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黒猫ミゥと謎の魔女  作者: ひろぽん
僕と魔女と仲間逹
2/10

魔女のリリー

僕が目を覚ましたのは、もう夕暮れのようで

寝ている場所から見える西側であろう窓から

夕日が射し込んでいた。


ここから見える部屋の範囲には誰も居なくて

また誰かの気配すら感じなかった。


わずかな記憶では、いつかは解らないけど

少し前に気がついたときにカラスと白蛇が

優しく介抱してくれていた覚えがあった。

確か名前はカラスのフゥと白蛇のスゥだったかな。

僕は少しずつ想いだしてきた。


そんなに広い部屋でもないし、よく見ると結構荒れていて住居というよりも、むしろ廃墟だった。


「ここはどこなんだろう… 僕は何でここにいるんだろう…」


僕はたった一人で、この知らない場所にいるのが

不安でたまらなくなり、家に帰ろうと立ち上がった。

身体中が痛い。僕は痛みと共に強盗のことや

おじいちゃん、おばあちゃんのことを思い出した。


「家に帰らなくちゃ。おじいちゃん、おばあちゃん

が心配だ。」


僕は自分がなぜ助かったのかも解らなかったけど

帰らなくちゃならないって思ったんだ。


僕はまだ上手く身体が動かせなかった。

歩くのがやっとで走るなどもっての他だった。

すぐにでも走って帰りたいのに、正直立っているのも辛い状態だった。それでも出口のドアの方へ

フラフラした足取りで向かった。


「そんな身体で、どこへ行くんだ?」


そう呼び止められて振り返ると、隣の部屋らしきドアの前で若くて可愛らしい感じの女の子が立っていてこちらを黙ってみつめていた。


女の子はまだ15か16歳くらいの少女のようで長い黒髪を後ろで2つに束ねたツインテールが可愛くて

ノースリーブのシャツにオーバーオールを着こなし何かの作業をしていたのか両手に荷物を持っていた。目は大きくてクリクリなんだけど、視線はなんだか冷たく感じた。


「よお!元気があっていいが、傷が開いちまうぜ!おとなしく寝てな。」


少女の肩に乗っているカラスのフゥが言った。

足下には白蛇のスゥもいる。

僕がキョトンとしていたからかフゥは少女を紹介してくれた。


「こちらは魔女のリリー。俺たちのご主人様さ。」


魔女と聞いて僕は驚いた。


「ま、魔女!?」


僕は人間ではないけど知っている。魔術士や魔女は捕まって火あぶりの刑になることを。

世界中で魔術士や魔女は昔から恐れられていて

使用する魔法の威力は絶大で度々起こる戦争でも恐怖の象徴となっていた。法律では魔法は禁止されていた。


魔術士、魔女は見つかると捕縛され、まともな裁判なども、されないまま処刑されていた。

けれど国力の維持、増強や政治の優位さを保つ為か

世界中の国家にはお抱え魔術士様がいるという噂もあるほどだ。


そんな恐ろしいイメージの定着した魔女が僕の目の前に立っていて、冷たい視線で見下ろされていたら

怖くて固まってしまっても仕方ないはずだ。


「まだ動かないほうがいいわよ。」


白蛇のスゥは心配そうに言った。スゥはリリーから離れて僕の側までにょろにょろと近くに来てくれた。フゥもリリーの肩から滑空してきた。

みんな僕の心配をしてくれているのがわかった。

でも、どうしても帰らなくてはならない。


「おじいちゃん、おばあちゃんが心配なんだ。どうしても行かなくちゃならないんだ。」


僕はリリー逹にそう言ってはみたものの

足下がフラフラとふらつきその場に倒れこんでしまった。


「だから言ってるのに…」


白蛇のスゥは少し呆れたように言った。

倒れて動けない僕をリリーが抱き上げて、さっきまで寝ていたソファーに優しく戻してくれた。


「ミゥ…お前は死にかけていたんだ。まだ出歩くのは無理だ。」


そう言って僕の頭から背中にかけて撫でてくれた。

どうやら怖い魔女ではないのかも知れない。けど

そんなことよりも、やっぱりおじいちゃん、おばあちゃんのことが気掛かりで仕方なかったんだ。


でも、リリーは僕の名前を確かに呼んだ。

僕はここに来てまだ一度も誰にも名乗ってはいないはずだ。カラスのフゥにも白蛇のスゥにもだ。


疑問に思ったので少し怖かったけど、勇気を出して聞いてみた。


「どうして僕の名前を知っているの?」


そう尋ねた瞬間、なぜ会話できているのか? という新しい疑問が浮かび上がった。


「あれ?何で?僕は君の言葉がわかるけど、君にも

僕の言葉がわかるの?」


さっきの応えも待てないで新しい質問をした僕をリリーは撫でながら、ゆっくりと答えた。


「お前やスゥやフゥの言葉が解るのは私が魔女だからだ。そういう魔法を使っている。それにお前の名前を知っているのは私がつけた名前だからだ。」


僕の喉をこちょこちょしながら、リリーはそう答えた。


「え?どういうこと?君は一体何者なの?」


僕が疑問に思っても仕方のないことだと思う。

おじいちゃん、おばあちゃんの言葉は理解できても会話はできなかった。だけど、このリリーと名乗った魔女の少女は魔法のせいでそれが可能だと言う。それに加えて僕の名前を知っているだけではなくて名前をつけたとも言うのだ。訳がわからない。


