砂漠のオアシスとシルクゴート遺跡
僕たちの乗った軍艦がブリムーンの港町に到着したのは、ちょうど正午を報せる合図の鐘の音が聞こえているときだった。
ブリムーンの港町は、先日出発したイーストロンドの港町に比べると断然小さく、人口も少なそうな規模の小さい町のようだ。
軍艦からの荷物や馬や馬車を軍人、作業員の総勢で荷下ろしをして、シルクゴートの町にあるシルクゴート遺跡へ向かうのだ。
僕と白蛇のスゥはこれまで通りハリスの荷物に潜り込む。カラスのフゥは上空から様子を伺い隙を見て馬車に乗り込む予定だ。
馬車には8人ずつに別れて雇われた調査員が乗り込む。思った以上に調査員は多く雇われていて、馬車は7台もの列になっていた。これから半日以上の間、シルクゴートまでの道のりを旅する。
罪人だろうか、強制労働に駆り出された者もいるようだ。馬車も用意されず、重い荷物を持たされ砂漠を 徒歩で行かなければならない。
そろそろ僕らの馬車も出発の時間のようだ。
ハリスの荷物の中から外の景色をこっそり覗き見る。馬車の震動が心地よく眠くなる。スゥは昨晩寝るのが遅かったからか眠っているようだ。ぼくも景色を見たり臭いを嗅いだりしていたが、代わり映えのなく何もない砂漠の景色。そのうちうとうと眠ってしまった。
砂漠のオアシス シルクゴート
その昔に実在した魔術士シルヴレインが作ったとされる町で、何もない砂漠に魔法によって水を生み出し、それがきっかけで人が集まり町になったという伝説があり当時の街並みなども遺跡として残っている。
魔術士シルヴレイン。
噂に名高い13賢者の一人で大魔術士。
氷の魔術を極めたとされており、墓のどこかに魔導書を納めたとの記録も見つかっているらしい。
シルヴレイン自身の墓が町の中心部に残っており、信仰の対象となっている。この土地に暮らす人達にはシルヴレインは神として扱われ、未だ尊敬されている
これから向かう墓地も人気の観光地になっていて、各地からの観光客も多いらしい。墓標も手入れが行き届き綺麗である。
その観光地の墓地の地下に、最近まで見付かっていなかった新たな地下道が発見されたのだ。
内部の調査は少ない人数の軍人と考古学者だけで進めているが、地下道の内部は想像以上に広く複雑ならしく今回の人員補充に至ったのだろう。
馬車の列は砂漠を進む。昼間は暑いけど日が暮れて夜になると急激に気温が下がり寒くなる。これも僕には初めての経験だ。
僕達がシルクゴートの町に着いた頃は、もう夜も遅くなってしまっていた。
普段は観光地らしいが現在は軍に封鎖されていて、一般人は全くいないようだ。
軍隊の人達はそれぞれ決められたテントが用意されていて、旅の疲れもあって早々と眠ってしまったようだった。きっと明日の朝も早くから起こされるのだろうし。
僕達は軍隊と一緒に寝るわけにはいかないし、ハリスのテントにも他の調査員や軍人がいるから一緒にはいられない。
だから僕達は、こっそり抜け出して荷物用のテントに潜り込んだ。ご飯もすでにハリスから受け取り、
確保できている。
「モグモグ…これからどうするの?モグモグ…」
「パクパク…そうだな…とりあえず…パクパク…朝早くに起きて、遺跡に潜り込まないと…パクパク…軍隊と鉢合わせに…パクパク…なるからな…パクパク…」
「二人とも行儀悪いよ…」
「それじゃスゥ、朝起こしてくれよな。」
「え~。」
そんな感じで作戦会議も終わり僕たちも眠りにつくことにした。
…そして早朝…
「フゥ…ミゥ起きて…」
スゥは優しく起こしてくれる。
「う~ん。眠いよお…」
何時間かは眠ったはずなんだけど、なかなか目が開かない。ほんの数分しか寝ていない気分。
でも早く起きないと鋭い牙で咬まれるらしいことはフゥから聞いている。
「…お、おはよう…スゥ…」
「…ありがとうな…スゥ…」
「どおいたしまして~」
素早い寝起きである。
ぐぐ~っと伸びをしてちょっとした毛繕い。
そして、大事な特製リュックを背負い準備完了。
中身は勿論お弁当。みんなの分もミゥが持つ。
遺跡というか墓地の地下はかなりの広さがあるらしいと聞いていたので、大袈裟かもしれないが3日くらいは潜れる量を入れてある。なかなかの重さだ。
だけど貴重なのだ。
遺跡の建造物や木などに隠れながら慎重に進む。兵士たちに見つかるわけにはいかない。
どうやら作戦通りに早朝に、決行したので兵士たちの姿はまだ見えない。
シルヴレイン墓地の地下入口であろう場所に近づくと見張りの兵士が入口の左右に一人ずつ見えた。
「やっぱりいるよな。いないわけないよな。」
「どうする?フゥ。戦う?」
「ダメよ。戦っちゃばれちゃうでしょ!」
見張りの兵士二人をどうにかしないと中には入れそうにない。
「よし。俺があいつらの気を惹き付けとくから隙を見てお前たちは中に入ってくれ。俺は飛べるし何とかする。」
僕とスゥは頷く。
カラスのフゥが囮になってくれる。
兵士二人の真上を飛び回りガァガァうるさく鳴く。
「なんだなんだ?!朝っぱらから五月蝿いカラスめ!あっちへいけ!」
兵士の一人が落ちている石ころを拾ってフゥに投げ付けている。…が、そうそう当たるものではない。
「ねぇ?スゥ。どうやって追い払う作戦なんだろう?なにか聞いてる?」
「え?どうだろう??たぶん…風の魔法得意だし…
たぶん風の魔法よ…たぶん…」
僕とスゥは兵士たちの隙を伺いながら様子を見る。
「今、チャンスなんじゃない?」
「行こう。」
「ミゥ!お願い。」
僕が走り出すと同時にスゥはお腹に巻き付いてくる。兵士たちの視界から死角に入るように移動していく。
その時である。カラスのフゥは兵士に向かってフンをした。兵士の顔面にピンポイント爆撃が決まる。
「うわっ!最悪だ!きったねぇ!!」
もう一人の兵士も地面に落ちている石ころを探し始める。もう見張りどころではないみたいだ。
「…なんてお下品…」
走る僕のお腹に巻き付いたまま、呆れるスゥ。
僕たちは割りとあっさり地下入口へ進入できた。
その後、もう一人の兵士も爆撃されたことはカラスのフゥと兵士二人以外誰も知らない…