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黒猫ミゥと謎の魔女  作者: ひろぽん
僕と魔女と仲間逹
6/10

黒猫とカラスと白蛇と

西側の窓から夕陽が見えている。もうじき陽が暮れるのにまだまだ暑い日だった。


カラスのフゥが聞きつけた情報は魔術士シルヴレインの墓に秘密の地下道が見つかったというものだった。リリーの話では、シルヴレインとは実在した過去の魔術士で氷の魔術を極めていたらしい。墓はかなり前から建っていたが地下道が見つかったのは今回が初めてのことだった。


「んで、今までみつかってなかった地下道なんだ。

絶対に魔導書があるんじゃないかと思うんだけどな。」


フゥは 興奮気味でちょっと自慢気だ。

でもリリーは真逆の反応で、探していた魔導書の情報なのにあまりうれしそうじゃなかった。


「……ふむ…。シルヴレインね…。フゥ、よくやったな。お手柄だ。」


そう言って、フゥを褒めてはいるが様子がちょっと変だった。


「よし!今回はお前たちだけで行くんだ。ミゥ、スウもフゥを手伝ってやってくれ。」


リリーは使い魔の僕たちだけで魔導書探しに行くように命じた。


「え?!いや…ちょっとリリーさん?俺たちだけでは、ちょっと無理じゃないですか?それに魔導書を見つけても俺たちじゃ運べないし…」


フゥはさっきまで興奮気味でテンションが高かったのに急に不安なのかテンションがガタ落ちになったようだ。


「大丈夫だ。その件に関しては手を打っておく。それに魔導書を持ち帰る必要はない。存在を確認できればいい。心配しないで行ってこい。」


僕たちは、やっぱり不安だったんだけどなんとか3匹だけで、頑張ってみることにした。


「大丈夫よ!みんなで力を合わせればなんとかなるわよ。たぶん…」


「そうだよな…スゥもミゥもいるしな…平気だよな。たぶん…」


「………。」


ちょっと不安だったけど、なんとかなるだろう。

そんなこんなで僕たち使い魔だけのプチ冒険…いや、大冒険が始まる。






次の日の早朝、僕たちはアジトに集合して一緒に朝ごはんを食べてから出発した。

リリーは眠そうに目をこすりながらだけど見送ってくれた。


「お前たちなら、やれるさ。まぁ頑張ってこい。気を付けてな。」


「行ってきまーす。」


僕たちは、挨拶を済ませたらすぐにアジトを出て

森の中を歩いて街道に出る。茂みに隠れて近くを通る馬車を待つ。たぶんもうすぐに通りがかるはずだ。


シルヴレインの墓は砂漠にあるシルクゴートという町の側にあるらしい。まずは馬車に乗って港町のイーストロンドへ行くのが先決だ。そしてイーストロンドから船に乗って丸1日ちょっとでブリムーンの港町。そこからは目的地のシルクゴートまではまた馬車に乗るしか無さそうだ。順調に行ければ4日か5日もあればたどり着ける距離らしい。


とはいえ、これはリリーが教えてくれた、人間が旅するルートであり動物の僕たちが人間と同じように行けるとは限らない。僕は正直不安でいっぱいだった。


とはいえ僕はいつもの好奇心いっぱいで不安な気持ちすら越えていたんだ。みんなには悪いけどね。

それにリリーは手を打っておくと言っていたし信用していたからなのかもしれない。


「もうすぐ来るはずだよ。あっち方向に行く馬車に乗ればイーストロンドの港町へ行けるはず。あっ!ほら来たよ!隠れて!」


僕たちは茂みに身を潜めて馬車を待った。

そして馬車が近くを通りすぎる瞬間こっそり乗り込んだ。僕はジャンプして白蛇のスゥも身体をバネのように螺旋状にしてから器用にジャンプして飛び乗った。フゥは上空でしばらく待機して隙を見て滑空してきた。みんな上手に成功だ。