だけど同時に産まれてから、おじいちゃん、おばあちゃんに出会えた頃の記憶などがないのは、そのせいなのかもしれないと妙に納得できた。


リリーは僕から目を反らした。そして僕に背を向けたまま、ゆっくりとした口調で話始めた。


「そうだな… 私はリリー。魔女だ。そしてお前は私の使い魔だ。」


「使い魔? それは何?」


訳僕に、リリーは解りやすく言葉を選んで話しているように思えた。


「使い魔とは魔法で契約した召し使いのようなものだ。スゥもフゥも同様にな。」


そう聞かされたが、ちっともわからない。

使い魔?契約?なにもかもわからないことばかりだ。


「子猫だったお前に“ミゥ”と名付けて、あの時計店の老夫婦に預けたのも私だ。」


僕は訊ねた。


「なぜ、おじいちゃん、おばあちゃんに僕を預けたの?」


「偶然立ち寄ったあの時計店で飼っていた猫が死んだんだ。寂しそうな二人を見て、お前を預ける提案をしたんだ。で、快く預かってもらえた。」

僕は少しずつ納得できた。


「よくわからないけど、なんとなくわかったような気がするよ。でもおじいちゃん、おばあちゃんはどうなったの?早く帰らないと心配なんだ。」


僕は必死に訴えかけた。

リリー逹は何も答えてはくれず、しばらく沈黙がつづいた。


「黙ったまま隠しても仕方ないな。わかった。知っていることは全部話そう。」


リリーはそう言ってから僕の目を見つめた。

そして優しく僕を抱きかかえた。


「出かけてくる。スゥ、フゥ留守を頼むよ。」


「行ってらっしゃい。ミゥ。リリー。」


スゥはそう言って見送ってくれて、フゥも黙ったままだが見送ってくれた。

リリーは僕を抱いたまま、出口のドアへと向かい、何やら聞いたことのない言葉を聞き取れないほど小声でつぶやき始めた。

僕はいわゆる、これが魔法の呪文なんだと悟った。


リリーは僕を右腕で抱いたまま、左手をドアへかざした。するとドアに魔法陣が浮かび上がりすぐに消えた。そしてドアを開けた先の景色は僕の見馴れた景色だったんだ。


僕の家、時計店のすぐ側の空き家のドアからリリーと僕は出てきた。けどさっきまでいた廃墟のような場所には確かに窓があった。


窓があって西日が射し込んでいたのを確かに見た。

それなのにこの空き家は両隣を建物が塞いでいて

西日はおろか朝日も差し込まない立地だったのだ。

まるで遠くまで一瞬に瞬間移動したかのような

イメージだ。


絶対おかしくて不思議な体験をしたけど、すぐに

リリーの魔法の仕業なんだろうと思った。


リリーは僕を抱いたまま、スタスタと歩いておじいちゃん、おばあちゃんの時計店へと向かった。


すぐ近くだ。次の曲がり角を左に曲がれば右側に見えてくる。僕は身を乗り出した。


リリーは僕が落ちないように、ぎゅっときつく抱いた。そして曲がり角を曲がった。


僕は目を疑った。僕は言葉を失った。


曲がり角を曲がり少し進んだ右側にあるはずの、おじいちゃん、おばあちゃんの時計店は崩れていて真っ黒に焼け焦げていた。


「何で?何で?」


僕は身体が震えて止まらなかった。

リリーはゆっくり話始めた。


「実はこの時計屋に時計を預けていてな。修理を頼んでいたんだ。お前の様子をちょくちょく見に来るついでにな。あの夜、火事に気が付いて急いで来たんだが、もうすでに燃え広がっていて、玄関先に倒れていたミゥを助けることしかできなかった。」


「すまない。」


リリーが悪いはずない。

僕は解っていたんだ。

僕は気が付いていたんだ。

全部思い出していたから

おじいちゃん、おばあちゃんが…


もう生きていないことを。

もう二度と会えないことを。

本当は解っていたんだ。

だけど認められなかった。

認めたくなかったんだ。



僕はリリーに抱かれたまま泣いた。

もう涙が枯れてしまうくらい。

産まれてから今まで、こんなに泣いたことがないくらい泣いた。


リリーは黙ったままちょっときつく抱いてくれた。


この時に気が付いたリリーの匂いはなんだか懐かしい匂いだった。

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