ葉、私はその簪を守る義務がある。」

「そうか、俺はこいつは誰かが持っていった方が、いいと思うんだが。」

「確かにそいつは、私からしたら、あるだけで憎しみが、悔しさが湧いてくる。

だけどな、母ちゃんの形見なんだよ。」

「だったら、取り返してみろよ、俺からよ。」

「言われなくても、やってやる。」

鈴花は、右拳を俺に向け、注意をそっちにそらして、

左足を俺の脇腹に決めた。

俺は少しふらついたが、その左足を掴み、動こうとすると、鈴花を転ばせた。

そして、転んでいる鈴花に、

「俺が、お前の悪夢を持って行ってやる。

だから、これからは、強がるな、泣きたい時は泣けばいい、誰もお前の涙を笑う奴はいない、素直になれよ。」

そう言って、神木の方に向かっていった。

「行くぞ〜、和葉。」

「その簪、どうするん?」

「お前つけてみるか?」

「付け方わからないん。」

「じゃあ、俺がつけてやるよ。」

そして、俺は和葉の髪に、簪を着けた。

その姿は、また一つ成長を遂げた、姿だった。


そして、獣道に

「ありがとう、またいつでもこいよ!」

と言う言葉が、夜中の顔を隠した月を呼び戻す様に

空高く、何処までも響いた。


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