なんとか第一関門は突破できたようだ。

このまま馬車に乗ったままで見つからずに済めば夕方には港町のイーストロンドへ着くはずだ。


馬車に積まれた荷物の上でフゥが見張りをしている。スゥは早起きして眠いのかウトウトしている。

僕は王都グランフォードからイーストロンドへ向かう街道の景色を堪能していた。これから乗る船のこと、初めて行く街や初めて見る砂漠。全部が初体験の僕は楽しみでしかたなかった。


大きな王都が小さくなってやがて見えなくなってからしばらく行くと小さな町が見えてきた。どうやら馬車はこの町で止まるようだ。荷物を下ろしてまだ王都へ戻るのかイーストロンドへ向かうのか、それとも他の知らない場所へ行くのか様子をみるしかなさそうだ。


立ち寄った小さなホルスという町は寂れていて、人影はまばらだった。しかし店らしき建物の前には

何台かの馬車が停車してある。


「スゥはとりあえず荷物に隠れてな。俺は空からミゥは町で馬車の次の行き先を探ろう。運が悪けりゃ足止めだな。」


そう言ってフゥは上空まで一気に飛び立った。


「じゃあ、スゥ後でね。見つからないように隠れてて。」


「わかったわ、ありがとうミゥ。気を付けてね。」


そう言葉を交わし、隙を見て僕は馬車を飛びりてスゥは荷物の隙間に潜り込んだ。


これから情報収集だ。


フゥは上空から町の屋根に下りて止まり、周囲に幾つか停車している馬車の側で人間の話を盗み聞く。

僕は町の食堂のような場所へ忍び込むことにした。


なぜかというと、もうお昼時で馬車の

運転手も昼食を取るんじゃないかと思ったからだ。

決して僕がお腹が空いて、食べ物にありつこうなんて、いやしい気持は全くない。全くあるはずがない。そうだあるはずがないんだ。たぶん…


ここでリリーにもらった魔導器が役に立つ。閉まった扉や箱など何でも開けてしまえる魔法がかかっているからだ。僕は食堂の裏口からドアをこっそり開けて忍び込んだ。


食堂は、ちょうどお昼時なのもあって厨房はとても忙しそうで、僕の侵入に全く気がついていない様子だ。それにしても美味しそうな匂いだ。


厨房の食器棚の下に僕が通れるくらいのスペースがあって、そこを通って店内が見える場所へ移動する。厨房を含めて店内には8人の人がいて、お客さんが6人、店員が2人いるのが確認できた。


2人の店員のうち、一人は料理人で忙しく料理を作ってはお皿に盛り付けていく。それをもう一人がせっせとお客のもとへ運んでいく。


やがて待ちきれなくなったのか客の一人が怒鳴りだした。


「おぉーい!いつまで待たせるんだ!!俺の唐揚げまだか?!先を急いでるんだ!走りながら食うから包んでくれ!」


そう言って料理人を急かした。


「もう少々お待ちをー!」


料理人は大声で答えながら小声でちょっと愚痴る。


「うるせえよ、 ったく…。もうちょい待ちやがれ。」


そして大量に揚がった唐揚げを何人前か包んで客に直接持っていった。もう一人の店員も忙しく食器を洗ったり片付けたりしていたからだろう。


僕はその一瞬を見逃さない。

テーブルの上へ一気に飛び上がり大量の唐揚げの中から大きそうな唐揚げをひとつくわえて、また食器棚の下へ戻った。


旨い!僕はお腹が空いていたからか、すごく美味しく感じた。でもすぐに大事な用事を思い出した。


「いけない…ご飯を食べに来たんじゃなかったんだ

…イーストロンドやシルクゴートへ向かう馬車を探さないと…」モグモグ…


僕は唐揚げに後ろ髪を引かれながら客たちの話に耳を傾けた。僕は猫だから耳もよく聞こえる。ここからでもじゅうぶん話を聞き取れるんだ。


しばらく盗み聞きを続けていると、商人らしき一人からシルクゴートへ向かうと言う話が聞こえた。

なんだか昔の偉い魔術士の墓にお宝がありそうで探し出すのに人手を集めていて大勢集まってきているらしい。その昔の偉い魔術士とはシルヴレインのことだろう。


と言うことは、この商人らしき男の馬車に乗り込めばシルクゴートまで行けるということだ。うまくいけばイーストロンドで馬車を乗り換えたりする必要もないかも知れない。勿論、見つからなければの話だ。


「よし!フゥとスゥに報告だ。」…モグモグ


僕は隙を見てまた唐揚げつまみ食いして裏口から無事脱出した。


スゥと別れた荷物の場所へ向かうと、フゥは僕に気がついて屋根から滑空してきた。スゥも荷物の隙間から顔だけ出していて僕に気がついたのかすぐに出てきた。


「どうだった?何か聞き出せた?」


白蛇のスゥは僕に尋ねた。


「ミゥ…何だかいい匂いがするな…何か食べたのか?」


カラスのフゥは僕を疑いの眼差しで見る。


「とんでもないよ!ご飯を食べに行ったんじゃないし。ちゃんと情報を仕入れてきたし。」ドキドキ…


僕はドキドキしながらも何とか誤魔化して先ほど食堂で聞いた商人らしき男の話をした。


「なるほど…それでいい匂いなのね。」


白蛇のスゥも疑いの眼差しで見てはいたけど何とか信用してくれたようだ。


「まぁいい…それじゃあ、その男が出てきたら教えてくれ。また上手く乗り込まないとな。しかし腹減ったな…。」


カラスのフゥもなんとか信用してくれたかもしれない。


すると間もなく商人らしき男が、食堂から出てきて自分の馬車へ向かって歩きだした。


「あの人だよ!急いで!!」


僕は急いで話をそらせたのではなくて、二人を急かして馬車に乗り遅れないように促した。


男の馬車は大きくて簡単に乗り込めそうで、隠れるスペースもたくさんありそうだった。


「ミゥ!お願い!」


白蛇のスゥはとっさに僕のお腹辺りに巻き付いてきた。僕に馬車まで運んで欲しいようだ。

僕はスゥを巻き付けたままダッシュして馬車にいつでも乗り込める位置で身を潜めた。

カラスのフゥは上空からタイミングを伺っているのか降りてこない。


しばらくして馬車が動き出した。

僕とスゥは軽々と馬車に乗り込み、居心地のいいスペースを探した。このまま何とか終着点のシルクゴートまで行きたいものだ。しかしまだ難関は残っている。イーストロンドの港町で船に乗るからだ。

とは言え、今は先のことを考えても仕方がない。

順調に旅が続くことを祈るしかないのだ。


「あぁ良かった。無事に乗れたね。順調に行ければ明日中にはイーストロンドに着くかもしれないね。」


僕はスゥとそんな話をしながらくつろいでフゥが上空から降りてくるのを待っていた。


「降りてきたみたいね。」


スゥが羽音と気配に気がついて僕に言った。


ドサッ


「お待たせ~。いいもの手に入れたぜ~。」


カラスのフゥはどうやら包み紙に入った何かを運んできたようだ。


それが、何か僕にはすぐにわかった。

美味しそうな匂い、見覚えのある包み紙。

そうだ。食堂の唐揚げである。注文した唐揚げが遅いと怒鳴っていた男が包んでもらっていた唐揚げの袋だ。フゥはどうやら唐揚げを拝借してきたみたいだ。


「あぁ~唐揚げだね!これ美味しいんだよ!とってもジューシーでぷりぷりなんだよね。」


僕は唐揚げを見て、匂いだけでヨダレが流れ出てくるのを感じた。同時にフゥとスゥの僕に対する突き刺さる視線も感じた。


「お前…やっぱ食ってんじゃん!!」


フゥとスゥは僕にハモリツッコミをした。


その後僕には唐揚げが振る舞われることはなかった。その悲しい事件を僕は決して忘れないだろう。



永遠に…



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